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第64話 「わがままお嬢様へ、お仕置きだべぇ」

 俺の申し出を聞き、ステファニーは身体をふんぞり返らせて答える。


「ふん! 何よ! 私は忙しいの」


「そこを何とかお願い致します! な~に、ほ~んの少しだけで構いません。けしてお手間は取らせませんよ」


 揉み手をして卑屈に頼む下僕らしい俺を見て、ステファニーも満足したようだ。


「アベル、アレクシ、アンセルム、仕方が無いわ、行きましょう」


 ステファニーは、顎をしゃくった。

 

 相変わらず彼女を先頭に、アベル、アレクシ、アンセルムの3人が続く。

 この3人、顔半分は髭のせいで年齢がいまいち分からなかったが、案外若いらしい。

 良く見ると顔の造作も似ているから、兄弟なのか互いに血縁関係があるのだろう。

 名前も全員『ア』が付いているし。


 それにしても、無口な3人だ。

 ステファニーの指示にも、ろくに返事をしない。

 そこそこ強そうだが、歩いている間に密かにスペックを見たら大した事はなかった。

 まあ俺より上のレベルなら、ステファニーの部下に収まっているとは思えないが。

 

 普通に戦えば楽勝。

 だが、俺は大立ち回りを演じるつもりはない。

 いくら人気(ひとけ)のない路地とはいえ、真昼間の町中である。

 衛兵に見つかったら面倒だし、目立たずスマートに片付ける考えだ。


 やがて俺達は、路地へと入る。

 さあ、もう良いだろう。

 

 瞬間。

 いきなり振向いた俺は、わざとらしくにっこり笑う。

 それが『戦闘開始の合図』だとステファニー達はすぐ知る事となった。

 

 喋ろうとした、ステファニーの声が……出ないのである。

 余計な悲鳴などあげさせない為に、声を出す事を封じる『沈黙』の魔法を同時発動させたのだ。


 ステファニー同様、喋れない3人の男が驚愕の余り、大きく目を見開く。

 まさか見た目15歳の弱そうなガキが、このような芸当を行うとは夢にも思わなかったのであろう。

 クッカが阿吽あうんの呼吸で、次の指示を出した。


『ケン様、束縛の魔法、行きましょう!』


『よし! 了解だ』


 俺は、ピンと指を鳴らす。

 神スキルを会得した俺は、使い慣れたスキルなら無詠唱且つアクション無しでも魔法が発動出来る。

 言霊や呪文、儀式などが一切不要なので便利な事この上ないが、一応恰好をつけたいのは良い年をして中二病的性癖があるせいだろうか。


 そうそう、例えば「ファイアーボールぅ!」とか決め技的に大声で叫びたい。

 だけど今回は、目立たず騒がせずが、お約束。

 仕方なく諦めるしかない。

 

 やはり……俺の性癖は、絶対に昔見たアニメや特撮の影響だろう。


 湧き上がる願望を我慢して『束縛』の魔法を発動すると、ステファニー以下4人は、口の自由に加えて身体の自由も奪われた。

 その場に崩れ落ちると芋虫のように転がったのだ。


 続いて『失神』の魔法を発動し、俺は3人の従士の意識を奪う。

 忠実な部下が呆気なく目を閉じたのを見たステファニー。

 目を大きく見開き、悲鳴をあげるが当然声など響かない。


 これで形勢逆転だ。

 

 俺は、ゆっくり近付く。

 ステファニーは、迫る俺を見て恐怖を感じたのだろう。

 声なき悲鳴を、あげ続ける。

 

 しゃがみこんでステファニーの顔を覗き込むと、怖がって目に大粒の涙を浮かべていた。

 バッチリ決めていた化粧も、涙と鼻水で流れてしまっている。

 ちょっと可哀そうだけど、しかるべき指導をしないとね。

 

 第三者に聞きつけられないよう、ここからの会話は念話となる。


『どうだい、ステファニー()


 俺が念話で話し掛けたら、ステファニーは案の定吃驚している。

 口をぽかんと開けている。

 やっぱり、さっき嫁ズへ念話を使わないでよ~かった。


『え、ええっ!? ななな、何? こ、これ?』


 吃驚したステファニーに、とりあえず解説。


『これは念話だよ。魔法の一種でお前の心に直接、話しかけているのさ』


 状況を認識したら……後は命乞いをするよね。

 当たり前だけど、予想通りのパターン。


『ううう、たたた、助けてぇっ! お、お願いっ!』


『そうそう、このように自分の思い通りにならない事もあるだろう? すこしは人の痛みを知ると良いさ。特に嫌がる人間を無理矢理下僕に強要するなんて最低の事なんだぜ』


『い、嫌! 嫌! 嫌ぁ! お、お願いっ! こここ、殺さないでぇ!』


『安心しろ、これくらいで殺さないよ、ちょっとだけ……お仕置きはするけどな』


『殺さない!? ほほほ、本当に!? ででで、でも、ちょ、ちょっとだけ? おおお、お仕置きって何!?』


『これさ! 悪さをした子には、こうすると昔から決まっている』 


 俺はステファニーを横に抱きかかえると、後向きにした。

 

 丁度、彼女の可愛いお尻が突き出るような態勢だ。

 ステファニーも鈍くはない女の子らしい。

 さすがに、何をされるか悟ったようである。


『ままま、まさかぁ!? それって!? ややや、やめてぇ!』


『やめね~よ! ほ~ら、悪い子にはぺんぺんするお仕置きだべぇ~っ』


 俺はそう言って、ステファニーの小さなお尻を叩き始めた。


 ぱし~ん!『きゃう! い、痛~い』

 ぱし~ん!『きゃう! おお、お尻がぁ!』


 相変わらず、周囲に人は見当たらない。


 俺は手加減しながら、泣き叫ぶステファニーの尻をひたすら叩いていたのであった。 

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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