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魔人薬

 いよいよ追い詰められ、これは夢だと言い聞かせた俺と、悪魔ガルディアの最終決戦が始まった。しかしながら、一騎打ちも対人格闘もほとんど経験の無い俺には戦略もくそも無かった。


 だがこれでも元ハンター! 四足歩行だろうが二足歩行だろうが同じ! 相手をよく見て対応すれば必ず勝てる!


 エリックの力と夢だと錯覚しているお陰で、ある程度は対等に戦えるという自信があった。

 そんな俺の堂々とした姿がガルディアにプレッシャーを与えているようで、第二ラウンドが始まってから睨み合いが続いていた。


 行ける! ほとんど俺の力じゃないけどガルディアはビビってる!


 多分体質でインペリアルのような変化をした事と、良い方向に傾いた噂という幸運に恵まれ、精神的には圧倒的に優位を保っていた。しかしタイミングを計っているであろうガルディアとは違い、このまま眼力だけでどうにか負かせられないかと考えている俺とでは大きな差があるようで、ただ睨み合っているだけで体力が削られてきた。


 すると体の疲労が心に影響して来たのか、突然先ほどガルディアが見せたスーッと迫ってくる技を思い出してしまった。


 あっ! ヤバイ!


 例え精神的優位を取っていても、まだ全然ガルディアのあの動きには対処できない事を思い出すと、急に心臓が高鳴り出した。


 どどどどうする! マジでどうする! どどどどうしよう!


 完全にパニックだった。調子に乗って流れでそのまま第二ラウンドに入った為武器も無く、ハッタリだけで何とかその場を凌ごうと考えていたのが仇となった。唯一の救いはガルディアが俺を過大評価しているだけだった。


 そんなピンチに、人生で一番じゃないかと思うほど頭が働いた。すると稲妻が脳内を駆け巡るかのようなスピードで様々な事が浮かんだ。 


「うおおぉぉぉ!」


 俺の脳が出した答えは先手必勝だった。それは閃きに近い感覚だった。というか物凄いスピードで脳が働き、二個か三個くらいイメージが浮かんだと思ったら、最後に俺がぶっ倒れる姿が見えたせいで居ても立っても居られなくなった。


 とにかくがむしゃらに突っ込んだ。少なくとも近づけばあのスーッと来る動きは封じられるし、あれだけリーチが長ければ引っ付くくらい近づけばそう易々と斬られる事は無いと思ったからだ。


「うおおおぉぉぉ!」


 これが功を奏した。恐らく戦い慣れていない素人だからこそタイミングもセオリーも無視した行為が虚を突けたのか、ガルディアは俺の突っ込みに対し咄嗟に剣を盾にして防御姿勢を取った。


「うぉりゃあっ!」


 ガルディアが完全に防御姿勢を見せた為、とにかく渾身の力で右拳を叩きつけた。それこそ拳が砕けるのを覚悟で、全力でガルディアの剣目掛け振り抜いた。

 すると見事に俺の攻撃は通ったようで、背中まで突き抜けるような衝撃が拳から伝わるほどの渾身の一撃が炸裂した。


 この攻撃は余りに会心の出来だったようで、ガルディアは足を踏ん張り後方へと吹き飛ぶ。


 鎧を着た重々しいガルディアが約十メートル吹き飛ぶ感覚は爽快だった。何より自分が本当に悪魔を倒せるかもしれないという手応えは堪らなかった。


「どうだ! まだまだ……えええぇぇぇ!」


 突き抜けるような感覚にテンションが上ったまでは良かった。だがもう一撃と構え直すと叩きつけた右手がプラ~ンとしているのに気付き目を疑った。


「はわぁっ! はぁっ!、はぁはぁ……」


 自分の右手の手首から先があり得ないくらい項垂れる姿は、衝撃以外の何物でもなかった。そのうえまだ痛みが無いのが余計に怖い!


 多分今の俺の力ならガルディアとは良い勝負が出来るのかもしれない。だがそれはあくまで素早さでの話だったようで、自分の力で負傷してしまう貧弱さが勝敗を分けた。というより、もう自分の手があっちゃ向いた時点で戦いどころではなくなってしまった。


 そんな俺を見てもまだ勘違いしているのか、ガルディアは大きく剣を振り払い言う。


「貴殿と戦えて本当に良かった。冥土の土産には贅沢過ぎる。本当に感謝する」


 ガルディアにとっても今の一撃は相当な衝撃を与えたようで、まるで勝てないながらも戦えた事に感謝するような事を言い始めた。


 イケんのか!? もしかして体に当てればイケんのか!?


 この口振りには、右手はブラブラだが期待してしまった。実際まだ左手は残っているし、もし次の一撃を体のどこかにぶち込めれば勝てるような気がして来た。のだが……

 

「……参った! 俺の負けだ!」

「えっ?」


 正直もしかすると? とはちょっと考えたが、やはりやめた。というのも、例え左手を犠牲にして勝ったとしても俺に得は無いし、何よりやろうと考えた瞬間、「次は勝つと思わせるのがギャンブルなんですよ? そんなのにお金を使ってるからリーパーはいつまで経っても貧乏なんですよ?」という昔フィリアに言われたセリフが脳裏を過ったからだ。

 それにスクーピーももうエリックの腕の中だし、意味が無かった。


「だから俺の負けだ! 見ろ! 俺じゃいくら殴っても手が折れるだけでお前には勝てないよ! だから俺の負けだ!」


 さすがにここまで言えばアホでも分かるだろうと、ブラブラの右手を見せて戦えない事をアピールした。だがやはりガルディアはアホのようで、また違う意味に解釈してしまう。


「ハハハ。貴殿には敵わないな。なら期待に応えよう!」


 何に対しての期待なのかは分からないが、何かに応えようとガルディアは左手に青い小さなカプセルを召喚した。


「貴殿はこれが望みなのだろう?」


 ガルディアは召喚したカプセルを見せ言う。しかし俺にはそれが何かは分からず、この人は何を言っているのだろう? となってしまった。


「これならさすがの貴殿でも全力を出してくれるのだろう?」


 ガルディアは言葉を間違えたのかと思ったのだろうか、敢えて同じような事を二回言った。それでも俺にはその青いカプセルがなんなのか分からないままだった。


「あの……その~……それ何?」

「…………」

「…………」

「…………」


 沈黙が訪れた。多分ガルディアにとっては俺の質問は想定外だったようで、カプセルを見せたまま硬直してしまった。


「…………」

「…………」

「……これは魔人薬と言って……」


 説明始めちゃったよ! 


「飲めばその者の力を強大に高める薬だ。例え人間が飲もうとも魔人の如き力を得られることから魔人薬と呼ばれている」


 サンキューガルディア! 俺にとっちゃどうでも良い説明だったけど、また変な空気にならずに済んだ!


「これを飲めば、流石に貴殿でも全力を出さずにはいられないはずだ。だからどうか俺の最後の頼みを聞いてくれ」

「お、おい。最後ってなんだよ……?」


 まるで死に向かうようなガルディアの口振りにもしやと思った。あの薬を飲めば物凄い力を得られるのだろうが、多分その代償は死に近い物なのだろう。それでも悪魔がそこまでするとは思えず、これ以上面倒な事になるような空気に、止める意味で訊いた。


「無論この薬を飲めば元には戻れぬ! それ故せめてもの情けとして貴殿の力を見せてくれ!」

「おい馬鹿! やめろ!」


 思っていた以上に悪魔というのは騎士道精神に溢れていたようで、憧れの存在と全力で闘いたいという想いが強すぎたのか、ガルディアは躊躇する事無く薬を飲み込んでしまった。

 

「ぐわぁあああ!!」

「馬鹿! 吐き出せ!」


 薬を飲み込むとすぐに症状が出始めたのか、ガルディアは喉を押さえ苦しむようにうめき声を上げた。

 そんなガルディアに、俺がきちんと誤解を解かなかった事がいけなかったという後悔が生まれた。しかし既に手遅れだったようで、苦しむガルディアは黒と赤が入り混じったような魔力を上げ始め、次第に体を大きく膨らませていった。


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