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怪物

「ぐわあああぁぁぁ!」


 魔人薬を飲み込んだことによって苦しみ始めたガルディアは、灼熱のような赤黒い魔力を立ち上らせ始めた。それはまるで生命力を絞り出し血が混じったかのような色をしており、触れるだけでも死をもたらしそうな兇悪さに、この場にいるだけでも危険だと本能が警鐘を上げるほどだった。

 だがあまりの悍ましさに身動き一つとれず、ただガルディアが異形なる者へと変わるのを見ているだけだった。


「うわああぁぁぁ!」


 うめき声を上げるガルディアは、内側から焼かれているかのように体を丸め苦しみに耐える。しかしもう薬の力は止められないようで、沸き上がる魔力はさらに膨れ、次第にガルディアの体が大きくなり始めた。

 

 腕、足、背中、そのどれもが風船が膨れるように大きくなり、そしてそれにつられるように魔力も膨らみさらに色を濃くする。膨れ続ける魔力は部屋全体の色を変え、肌を無数の手が触っているかのようなぬめりのある感覚が襲う。


 ここまで来るとほとんど厄災だった。だがガルディアの変化はこれだけでは収まらず、大きくなった体が形を変え始める。


 背中から羽のように腕が生え、鼻先と首が伸びる。足は馬のように細くなり、頭からは鹿のような角まで見え始めた。

 それでも変化は止まらず、最終的にガルディアは神話に出てくるミノタウロスのような化け物へと変わり果ててしまった。


「グルルルルルル」


 変化が治まるとガルディアは、俯いたまま獣のような唸り声を上げた。だが理性は完全に無いようで、湯気のような吐息と共に大量の涎が地面に落ちる。

 それは破裂寸前の爆弾のようで、今動けばそれだけで爆発しそうなくらいの緊迫感があった。


「グルルルル……」


 しばらくガルディアは俯いたまま荒い呼吸を続けていたが、次第に変化は止まったようで唸り声と溢れ出す魔力は穏やかな物へと変化していった。それでも理性までは戻らなかったようで、ボタボタ垂れる涎が止まる事は無かった。


 そんな状況に未だ身動き一つとれずに立ち尽くしていると、ゆっくりとガルディアが顔を上げた。が、真っ赤な目があった瞬間物凄い勢いで突進してきた。


 ヤバイ!


 そう思って咄嗟に左に避けた。しかし異形の者へと変わり果てたガルディアの突進力は今の状態の俺でさえ完全に躱しきれず、右腕のガードの上から思い切り吹き飛ばされ、痛みを感じるより早く壁に叩きつけられてしまった。

 壁に叩きつけられるとその衝撃は物凄く、岩壁を破壊したようで気付いた時には瓦礫の中にいた。そしてその頃には全身に激痛が走り、特にガードした右腕はブルブルと震えるほど自由が利かなくなっていた。


 や、やられた……これは本当にマズイ……


 多分体中の骨が折れ、内臓も酷い損傷を受けていた。そう思っていたのだが、瓦礫の隙間から再びガルディアが突進してくるのが見えると、痛みもくそも関係無く無意識に無我夢中で飛び出し、突進してくるガルディアに向かっていた。

 それは本能が起こした行動だったようで、本来なら絶対あり得ない方向だった。

 しかし追い詰められた本能は神が掛かっており、逆にガルディアに向かって行ったからこそ上手く交差する事ができ、二度目は一切ダメージを負う事無く躱すことができた。

 それでも足を止めると体中に激痛が走り片膝を付いてしまい、正直三度目は無理だと思った。


 どうする……どうする!


 必死に策を探した。だがこれだけの窮地を脱する方法など見当たる筈も無く、ゆっくり振り返ったガルディアが三度目の突進を仕掛けて来ても、逃げるの選択しかなかった。


「おらああぁぁぁ!」


 激痛とだるさを抑えるために声を出しもう一度交差を狙い突っ込んだ。すると今回もギリギリだが上手く躱す事ができた。だが今のでほとんど力を使い果たしてしまったようで、最後は倒れ込む形となった。


 そんな俺とは違い、まだまだ余力のあるガルディアはどうしても突進で俺を吹き飛ばしたいのか、向き直るとまた突進を仕掛けて来た。


 これは避けきれないと悟った。痛みのせいでまともに立ち上がる事も出来ず、体も重い。それこそ死を覚悟した。


「おらっ!」


 そんなピンチをエリックとツクモが救ってくれた。


 突進してきたガルディアに横からエリックが光弾を当て、間髪入れずツクモが刀でガルディアの頭を切りつけた。するとガルディアは頭の角度が変わったせいで方向を見失い、大きく進路を外れて壁に激突した。


「大丈夫!」

「あ……あぁ……サンキュツクモ……」


 なんとか窮地を凌いだが、直ぐには立ち上がれず、駆け寄って来たツクモに返事をするのでさえキツかった。

 

「どうするの! あれは私でも切れないわよ!」


 恐らくツクモの今の一撃は首を跳ね飛ばすつもりで斬り付けたのだろうが、全く歯が立たなかったようで、刃こぼれしてしまった刀を見せて叫ぶ。


「逃げるしか……ないだろ……」

「逃げるって! あんたでもあのスピードについて行けないんでしょ! 無理よ!」


 ツクモはまだ俺の事をインペリアルだと勘違いしているようで、まるで自分が俺より遅いような事を言う。


「俺は……インペリアルじゃ……ない。だから……俺を見て……アイツを過大評価するな……」


 正直会話するのでさえ億劫だった。それでも勘違いからガルディアの力を見誤ればそれこそ勝機は無くなると思った。


「それはエリックさんから聞いた! でもあんたが私より速いのは事実よ! だから逃げるのは無理だって言ってんの!」


 エリックがそれを分かってて何故俺を戦わせたのかは置いといても、俺がツクモより速いには耳を疑った。


「…………」


 しかし今は口を返す体力さえ勿体ない! 


「とにかくやるしかないわよ! ほら次が来るわよ!」


 エリックとツクモが助けに入ったから何とかなると思っていたが、ガルディアの標的はあくまで俺のようで、エリックの攻撃を受けていてもそれを無視するかのようにこちらに向かってきた。


「うおおおぉぉぉ!」


 ツクモの事などお構いなしだった。とにかくこの攻撃を避けるのに必死で、全力で前方右方向へと飛んだ。だがもう俺には避けきれるほどの力は無いようで、思い切り空中で左足を引っ掛けられ、きりもみしながら地面に叩きつけられた。

 そして体勢を立て直すともうガルディアが突進を始めており、既に左足も折れ、ツクモたちも間に合うようなタイミングでは無かったため、今度の攻撃は回避不能だと分かった。


 駄目か!


 こういう時、走馬灯を見たり景色がゆっくり見えると聞くが、俺は咄嗟に目を閉じてしまったため真っ暗な世界しか見えなかった。そして命の危機が迫ると必要の無い情報はカットされるのは本当のようで、耳は静かなままだった。


 そんな暗闇に逃げ込むと、どうやら神様はそれすら許さないようで、突然瞼に強烈な光が当たり目の前が真っ赤になった。それは目を閉じていても手で覆うほど眩く、チカチカするほどだった。


 死んだのか俺?


 余りの眩しさにしばらく目を開ける事が出来なかったが、辺りはとても静かで、体にも衝撃が襲って来ず、不思議な世界にいるようだった。その上やっと目を開けると眩い光の柱が見え、神々しい世界にここが天国かと思った。

 だが眩しさに慣れ視線を上げると、目の前で光の鉄格子にでも閉じ込められたかのようなガルディアを見て、さらに何が起きたのか理解出来なかった。

 そんな景色に呆気に取られていると、天空から声が聞こえた。


「待たせてしまい申し訳ありません!」


 声の主を追い目線を上げると、そこには天使のように翼の生えた人間が大勢飛んでいた。それは正に神話などで見るような景色で、それこそ本当に死んだのかと思うほどだった。

 

「エリックさん! リーパーさん! ここからは私達に任せて下さい!」

「え? あ! セルディオさん! 奥さん!」


 銀髪に青い瞳に背中の大きな数枚の翼。見た目はかなり派手になったが、先ほどと変らぬスーツ姿と面影から、直ぐにそれがセルディオさん夫妻だと分かった。


「な、何でここに!」

「事情は後で説明します! とにかく今はその者を封じます! リーパーさん達は間もなく警察が来ますから、安全な場所に避難していて下さい!」

「で、でも!」

 

 不思議な物で、高い天井を覆い尽くすほどの数の軍勢と突然の出来事に、動揺して否定的な言葉が出てしまった。

 そんなピンチをここでもツクモが救ってくれる。


「何言ってんのあんた! これだけの数のデュポンが来たのよ! もうあんたじゃ何も出来ないから早く非難するわよ!」

「あ、痛っ! 自分で行くから引っ張るな!」

「つべこべ言わないの! あんた本当に死ぬわよ!」

「痛っ! 痛い! ハァハァ……」


 危うく「では貴方の力も貸して下さい!」と言われ兼ねない状況になるとこだったが、人の痛みに鈍感なツクモのお陰で助けられた。


 次の話で一旦投稿を休止致します。理由は次話を読んで頂ければ分かると思います。

 次話! サブタイトルはカッコいいが、ケシゴムは病んでいる! というのが本当のサブタイトルです。

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