勘違いの果て
「先ほどの無礼は詫びよう。さぁ武器を取れ、高貴なる者よ!」
俺の失態でツクモが離脱した事により、ビリーフ・マーズ首領ガルディアはまるで一騎打ちを申し込むような態度を取り始めた。
これにはエリックでさえ援護の手を止め、なんか知らんけど「さぁ貴方の力を見せて下さい」的な感じで俺を見つめていた。
無理に決まってるべや! エリックももしかして本気で俺がインペリアルだと思ってんの!?
もう訳が分からなかった。騎士のような態度を見せるガルディアも、まるで「貴方の真の力を見せてくれ」的なエリックも、未だに腰を下ろして戦う気を見せない金髪の青年も、その全てが“俺が本当は強い主人公”的な空気を醸し出すこいつらは馬鹿としか言いようが無かった。
「さぁいざ戦おう!」
ミズガルドの時と言い、多分プルフラムというか悪魔や魔族の間では、インペリアルは敬意を払うほどの存在なのだろう。それが分かるようにガルディアは先ほどとは全く異り戦いを楽しむような雰囲気となり、どうしたら良いとエリックに助けを求めると、「お願いします」と言わんばかりに静かに確かな頷きを見せた。
お願いしますじゃねぇから! 殺す気か!
今までアドラはイカれたバトルマニアだとばかり思っていた。しかしどうやら魔界ではアドラは普通らしく、こんな時に限って微笑むアドラの顔が脳裏を過った。
そんな俺の態度に、もう仲間をやられたとかアジトに侵入されたとかを通り越して戦いたいのか、ここでガルディアは物凄い事を言う。
「そうか。俺としたことが済まなかった。娘は返そう」
「えっ!?」
「貴殿は娘の身を案じているのだろう? そんな事も分からず挑んだ非礼を許してほしい」
もうガルディアはスクーピーを攫った憎き敵ではなかった。インペリアルだと勘違いしている俺とどうしても戦いたいようで、剣を下ろし詫びるように頭を下げた。
「おい! 娘を連れて来い!」
「は、はい~!」
本当にスクーピーを返してくれるようで、ガルディアは逃げ遅れ岩陰に隠れていた部下を奥の部屋へと向かわせた。そしてしばらくすると部下たちは本当に眠っているスクーピーを連れて来た。
馬鹿なのこいつら!?
「すまないデール殿。折角足を運んでもらったがエインフェリアはそちらにお渡しできなくなった」
戦う気配を見せずずっと腰掛けていた金髪の青年はどうやらビリーフ・マーズの一味ではなかったようで、ガルディアはお伺いを立てた。
「別に問題無い。だけどせめて“死神リーパー”の実力だけは見せてくれよ」
「死神リーパー!? まさかこんな形でお会いできるとは……期待に応えられる自信は無いが尽力しよう」
ガルディアがそう言うと、金髪の青年は期待してるぞ的な笑みを見せた。
それを見て、スクーピーは本当に返してくれるようだったが、何故か俺の名に死神を付けた事と、それを聞いて嬉しそうな声を上げたガルディアに嫌な予感がした。
「では娘は返そう死神殿。そして無礼を働いたことを詫びる。申し訳なかった」
勘違いというか、絶対プルフラムで俺は有名なのだと分かった。それはアドラのせいなのかエリックのせいなのかは知らないが、良くない方の噂だ。
「おい何してるお前達! 早くその子を死神殿にお返ししろ!」
「は、はい!」
何故そこまでして俺と戦いたいのかは知らないが、もうガルディアの目的は変わってしまったようで、今までの苦労が一体何だったのかと言いうほどあっさりスクーピーは俺の腕の中に戻って来た。
だがスクーピーの温もりを抱きしめると全てを許せると思えるほどの幸福感に満たされ、景色が一変した。
匂い、感触、愛しい寝顔。親の苦労など何も知らないかのようにすやすや眠るスクーピーは柔らかく、優しい匂いを漂わせる。それだけで今まで生きてきた事が祝福されたかのような気持ちが込み上げ、生まれ変わった気がした。のだが、いつの間にか傍に来ていたエリックがまるで自分の物のように勝手に俺からスクーピーを奪い取り、何事も無かったかのように定位置に戻るのを見て、そりゃないっすよ! 状態になった。
しかし魔人化したままだがとても穏やかにスクーピーを抱きしめるエリックの姿は母親そのもので、こればっかりは勝てないとスクーピーを預ける事にした。
「では今一度手合わせ願う! 死神殿!」
スクーピーが戻りやっとハッピーエンドだと油断していると、まだ全然何も終わってはいなかったガルディアは、改めて一騎打ちを申し込んできた。
うえぇぇぇ!? もう良いんじゃない!? これで終わりで良いんじゃね!?
「あ、い、いや……その……」
人生最大のピンチだった。山亀の時も、ミズガルドの時も、ハクウンノツカイの時も含め、過去何度もピンチを迎えた俺だったが、この窮地は断トツだった。それは今まで経験したピンチには誰かかしらと一緒だったり、少なくとも仲間のバックアップがあったからだ。それが今はまさかの期待という名の狂気により無い! もしこれに匹敵するピンチがあったとするなら、腹を下しトイレで用を足した後紙が無かった事くらいだ!
そんな事も知らず完全に俺をインペリアルだと勘違いしているガルディアは、騎士道精神溢れる対応を見せる。
「済まない。俺とした事がまた急いてしまった。得物が無いのだろう?」
「え? あ、い、いや……」
「本当に申し訳ない。貴殿には玩具にしか感じないだろうが、そちらの部屋にそれなりの得物がある。済まないがそこから貴殿に見合う得物を使ってくれ」
「えっ?」
「おい何している! 早く倉庫の鍵を開けろ!」
「は、はい!」
もう大変! どんどん逃げられなくなって来たよ!
俺が渋るのは今度は武器が無いのが原因だと勘違いしたガルディアは、手下に倉庫の鍵を開けさせ好きな物を使えという紳士的な対応を見せる。その姿は紳士なのか極悪人なのかを分からなくさせ、アホにさえ見えた。
「さぁ好きな物を選んでくれ」
「あ……じゃ、じゃあ……」
本心は本当に戦いたくない。それでもここまでされると逆に武器を選ばないだけで逆鱗に触れ切り殺されそうな勢いに、倉庫に入るしかなかった。
そんな圧に負け渋々倉庫に入ると、賊らしからぬ整理整頓され綺麗に並べられた武器に驚いた。
剣、槍、弓、他にも鎧や盾があり、まるで店のように部類別に分けられている。その上あの独特の新品の匂いが漂い、床まで綺麗に掃除されている。
恐らく全て盗品なのだろうが、新品同様に管理された品揃えには“こいつらはきちんと働けば普通に生活に困らなくね?”と思ってしまった。
そんな武器庫に一瞬テンションが上がったが、高級店の店員のように入り口に張り付き盗まれないかと監視する手下の視線に気付くと、もう逃げられない事を思い出し、がっくり肩を落として適当に剣を掴み部屋を出た。
すると手下は、部屋を出る時何故か店員のようにペコリと俺に頭を下げた。
くそがっ!
「おぉ! やはり貴殿の獲物は剣か!」
絶対戦いたくはないが、喜びの声を上げやる気満々のガルディア。スクーピーが戻り安堵し、もう「後はお父さんに任せよう」という感じでツクモと共にゴードンさんの容態を見るエリック。そして何も知らず俺をインペリアルだと勘違いして、今や遅しと戦いの行く末を楽しむかのように眺める金髪の青年のせいで、もう逃げられない空気が出来上がってしまった。
「あぁ。悪いが手加減できねぇぞ」
もう開き直った。すると今まで追い詰められると委縮して吐き気に襲われるタイプだったのだが、逆にここまで追い込まれてしまったせいでネジがぶっ飛んだらしく、全くプレッシャーを感じなかった。
「それは有難い! では早速勝負だ!」
「来い!」
ある意味限界突破してしまった事で、ここから熾烈な一騎打ちが始まった。




