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持ち去られた頭部と右手  作者: ASP
第三話
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閑話~雨音~

閑話.


 雨音はヒカリとリビングで話した後、自室のベッドに横たわっていた。

 仰向けになっているが、雨音の瞳に天井は全く映らない。ずっと、小さい頃を思い出していたからだ。

 あのときは、まだ中学生の頃だったかと、思いを馳せる。雨音はいわゆる、お兄ちゃん子だった。退屈な華道教室の最中、ずっと帰ってから兄と遊ぶことばかりを考えていた。


 それももう、ずっと昔の話だ。

 狂いだしたのは、いつからだろうか。


 雨音は自問した。この後悔は、何だ? それは幻想だ、と自答する。


「馬鹿らしい」雨音は寝返りをうち、呟いた。

 兄はもう死んだのだ。先程、ヒカリにも言ったことだ。今さら何を考えているのだろうか。

 自分にひたすら言い聞かせても、胸に渦巻く不細工で気味の悪い感情を掻き消すことができない。


 ふと、心の声が聞こえた。

『美雪が羨ましい』


「ああっ、もう」雨音は起き上がった。

 ふわりとウェーブをかけた、お気に入りの髪を撫でる。


 朝陽を助けてやればよかったんだ。

 雨音はそう怒鳴りたい衝動を、必死で抑え込んだ。


 雨音にはわかっていた。犯人の正体が。何故彼が殺されたのかも、何故死体が切断されていたのかも。雨音は答えを知っているのだ。


 雨音は立ち上がった。兄に会いに行こう。


 だが、もう遅い。何もかもが。この崩壊を、いつだったら止められたのだろう。

 そのチャンスは、あっという間に過ぎ去ってしまったのだ。夢中で遊んで、ふと気がつけば外が暗くなっている。そんな夏休みの落日のように。


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