表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/848

第65話 「貴族令嬢の素顔」

 ぱん、ぱん、ぱああん!


 俺は、ステファニーの小さなお尻を10回は叩いたであろう。

 手加減は、当然した。

 レベル99的にはそよそよと触るか、触らないかというくらい。

 こう言うとトンデモなスケベ親爺のようだが、本当にそんな力加減なのだ。


『沈黙』の魔法で声も出せない、『束縛』の魔法で身動きも取れない……

 加えて俺にしっかりと抱えられ、どうする事も出来ないステファニー。

 痛みと屈辱に、ただ泣き崩れている。


 うん……もうそろそろ、許してやるか。


 俺は頃合と見て、尻を叩くのをやめた。

 あまり長居して、誰かに見られてもヤバイ。

 

 領主の娘に、尻たたきでお仕置きをする平民。

 もしも見つかったら、中央広場で公開死刑の斬首。

 絶対に、間違いない!

 

 空中に浮かんだ幻影のクッカも、小さく頷く。

 どうやら、俺と同じ考えのようだ。


『ステファニー』


『…………』


 俺の呼び掛けに、ステファニーは俯いて黙っている。

 さっきも言ったように尻を叩く際に充分、手加減した。

 直接的な痛みというより、プライドを完璧に破壊されたショックの方が大きいに違いない。


 黙っているステファニーに対して、俺は構わず告げて行く。


『今後は、父親の権力(ちから)を使って、領民を無理矢理下僕にするなんて絶対にやめてくれよ』


 俺の呼びかけに対して、ステファニーは相変わらず無言だ……


『…………』


 ステファニーは、生きている。

 屍ではないのに、返事がない。

 だが、ここはちゃんと返事を貰わなくてはならない。


 俺は、子供に対して促すように答えを求める。


『ステファニー、返事は?』


『…………』


『ほら、返事!』


『……はい』


 俺が再度促すと、ステファニーは、か細い声ながら何とか返事をしてくれた。

 反省しているようだし、相手は女子。

 もう、許してやろう。

 スペシャルサービス付きで。 


『ようし、それが聞きたかった』


 俺はステファニーを抱きかかえて正面に座らせると、回復魔法を発動した。

 治癒、回復、全快、慈悲、奇跡……全部で5段階ある回復魔法のうち、大サービスで『全快』の魔法をステファニーに掛けてやったのだ。

 

 全快の魔法を使ったのは俺の勘=内なる声が「そうしろ」と言ったせいもある。

 何となくだが、ステファニーの尊大で苛々した態度の一因が、彼女の体調不良にあるかもしれないと思ったのである。


 葬送魔法の眩い光ほどではないが、俺の手が淡く光るのを見て、ステファニーは目に驚きの色を浮かべた。

 もしかしたら、この町では魔法が珍しいのかもしれない。

 驚いたステファニーも、俺の発した光が自分の身体をに向けられて全身を満たすと、ぴくぴく身体を波打たせたのである。


『どうだ?』


『あ、あ、あれ? ……変! 何、これ!? どうして!?』


 先程から、驚きっ放しのステファニー。

 尻の痛みが無くなっただけでなく、身体が優しく癒された事に戸惑っているようだ。


『気分はどうだい? お尻……痛くなくなったか?』


『うん、うん、うんっ! お尻が痛くないっ、痛くないよ~っ、それどころか身体も気分もすっごく軽いのっ』


 俺はここで束縛の魔法を解除してやった。

 魂の波動で、もうステファニーが抵抗して暴れたりしないと分かったからだ。

 笑顔で応えてやる。


『はは、魔法が効いたみたいで、良かったな』


『ここ、これって魔法!? ケン……貴方って一体……』


 ステファニーは、驚きの目で俺を見ている。

 少なくとも、『ただの小僧』とは思わなくなったのだろう。


 しかし、俺は単なる『ボヌール村の小僧』で良い。

 だから、はっきりと言ってやる。


『俺はお前の領民でボヌール村の村民、ただそれだけさ。たまにこの町へ来るかもしれないが、俺はボヌール村で嫁達と暮らす。お前とはもうこうして話す事もないだろう』


『……でも私、貴方のせいでお嫁にいけない身体にされちゃった』


 お嫁に行けない?

 責任を取れってか?

 お仕置きで、お尻をぺんぺん叩いたくらいなのに?


 俺は苦笑しながら、話を続ける。


『馬鹿言え! お尻を叩いただけだろう? それにお前の従士達は俺の存在など忘れるような魔法を掛けてある。お前のお尻を叩いたのは、俺とお前ふたりだけの秘密さ』


『ふたりだけの……秘密?』


 秘密と聞き、ステファニーは、目を「うるっ」とさせた。

 ああ、リゼットの時もそうだが、この台詞セリフはやばい。

 『悪魔の囁』きと言って良い、背徳の響きがある。


 ステファニーは、じっと俺を見つめていた。

 俺と会った時、放っていた波動が全く変わっている。

 生意気で我儘わがままな波動から、何か、こう寂しげな、切なげな優しい波動に……

 

 さらさら金髪に、美しいブルーサファイアのような碧眼。

 健康女子の金髪碧眼のミシェルとは、趣きが違う。

 ミシェルが向日葵のような明るい美少女なら、ステファニーはちょっと派手だが、まるで可憐なフランス人形だ。

 そしてレベッカとはひと味違う、ツンデレ美少女の大変身。


 俺は少しだけ、ドキッとする。


『あ、ああ、本当はお前の記憶も消したいけど、忘却の魔法を掛けると俺とのやりとりで生じた今のお前の気持ちもリセットされてしまう』


『リセット……される?』


『おう! 俺の事だけじゃなく、反省した気持ちまで消えるんだ。そうなると、また会った時に「下僕になれ」って言われるだろう? それは嫌だからな』


 俺が言うと、ステファニーはいきなり俺に飛び付いた。

 そして両腕を回して「ぐっ」と強く抱きついたのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ