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第50話 「女神という名の作戦発動」

 クラン大狼(ビッグウルフ)が、俺の『怒り』で逃げ去って2日後……

 

 ドケチ親爺との間に、正式な護衛契約が交わされ、出発準備も完了。

 俺達は遂に、ジェトレ村の商隊と一緒に出発する事になった。


 ルートはといえば……

 ボヌール村を出て村道を暫く行き、転生した俺が歩いて来た街道を左折して、更にずっと南下する。

 約半日かければ、領主オベール様の治める、エモシオンの町へ到着するのだ。


 そうそう、俺が歩いて来た時には、完全にボッチだった。

 管理神様の調整なのか、たまたまなのか、街道には全く人通りがなかった。

 おいおい、こんなに人が居ないなんてどんなに僻地なんだよ、と思ったがねぇ……

 

 嫁ズに聞いても商人達へ聞いても、頻度はともかく、通常は様々な人々が行き交うそうである。

 

 旅行者の年齢身分はまちまちで、業務遂行の役人、商人は勿論、武者修行の騎士や冒険者、巡礼の親子等多種多様であるらしい。


 旅の移動手段に関しては、徒歩が最も一般的ではあるのは当然として、馬車などの乗り物、馬、ラバなども良く使われているという。

 実際に今回も護衛する商隊は馬車であるし、こちらもミシェルがラバに曳かせた荷車で移動するのだ。

 

 一方、レベッカはというと……

 ガストンさんの所有する、逞しい葦毛の馬に堂々と跨っている。

 乗馬の腕も、中々のようだ。


 そして、俺も荷車には乗らない……

 やたら元気だが、地味な鹿毛の馬にちんまりと跨っているのだ。


「あれ? ケン、お前……馬なんか持っていたっけ?」


 正門の前で見送るガストンさんが、馬に跨った俺を不思議そうに見て首を傾げる。


 やっぱり、聞かれたか。

 俺はあらかじめ、用意してあった答えを返す。


「ああ、こいつはこの前、狩りの際に草原で捕まえたんですよ」


「捕まえた? ふうん、誰かの所有馬であったものが逃げたか、もしくは野生馬かもしれないなあ。まあパッと見で所有者が分かるものがないから大丈夫か、うん」


 ガストンさんは自問自答しながら、勝手に納得してしまったようだ。

 まあ、誰にどう聞かれても、そこらで捕まえたとしかいえない。


 だってこの馬は俺の召喚した従士のひとり、悪魔の乗馬であった妖馬ベイヤールだもの。

 普通の馬とはまるで違うので『そのまま』ではあまりにも目立ちすぎる。

 だから俺が発動した変身の魔法で見かけを地味に変えてある。

 

 ベイヤール本人は、プライドがすっごく高いので説得するのは大変であったが。

 当然、嫁ズには、召喚した従士達の事をざっくりと話してある。


 ガストンさんは納得すると、ベイヤールに跨っている俺の姿をまじまじと見た。

 明らかに見直したという、嬉しさの表情だ。


「ケン、お前って、馬にもちゃんと乗れるんだな。凄いじゃないか、さすがムコ殿だ」


「いやぁ、まあ何とか、走らせるって感じですよ……」


 こんな日が必ず来る……

 そう思っていたので、実は夜間に乗馬訓練をして、スキルもMAXにしてある。

 

 俺って、何か褒められても、謙遜する癖がすっかり染み付いている。

 自慢は、目立つ事へ繋がると、本能的に分かっているからだ。


「そろそろ出発するぞ」


 商隊のドケチ親爺が、痺れを切らしたらしく怒鳴っている。

 彼等にしてみれば、1日ロスしてしまっているので分からなくもない。

 しかし護衛の金をケチって、クラン大狼のような『不良品』を掴んだ責任もあるから自業自得だ。


 まあ、そんあこんなでとりあえず出発である。

 俺は、ベイヤールを促して常歩なみあしで歩き出す。

 従士としてはベイヤールの初仕事であり、彼の気合がお尻からじんじん伝わって来て何となくこそばゆい。


 ちなみに、クッカとケルベロスは既に出発して先行していた。

 

 理由は偵察と索敵。

 当然襲撃者対策であり、先行役として突出させ、万が一の際には対応して貰うのである。

 俺とクッカで昨夜考えた作戦は、もう発動しているのだ。


 ベイヤールに指示を改めて指示を出した俺は、やや速度上げを先頭に立つ。

 直後に商人の馬車2台が続き、ミシェルの荷車が最後方。

 レベッカが、ミシェルの傍を並行して走る形である。


 歩くより移動速度は格段に速い馬車は、あっという間に村道を抜け、街道に出た。

 ここを左に曲がり、南下するのだ。


 俺が跨ったベイヤールは、本当に素晴らしい。

 滑るように歩いている。

 普通の馬が走る際に生じる揺れなど、まったく伝わって来ないのだ。

 

 ボヌール村まで来た時にも感じたが、この世界の道路事情は前世の舗装された道路を見慣れた俺には酷く映る。

 

 どこもかしこも石ころだらけで、土を踏み固めただけの代物だ。

 金をかけて石畳などを敷き詰め整備するという考えは、この王国には全然ないらしい。

 僻地の道路など、金をかけるだけ無駄だと思っているのだろう。


 レベッカに聞くと、この街道は夏は土ぼこりが舞い、冬は雪と泥に埋もれてしまう。

 このような道なので、雨や雪などで道がぬかるむとすぐ馬車は立ち往生してしまい、大変なようだ。


 加えて、道幅も非常に狭い。

 馬車2台が、やっと通れる広さである。

 ただ、この道にも暗黙の交通ルールはあった。

 荷物のありなしで通行の優先権が発生したし、騎士と馬車がすれ違う際にも何と馬車が優先となる。

 このような事から最優先で通行出来るのは今、俺が警護している積荷を持つ商隊の馬車なのだ。


 そして、俺達が警護している理由……

 足の遅い商隊は傍から見て、襲撃者にとっては恰好の獲物であるから。

 魔物にとって見れば、人間と馬は共に餌の群れ。

 人間の襲撃者にとっては、金と物資を奪える弱き存在だからだ。


 この界隈で、魔物はゴブやオークの群れが多い。

 オークは有名だから、敢えて説明しなくてもご存知だと思うが……

 念の為、風貌が豚に似た人型魔物(ヒューマノイド)である。

 

 体格は人間くらい、知能もゴブよりはずっと高い。

 ゴブ同様、人間を貪り喰い、女性を『乱暴』までする。

 

 人間の襲撃者に到っては、本職? の強盗、追いはぎ、山賊は勿論、冒険者及び傭兵のなれの果てまでがお出ましになるとの事。

 呆れた事に、領民を守るべき貴族までが、こっそり正体を隠して襲う事も珍しくないという。

 

 もし本当であれば、実に呆れた話。

 万が一、領主のオベール様が襲って来たなら、天誅を加えてやる!

 そんなバカ領主を懲らしめても、心は全然痛まない。


 俺はレベッカにそんな話を聞かされた際、勝手に妄想して憤っていた。


 ガタガタガタガタ、ミシガタ……

 パカポコ、パカポコ……


 馬車の木製の車輪が軋む音と、馬のひずめから発するのどかな音が混在し、俺達は街道を進んで行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 それから暫しの間……

 商隊の馬車とラバが曳いたミシェルの荷車、そして俺とレベッカが乗る2頭の馬は、のんびりと進んで行く。

 焦らなくても、こんなのんびりした速度で、充分エモシオンに着くそうだ。


 天気は、今日も快晴だから、雨で道がぬかるむ心配も全く無い。

 ぶわっと捲き上がる砂埃には閉口するが、まあ我慢するしかない。

 

 上空を見れば青空にちぎれ雲が飛び、風も爽やかに吹いて旅には絶好のコンディションであった。

 ああ……夢に出て来た故郷の空みたい。


 そんなこんなで……

 約2時間くらい進んだ頃。

 進行方向の左右それぞれ1km先くらいに、俺の索敵は敵の反応をキャッチしたのだ。

 

 おお、ダブルで来やがったか!


 何と、右は魔物の群れ。

 左は人間の襲撃者だ。

 どちらも数は10を少し超えるくらいの小規模なものではあるが、俺達を襲うには充分な数だろう。

 当然の事ながら1km先なので襲撃者達に気付いたのは俺とクッカ、そして従士達だけである。

 

 さあ!

 いよいよ、例の作戦の開始だ。

 俺は少し先に居る、幻影のクッカへ念話を送る。


『クッカ!』


『ケン様、私もキャッチしました。対襲撃者作戦の発動、宜しいですか?』


『おう! 作戦名クッカ、発動! 襲撃者複数の為にパターンBで!』


『了解しました! 作戦名クッカ、パターンB発動しまぁす』


 ははっ、やっぱりクッカの奴はノリが良い。

 益々そうなるように、クッカの名前をつけたり言い方に工夫したのは変かもね。

 まあ、俺とクッカの幸せの為には必要だ。


 俺は遠くのクッカめがけて、作戦の為、魔法を発動したのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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