閑話~雨音~
閑話.
雨音はヒカリとリビングで話した後、自室のベッドに横たわっていた。
仰向けになっているが、雨音の瞳に天井は全く映らない。ずっと、小さい頃を思い出していたからだ。
あのときは、まだ中学生の頃だったかと、思いを馳せる。雨音はいわゆる、お兄ちゃん子だった。退屈な華道教室の最中、ずっと帰ってから兄と遊ぶことばかりを考えていた。
それももう、ずっと昔の話だ。
狂いだしたのは、いつからだろうか。
雨音は自問した。この後悔は、何だ? それは幻想だ、と自答する。
「馬鹿らしい」雨音は寝返りをうち、呟いた。
兄はもう死んだのだ。先程、ヒカリにも言ったことだ。今さら何を考えているのだろうか。
自分にひたすら言い聞かせても、胸に渦巻く不細工で気味の悪い感情を掻き消すことができない。
ふと、心の声が聞こえた。
『美雪が羨ましい』
「ああっ、もう」雨音は起き上がった。
ふわりとウェーブをかけた、お気に入りの髪を撫でる。
朝陽を助けてやればよかったんだ。
雨音はそう怒鳴りたい衝動を、必死で抑え込んだ。
雨音にはわかっていた。犯人の正体が。何故彼が殺されたのかも、何故死体が切断されていたのかも。雨音は答えを知っているのだ。
雨音は立ち上がった。兄に会いに行こう。
だが、もう遅い。何もかもが。この崩壊を、いつだったら止められたのだろう。
そのチャンスは、あっという間に過ぎ去ってしまったのだ。夢中で遊んで、ふと気がつけば外が暗くなっている。そんな夏休みの落日のように。




