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第47話 「泣かせないでよ、もう!」

 クラン大狼(ビッグウルフ)を追い払った、その日の夜……


 俺の家では、『家族会議』が開かれていた。

 正確にいえば、将来家族になるメンバーでの会議である。

 出席者は俺、リゼット、レベッカ、ミシェル、そしてクラリス。

 当然クッカも、空中に浮かんで、俺達の話を聞いていた。

 議題はというと、俺のファミリー設定確認、そして追い払ったクラン大狼(ビッグウルフ)の代理として、エモシオンの町へ商隊の護衛で行く件だ。


 司会進行は、将来第一夫人=正妻となるリゼットであった。

 

 どちらかというと、大人しい性格のリゼットだが、今後の事もある。

 村長の娘である事から、今後嫁ズの中ではイニシアティブを取っていかなくてはならない。

 だから俺がリゼットへ『場』を仕切るよう勧め、他の嫁候補達も了解したのである。


「皆、今夜は大事な話になりますけど、気持ちは固まっていますか?」


 気合の入ったリゼットの言葉に、全員が頷く。


「最初は、ケン様を中心とした家族の事からですね」


 リゼットはそう言うと、全員の顔を見た。


「ここに居る女の子達は、全員がケン様……すなわち旦那様の事を、大好きな子達ですよね。私とレベッカ姉は、既に旦那様と話し合って、お嫁さんになる事を決断し、告げています……ミシェル姉とクラリス、ふたりはどうですか」


 リゼットの問い掛けに、まずミシェルが元気よく挙手をする。

 眼差しは真剣そのものだ。

 おお、昼間のほんわかミシェルという雰囲気じゃない。

 

「当然決めています! 私もケン様のお嫁さんになりますよ。ケン様、このように不束者(ふつつかもの)の私ですが宜しいでしょうか?」


 息もつかず、一気に決意を言い切ったミシェル。

 いつものバンカラさがなく、落ち着いて、しっとりした雰囲気が半端なく出まくっている。

 女の子って……

 こんなに極端に……変身出来るんだ。


 俺は、ミシェルの変貌振りに圧倒されながら、大きく頷いた。


「大歓迎さ!」


 俺が当然OKを出すと、ミシェルは太陽に向かって咲く、向日葵(ひまわり)のように笑った。


「ケン様、本当にありがとうございます! リゼットとレベッカも宜しくお願いしますね」


「ミシェル姉が入ってくれると、すっごく頼もしいです」

「ははは、私も同感」


 ミシェルに挨拶された、リゼットとレベッカも嬉しそうだ。

 次にリゼットは、親友でもあるクラリスに向き直る。


「最後に……クラリス。貴女のケン様へ対する気持ちを聞かせてくれますか?」


「は、はい! 私もぜひケン様のお嫁さんになりたいと思っています……でも、こんな私でも良いのでしょうか?」


 クラリスは、不安そうに俺を見た。

 まるでおずおずと、問い掛けるような眼差しだ。

 俺は、思わず聞いてしまう。


「こんな私?」


「はい……私は皆に比べると地味で、暗い女の子だって、自分でも分かっていますから」 


 そんな事は、ない!

 クラリスは、とっても可愛い。

 切れ長の垂れ目が目立つ、優しい笑顔が魅力的。

 男女問わず、誰もが癒される素晴らしい女の子だ。

 どこが……こんな、なのだろう。


 俺は、そんな気持ちを込めて、クラリスへ言う。


「こんな私、なんてとんでもないぜ。お前は可愛いし、その笑顔で俺や家族を素敵に癒してくれる子だ」


「そ、そんな……」


 俺が励ましても、相変わらず自信がなさそうなクラリス。

 俺は彼女を優しく見つめ、きっぱりと言い放つ。


「絶対にそうなの! ……でも良いのか? 結婚とは一生のモノだけれど、俺達はあの畑の時しか、同じ時間を過ごしていないんだぜ」


 俺の言葉を聞いたクラリスは、とても嬉しそうな笑顔を見せる。

 ほら!

 それなんだよ。

 皆をホッとさせる、お前の癒し笑顔は最高なんだ。


 クラリスは俺の顔を見た後、何か決意したかのように頷く。

 そして、真顔に戻ると、淡々と話を続けたのである。


「……私は魔物の襲撃で両親に死なれて以来、たったひとりで生きて来ました。村の人は優しいし、リゼットは親しい友達として、とても良くしてくれました。だけど私はやっぱり、一緒に暮らせる家族が欲しかった」


 多分、初めて人前で言うのだろう。

 大人しいクラリスが、滅多に言わない本音。

 親友のリゼットを始めとしてレベッカもミシェルも、じっとクラリスを見つめている。


「あの時……ケン様が私を手伝おうと声を掛けてくれて、本当に嬉しかった」


「…………」


「ふたりで一緒に畑を耕した時、ああ幸せだなあと思ったんです。地味でも一緒にコツコツやってくれる優しい人が、私は好きなんです」


 クラリスは、まっすぐに俺を見つめる。


「それに……ふたりで過ごした時間は他の皆に比べて全然短いかもしれませんけど、私にとってはかけがえのない素晴らしい時間……そんな時間をまたケン様と過ごしてみたい。いいえ、一生過ごしてみたい」


 おいおい、クラリス……

 何て事言うんだ?

 俺、嬉しくて泣きそうじゃないか。


 何か、クラリスが滲んで見えてしまってる。

 ここで決めてやらなきゃ、男じゃない。

 だから俺は、大声で叫んだ。


「クラリス、おいで! 俺の嫁になってくれ、お前は絶対に必要さ」


 見ると、クラリスの瞳にも、嬉し涙が一杯になってウルウルしている。

 両手を広げると、クラリスは泣きながら、俺の胸へ飛び込んで来たのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『良いなぁ……私はそっちの世界では実体がない幻影……抱き締めて貰うなんて出来ないし、やっぱりお嫁さんになれないんだ』


 先ほどからクッカが、落ち込んでいる。

 

 空中に浮かんだまま、元気なく項垂うなだれてしまっている。

 さっきから、村の女の子達が『花嫁宣言』をして、正式に俺との結婚が決まったから無理もない。


 俺は、そんなクッカを暫く見ていたが、実は決めていた事がある。

 こんな事をしたら、管理神様には叱られるかもしれない。

 いや、絶対に激怒するだろう。


 だけど……


「皆、注目!」


 俺が手を挙げたので、リゼット達は何事かと俺を見た。


「今迄隠していて悪いが、俺のお嫁さんになる女の子がもうひとり居る」


「「「「えええっ!」」」」


 驚く、リゼット達4人。

 そしてリゼット達以上に驚いたのが……クッカである。


『ケケケ、ケン様ぁ? それってまずいです。それ以上言ってはいけません!』


 焦りまくって、必死に制止するクッカ。

 当然だろうな、女神の存在を一般人へカミングアウトするなんてとんでもない禁忌であろうから。


『大丈夫さ、クッカ。責任は俺が取る。俺が管理神様に土下座してお前をお嫁に貰えば良いんだろ』


『え、ええっ!?』


 まだ驚いているリゼット達へ、俺は改めて言う。


「もうひとりの子もお前達と同じ、俺の大事な大事な女神様なんだ」


「私達と同じ?」

「大事な大事な?」

「私達は……女神様?」


 レベッカ、ミシェル、クラリスが俺の言葉を繰り返す。

 ここで、リゼットが俺へ尋ねる。


「その子って……村の女の子じゃあないですよね。一体どこに居るのですか?」


「ここさ」


 俺は、クッカが居る空中を指差した。

 しかし、幻影のクッカは俺以外には見えない。


「え? ままま、まさか幽霊ですか?」

「ええっ、こ、怖い!」

「私、駄目なんです。そういうの」


 今度はリゼット、レベッカ、クラリスが怯えたようにクッカの居る空中へ視線を走らせた。


「ケン様」


 ここで、ぴしりと俺の名を呼んだのはミシェルである。

 彼女の表情は、怖いほど真剣であった。


「その方、女神様……なんですね。分かりました、それでお名前は?」


「名前か、……クッカだ」


「クッカ様……」


 ミシェルは確かめるように、クッカの名を呼んだ。

 そして、俺が指差した方向へ、深々と頭を下げたのである。


「クッカ様! 貴女様の加護なくして旦那様と私達は結ばれませんでした。本当にありがとうございます」


 いきなり突飛な行動に出たミシェルに対し、リゼット達は勿論、俺も当のクッカも吃驚している。

 顔をあげたミシェルは、にっこり笑う。


「貴女様も旦那様のお傍に居て、恋してしまった……そして妻になりたい……で、あれば私達は歓迎致します、大歓迎致しますよ……今、私には残念ながら貴女様のお姿は見えませんが、いずれお会いして一緒に仲良く暮らせる日が来る事を祈っております」


 4人の中で1番信心深いミシェルは、俺の言葉に何かを感じたのであろう。

 そして、姿は見えないクッカを喜んで迎え入れると宣言したのである。


 リゼット、レベッカ、クラリスは、真剣なミシェルの気合に圧倒されてしまっていた。

 そしてミシェルに促されると、全員でもう一度、クッカに向かって頭を下げたのである。


 一方の、クッカはというと……

 

 胸が一杯になって、うまく言葉が出ないようだ。

 真っ赤に腫らした目には、涙がたくさん溜まっている。

 やがてクッカは、我慢出来ずに泣き始めた。

 

 これは……嬉し泣きだ。


『あ、ううううう……あああああ……』


 クッカが手で顔を覆って泣く姿が、俺にも(にじ)んで見えている。

 ああ、今夜の俺は泣き上戸のようだ。


 明日のエモシオン行きの段取りが話し合われて、リゼット達が引き上げてからも……

 

 俺にしか聞こえない、クッカのむせび泣く声が、部屋にいつまでもいつまでも響いていたのであった……

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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