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始まりと始まり

「セルディオさん! 本当にお世話になりました! もしシェオールを訪れる事があったら必ずハンターギルドに顔を出して下さい!」

「はい! その時はお土産を持って行きます!」


 乗客が乗り込み、間もなく出発の時を迎えると、窓越しからセルディオさん達に最後の声を掛ける。


「ツクモ! お前もプルフラムを出るなら一番にシェオールに来い! そんときゃ少しだけだが家に泊めてやる! だから頑張れよ!」

「あんたに言われなくても必ず行ってやるわ! だからそれまできちんと働きなさいよ!」

「ああ! お前が来る頃にはそれなりに偉くなっとく!」


 一時はしょぼくれていたツクモだったが、いよいよ別れの時が来ると相変わらずの減らず口を叩き笑顔で応えた。


「セルディオさん! 奥さん! ツクモさん! 色々と本当にお世話になりました! またお会いできることを楽しみにしています!」

「エリックさんもお元気で!」


 エリックも迫る別れが惜しいのか、らしくなく窓から身を乗り出し笑顔を見せる。


「それとツクモさん! ゴードンさんにもよろしくお伝えください! お二人のお陰で私達は笑顔でシェオールに帰る事が出来ます! ありがとう御座いましたと!」

「分かった! エリックさんも元気でね!」

「はい! ツクモさん! またお会いしましょう!」

「うん!」


 エリックにとっては契約までした二人だけに、もう家族とは変わらないのだろう。再び手を握り惜しむかのような姿は、人と何ら変わりなかった。


「ほらスクーピー。スクーピーも皆にバイバイして」

「…………」


 スクーピーにとっては惜しまれながらの別れは初めてなのだろう。声を掛けても不思議そうに俺の顔を見つめ、何故こんなにしつこくさよならを言うのか分からないというように首をほんの僅か傾げた。

 それを見て、多分スクーピーはまたすぐに会えると思っているのだと分かった。


「スクーピー。もしかしたらもうセルディオさん達とは会えないかもしれないんだよ。だからちゃんとバイバイしないと駄目だよ」

「……うん」


 エインフェリアと言えど、幼いスクーピーには別れはまだ理解できないようで、諭すように教えても良く分からないという感じでセルディオさん達に手を振った。

 それを受けてセルディオさん達も理解したのか、全く寂しさを表情に出さずに楽しそうにスクーピーに手を振り返した


 プオ~ン!


「あ、もう出発するみたいです。セルディオさん! 奥さん! ツクモさん! 本当にありがとう御座いました! またいずれどこかでお会いできることを楽しみにしています!」


 出発を告げる、汽笛と言うかラッパの音が鳴り響くと、エリックは慌てて体を引っ込め大きく手を振った。


 エイダールからプルフラムを出る為に乗るのは汽車だと聞いていたのだが、どうやらエイダールでは列をなして人を運ぶ乗り物は全て汽車と呼ぶらしく、今俺達が乗っているあり得ないくらい大きな馬が引っ張る客車は、魔王軍並みの隊列に守られていた。確かに悪魔クラスがうようよ蔓延るプルフラムの森を抜けるにはこのくらいの軍列は必要だが、流石にやり過ぎである。

 それでももうキャメロット大軍でも無い限り襲おうと思う者などいないと思うと、ある意味この世で最も安全な乗り物のため、遠きシェオールを想い晴れやかな気持ちでの旅を楽しめる。


「ありがとう御座いました! またいつか会いましょう! その時までお元気で!」

「リーパーさんの方こそお元気で! またお会いできることを楽しみにしています!」


 隊列の動き出す音に負けないよう大きな声で手を振るセルディオさんは、もう友と呼べる存在だった。そしてその横で手を合わせ祈るように頭を下げる奥さんは、恩師と呼んでも過言では無かった。


「ツクモ! お前も早く出世してシェオールに来い! シェオールには凄い奴一杯いるから紹介してやる!」


 アドラ、ロンファン、クレアにミサキ。他にもゴンザレスやサイモンの古株や、将来有望なマリア。それだけじゃない、戦闘は出来ないが仕事という戦いにおいては力のあるリリアやフィリアのようなスタッフ。そして、俺のフィアンセであり卓越した仕事センスを持つヒー。

 将来ツクモが力を付け、凛々しい顔つきとなってシェオールに来た時、皆がツクモを迎え入れる姿を想像し、楽しみになった。


「あんたこそ首になってニートなんてやってたらぶっ飛ばすからね!」


 厳しい言葉をぶつけたせいで、てっきりツクモは俺を嫌ったと思っていた。だがやはり心まで鍛えてあるツクモは、待っていろというような自信に満ち溢れた表情をしてしっかりとした笑みを見せた。


「安心しろ! 実家は農家だから、クビになっても農家やってるよ!」


 そう返すとツクモは何かを投げつけるようなそぶりを見せて笑った。


「じゃあ皆! またどこかで!」

「セルディオさん! 奥さん! ツクモさん! またお会いする日までお元気で!」


 動き出した隊列は徐々に速度を上げ、手を振るセルディオさん達から離れすぎた為、俺達の声に何かを叫ぶ三人の声は届かなかった。それでも大きく手を振る姿と大きく開けた口からは『またいつの日か』という想いが届いた。


 こうしてハクウンノツカイから始まったプルフラムでの生活は幕を下ろした。しかしまだシェオールまでの長い旅路がある。だけど、その話はまた今度で。いつか暇なときにでも。

 今はただ懐かしい故郷を想い、旅を楽しみたい。エリックとスクーピーと共に……



 

 

 

「――アドラ。合格です。しかしこの程度の仕事で満足していては駄目です。貴方はもっと大きな仕事が出来るはずです。この成果を第一歩とし、さらなる精進を続けて下さい。リーパーは直ぐそこまで来ていますよ」

「はい! 大師匠!」


 リーパーが消息を絶ってから数か月。ロンファンが病で倒れ、クレアが去り、ミサキまでもが不調を告げる中で、唯一人アドラ・メデクだけが劇的な成長を遂げていた。それはほとんどのハンターを失い、冒険者ギルドの出現で衰退するハンターギルドにとっては正に救いだった。


 その陰には、師リーパー・アルバインのフィアンセであり、シェオールハンターギルドスタッフであるヒー・ブレハートの力があった。


「ではこちらが御約束の報酬になります。どうぞお受け取り下さい」

「はい! 大師匠! ありがとう御座います!」


 アドラ・メデクは戦いを好むインペリアルである為、本来であれば協調性など持ち合わせてはいなかった。だがリーパー・アルバインと出会い、ロンファン・イル・ローエルという仲間を得る中で学び、ヒー・ブレハートの教えで少しずつだが社会への適合能力を開花させていった。


「ではお疲れさまでした。帰宅してゆっくり体を休めて下さい」

「はい!」

「それと、スーツはクリーニングに出すか、またはきちんと皺が付かないようにハンガーに掛けて保管して下さい。そして、固めた髪はきちんと洗い流してから就寝して下さい」

「はい!」


 そんなアドラ・メデクは、恩師であるヒー・ブレハートの『仕事というのは生き物です。アドラ。戦いを望むのであれば、一度仕事という怪物を相手に戦ってみてはどうですか?』の声にさらに新たな境地へと歩み出した。だが……


「ですが大師匠! 次はこいつと戦います! すぐに受理をお願いします!」


 戦いの中でしか生きられないアドラ・メデクは、言葉遣いや社交辞令は覚えても、頭の中は変わらなかった。


 アドラ・メデクが次に受注依頼したのは、Aクラスモンスターの討伐だった。アドラ・メデクは今まさに三日三晩まともな睡眠も取らず山芋の採取を終えたばかりだった。それもわざわざ自宅へ戻り、礼儀としてスーツへと着替えてからの現在だった。

 そんな彼の行動には、流石のヒー・ブレハートも表情を固めた。


「アドラ」

「はい! 大師匠!」


 ヒーは常々思っていた。

“アドラって分かっているようで分かってない人なんですね。馬鹿ではないはずですが……”と。

 しかしそれと同時にこうも思っていた。

“ですがそれが師匠譲りなのでしょう。アドラの中にはリーパーの意志が色濃く残っています”と。

 ヒー・ブレハートもまた、馬鹿であった。


「今日はもうアドラの受注を認めません」

「え! そりゃないぜ大師匠! 何でだよ!」


 ヒーは知っていた。アドラ・メデクという男は、姉リリア・ブレハートと同じで、好きな事に熱中すると過労死するまで突き進むことを。それを知る彼女は、悪戦苦闘しながらもフィアンセの大切な弟子を宥める術を見出し始めていた。


「アドラ。十二足す六は?」

「えっ! あ……え~……と……」

「アドラ、前にも言いましたよ? 仕事というのは常に隙を伺っていると。今のアドラはこの程度の簡単な計算でも即座に算出出来ないんですよ? 体はいくら平気でも頭は既に疲労のピークなんですよ? そのような状態でもし次の相手が計算が必要な相手だったらどうするつもりなのですか?」

「い、いや……」


 アドラ・メデクは算数が苦手だった。それは二桁以上になると永遠に答えが出ない程に。

 そんな弱点を知るヒーは、小難しい事を言ってアドラを宥める。


「で、でもよ大師匠! そんな難しいの俺が本気出しても分かんねぇよ!」

「ではアドラ。もしそれで仕事に殺されても、貴方は文句は言わないのですか?」

「え? まぁしょうがないじゃん」

「えっ!?」


 しかし去ることながら、アドラ・メデクという男は、ヒー・ブレハートの遥か上を生きる存在でもあった。


「だってそれは仕方ないじゃん。俺算数できないもん」


 ヒー・ブレハートは毎度アドラ・メデクに苦しめられていた。それでも彼女が彼を見放さなかったのは、リーパー・アルバインの弟子である事もあったが、その素直さにあった。


「そ、そうですか。ですがやはり貴方の受注は認められません」

「何でだよ大師匠!」

「ギルドの規則だからです。ハンターギルドはハンター様を管理するのも仕事です。ですからいくら我儘を言っても無理な物は無理です」


 嘘だった。その上この嘘はもう四度目だった。しかし必要の無い事は全く覚えられないアドラ・メデクにとっては初めても同然だった。


「で、でもよ、俺はこんなにやる気があるんだぜ? 大師匠言ったじゃねぇか? やる気があれば何でもできるって?」


 正確には仕事に熱意と目的は必要だった。しかしなんとなくでも大切な事を理解していた為、ヒーは咎めなかった。


「そうです。ですがこの規則はリーパーでも覆す事の出来ない事実です!」

「は!」

「ですので諦めて下さい。体を休める事も立派な戦いですよアドラ。今は自分の疲労と戦う時なんです」


 リーパー・アルバインの名にはアドラは勝てない事をヒーは熟知していた。そして戦いという言葉を出せばアドラは何でも飛びつくことを知っていた。


「マジか!? 分かったぜ大師匠! 俺直ぐに帰って寝るわ! じゃあな大師……お疲れさまでした大師匠様」


 何より彼は馬鹿だった。だが、手本のように美しいお辞儀をする姿は、誰も彼を馬鹿には出来ない愛嬌があった。


「はい、お疲れさまでした。スーツをきちんと……あっ!」

「じゃあな大師匠! 師匠帰ってきたらすぐに教えてくれよ!」


 師の言葉も最後まで聞かず飛び出すアドラに、ヒーは呆れるように笑うしかなかった。しかしそこには愛しのリーパー・アルバインの姿が重なり、今日も彼女の支えとなった。


 そんなヒー・ブレハートは、今日も受付から愛しのリーパー・アルバインを待ち続ける。

 最後までご愛読頂き誠にありがとう御座いました。5はそのうち多分投稿します。正直私としてはもうギルドスタッフは執筆したくは無いのですが、リーパーが戻り、クレアが戻り、そしてスクーピーが成長して冒険者かハンターになるような話ばかり想像して超楽しみで仕方がありません。

 もし5があればまたお会いしましょう。最後までお付き合い下さりありがとう御座いました。

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