奇跡の帳尻合わせ
「うりゃっ!」
ガルディアとの一騎打ちが始まり、やけくそで猛攻を仕掛けた。すると次第に気分が乗り、予想外に優勢な展開となっていた。
パキンッ!
「またか!」
だがいくら攻撃を仕掛けても全てガルディアに防がれ、さらに地力以外にも武器まで劣っているようで既に三本目の武器まで折られてしまった。というか折られたというより、エリックの力で強化された俺の肉体が馬鹿力過ぎて、ガルディアの剣に叩きつけるだけで勝手にへし折れていた。
それでも馬鹿力のお陰でスピードだけは完全にガルディアを上回っていた。
「どうしました死神殿。そろそろ準備運動は終わりにしませんか」
スピードでいくら勝っていても、これだけ剣を打ち合わせればいい加減ガルディアとの実力差は身に染みていた。
実際幾度となく背後を取っても完全に防御され、渾身の力で打ち付けてもビクともしない。それは武器が貧弱であるのも一理あるが、それでも歴然としていた。
「準備運動? なら先ずはそっちが全力を出すのが礼儀じゃないのか?」
この頃には既にテンションも上がり、戦いが楽しくなるほど好戦的になっていた。それは恐怖という感情さえ押し殺し、まるでゲームをしているような感覚だった。それが俺の口調を荒くしていた。
「これは失礼。ではそろそろ本番と行きましょう」
「なら次からはもっとしっかり守れよ? 次は剣ごと腕を落とす気で行く」
感触的にはもっとしっかりとした武器ならガルディアを吹き飛ばせるような感覚はあった。それにいい加減ポキポキ小枝みたいに折れる武器には相当フラストレーションが溜まっていた。そこで次はストレスをぶつけるつもりで思い切り叩くため、より丈夫そうな手斧を拾った。
「ではここからは全力で行かせてもらいます」
俺が手斧に武器を変えたのを見てガルディアも本気を出すようで、初めて大剣を両手で持ち下段に構えた。そして魔力を高めたようで、黒いオーラが立ち上るとガルディアの体がより重量感に溢れた。
しかし逆に重く感じた事でさらに俺の動きには付いては来れなくなったと思うと負ける気がせず、心の中でほくそ笑んだ。
「さぁ来い!」
「では遠慮なく。行きます!」
その思いが誤算だった。先ほどから俺の動きは捉えてはいても防戦一方だった事から余裕だろうと油断していると、ガルディアはあの幽霊のように迫る不思議な動きを見せ、あっという間に目の前に来て武器を振り上げていた。
これには正直悲鳴を上げそうになるくらいビビった。それでもやはりスピードでは俺の方が上回っているようで、必死になって避けるとかすり傷一つ負わず一気に安全圏まで避難できた。が、“ふぅ~ビビらせやがって”のふぅ~くらいでまたガルディアは間合いを詰め、剣を振り上げていた。
おおおぉぉぉ! ちょっと待って!
とにかく必死だった。多分見てから避けられている事から速さでは勝っているのだろうが、全く足を動かさずいきなり大きくなるような感じで迫るガルディアの攻撃には逃げ回るしかなかった。
ぬぉおおおぉぉぉ! ちょっと一回タンマ!
全くガルディアの技には対応できず、ひたすら避けまくった。それでもガルディアは執拗に迫ってくる。その上いつの間にか手に持っていた斧まで無くなり、完全に形勢は逆転してしまった。
「何やってんのあんた! 何でちゃんと戦わないの!」
逃げ回っているうちたまたまエリック達の近くを通ると、もうただの観客と化しているツクモがヤジを飛ばす。しかし声は聞こえていても今の俺には反論する余裕は無かった。
そんなツクモのヤジだったが、意外と効果があったようでガルディアは突然攻撃の手を止めた。
「流石聞きしに勝る豪傑ですね。やはり私程度では役不足ですか?」
勘違いが勘違いを呼び、ガルディアは俺がふざけて遊んでいるかのように感じたようで、返事を待つかのように構えを解いた。
プルフラムの奴らって馬鹿ばっかなの!? どう見ても遊んでるようには見えないよね!
ここにいる全ての者がアドラとロンファンに見えた。それくらい彼らの言っている事はおかしいし、緊張感が無かった。
「一体どうすれば貴殿は全力を見せてくれるのですか? それとも私は殺す価値も無いという事ですか?」
俺をインペリアルと勘違いしてからどんどん口調が丁寧になるガルディアは、とうとう自虐的な事を言い始めた。それがなんか俺が虐めているような気分にさせ心苦しい。
「ち、違うよ! 別にそんな事は思ってないよ! だってお前強いじゃん! いきなり幽霊みたいにスーッと来てさ! だから別に俺は遊んでるわけじゃないよ!」
そう言うと場がシーンとした。
え? 何この空気? 俺なんか悪い事言った!?
超気まずかった。まるで俺が女子を泣かせたかのように全員が見つめる空気は、得も言われぬ孤独感があった。
「ハハハハハッ!」
「あははははっ!」
俺を責めるかのような沈黙が破られると、今度は突然の笑いが起こった。
訳が分からなかった。多分プルフラムでは今の俺の言動のどこかに笑いを誘うような原因があったのかもしれないが、命のやり取りの最中でも大笑いする彼らの感覚にはついていけなかった。
「やはり貴殿は面白い! あちらで“英雄”と呼ばれるのも頷ける!」
死神という通り名だけでも驚きなのに、どうやらプルフラムでは俺がシェオールの英雄と呼ばれているのも知られているようで、ガルディアの発言には耳を疑った。
「ちょっ! なんで俺が英雄って呼ばれてるの知ってんだ!?」
そう訊くと場にはさらに笑いが起きた。
「ハハハッ! それは当然だ死神殿! アドラ・メデクの師であり、プルフラムにグランドタートル(山亀)を送り込み地を荒らし、メフィスト軍千人将バルフレイム殿まで倒し魔王メフィストに喧嘩を売る。そして神獣までをも遊び相手とする。もはや貴殿を知らぬ者などこの地にはいない!」
えっ? 嘘でしょ?
「軍も持たず単身敵陣に乗り込み統一を狙う貴殿は、我ら弱小勢力の憧れだ!」
ぬぁにぃぃぃぃ‼ 尻餅ばかりつかされて、ミズガルドではボコボコにされてアドラに守ってもらってただけの俺が悪魔の憧れ!? どこでどう転んでそうなった!?
確かに山亀、ミズガルドの悪魔、ハクウンノツカイの襲来という事件に関わっただけでも物凄い事だろう。それでもその全てで全く活躍していない俺が良い意味でシェオールだけでなくプルフラムにまで名を轟かせているのは間違っている。あ、でも、プルフラムの方では良い意味でもキャメロット側では魔王に喧嘩売る物凄い悪事だからプラマイゼロ? って言うかただのテロリスト!
奇跡の帳尻合わせにより、ある意味こっちでも英雄視されている事実は、俺にとっては全然有難くない現実だった。
「だから死神殿! せめて貴殿と戦ったという誇りを与えてくれ!」
なんか勝手に俺の事を憧れの英雄だと勘違いし、思いの丈をぶつけたガルディアは仕切り直したかのように再び構え出した。それを見て周りのギャラリーもいよいよ本気の戦いが始まるというような熱視線を放ちだした。
これにより真実を伝えられるような空気ではなくなってしまった。
「さぁ見せてくれ死神殿」
多分物語だと、ガルディアの熱い思いにより遂に本気を出す英雄的な感じなのだろうが、全く全然腑に落ちない俺は物語に入ってはいけなかった。
「よし来い!」
だけどここで折角出来上がった良い雰囲気をぶち壊す事も出来ず、実はハクウンノツカイからここまでは全て夢で、最後はびっくりして実家のベッドの上で起きるのだと言い聞かせ、「多分なんとかなるさ」と、とにかく頑張る事にした。




