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エリックの実力

 エリックの両手から打ち出される黒い光弾は息つく間もなく打ち出され、赤髪の男を襲う。その数と速度はSランク冒険者でも避け続けるのは難しいだろ。

 しかし赤髪の男は俺の予想を上回る強さだったらしく、未だ武器も出さずその全てを躱し続けていた。


「オラオラどうした! 悪魔ってのはその程度か!」


 口調から頭の悪さにばかり気が行っていた為、余裕を口にして高速でエリックの攻撃を避け続ける男の動きには正直驚かされた。それ以上に悪魔であるエリックの全開の攻撃を前にしても、まるで遊んでいるかのような余裕には脅威を感じていた。


「オラ! 早く当てねぇとこっちから仕掛けるぞ!」


 どうやらエリックは本当に戦闘には不向きの悪魔のようで、接近戦を避け遠距離からの攻撃で戦うしか術がないらしい。その為始まってからずっと黒い光弾を放ち一辺倒な攻撃を続けている。

 

 これにはさすがにヤバイと思った。いくらエリックが悪魔であっても、プルフラムではエリック程度の使い手は悪魔でなくても山ほどいる。そんな事も知らずにここへ来た事に後悔を感じ始めていた。


「それともお前の魔力が切れるまで遊んでやろうか?」


 もうエリックの実力を知ってしまったのか、赤髪の男はますます調子付く。それでもエリックにはやはりこの方法しかないらしく、必死になって光弾を放ち続ける。


「遅い遅い! どうした! もっと近づいてやろうか!」


 赤髪の男もかなりエリックの攻撃に目が馴染んだのか、そう言うと距離を詰め始めた。しかしエリックにはもう男を捉える事は難しいようで、いくら光弾を放っても空を切るばかりだった。


「おいツクモ! エリックの援護に入れ! このままじゃヤバイ!」


 ここまで来るとさすがに俺でもヤバイのは分かった。そこで一騎打ちもくそも関係無くツクモに助けを求めた。しかし……


「えっ?」

「えじゃなくて! このままじゃエリックがヤバイの分かるだろ!」

「え? で、でも……」


 もう完全にエリックの力に侵されてしまったのか、今の状況を目にしてもツクモの反応は鈍かった。そんな遅れが赤髪の男に猶予を与えてしまったらしく、男は俺目掛け何かを飛ばしてきた。


「外野は黙ってろ!」

「あっ!」


 素早い動きからの男の攻撃には俺ではとても対応しきれなかった。当然攻撃に専念しているエリックにも反応できず、男が投げた何かは俺が身構えるより早くこちらに飛んできた。が、あの動きさえ見切っていたのか、飛んできた何かをゴードンさんが払い飛ばしてくれた。


「気を付けて下さいリーパーさん。いくら貴方でも油断し過ぎですよ?」

「あ、すみません……助かりましたゴードンさん」

「あ、いえ。私も失礼な事を言ってしまい済みませんでした」

「い、いえ……」


 多分ゴードンさんはまだ俺の事をインペリアルだと勘違いしているようで、助けてくれたのに何故かオドオドと謝った。

 そんな変な空気のせいで二人の戦いから目を話していると、もう赤髪の男はエリックに手の届く距離まで近づいており、状況は最悪だった。


「エリック! もう逃げろ! このままじゃやられるぞ!」


 本来なら俺が助けに入ればいい話なのだが、もう爆弾が炸裂したかのような戦いにはとても近づけるような状況では無かった。

 しかしもうエリックにも余裕は無く、俺の声など耳に届かないようで手を止めない。そして遂に男は攻撃を掻い潜りエリックの背後を取り、いつの間にか構えていた鋸のような剣で襲い掛かった。


 これには速すぎてエリックでさえ背後を取られた事に気付いていなかったようで、大振りで振り下ろされる剣を前にしても無防備にさらけ出した背中を守る素振りも見せず、目の前でエリックが殺されると思った。が、次の瞬間、剣が触れるか触れないかのタイミングで突然エリックの背中から黒い風船のような物が広がり、赤髪の男を包み込んだ。

 

 えっ?


 余りの一瞬の出来事に、何が起きたのか理解できなかった。ただ黒い影に包まれた男が悲鳴を上げて転げまわる姿に悍ましさを感じるだけだった。


 そんな男を前にしてエリックはゆっくり振り返り、冷たい視線を送る。


「…………」

「ぐわぁあああ! やめろ!」

「…………」

「うわぁああああ!」


 まるで捕食されているかのように黒いオーラに包まれる男は悲痛の叫びを上げ転げまわるが、エリックは苦しむ様を観察するかのように無言で見つめる。それは正に悪魔が興じるようだった。


「うわっ! うわぁあああ!」


 余りの惨状には誰も止めに入る事は出来なかった。それこそ今口を出せば次は自分の番になり兼ねない程の緊迫感があった。


「ああぁぁぁ…………」


 しばらくもがき苦しんだ男は事切れたようで、断末魔は吸い込まれるかのように小さくなり、黒い塊は動かなくなった。それを見届けてもエリックは直ぐには男に纏わりつくオーラを解く事はせず、焼き上がるのを待つかのように時間を置き、やっと黒いオーラを引っ込めた。

 すると姿を現した男の顔はまるで皮膚を剥がされたかのように血で真っ赤に染まっていた。


「さぁ次はどなたの番ですか? それとも全員ですか?」


 決着するとエリックはそう言い、今まで以上に黒いオーラを炎のように立ち上らせた。それを見て先ほどの戦いは全てが演技だったと分かった。


 圧巻だった。まるで自分が近距離に弱いように見せかけ相手を惹き付けて喰らう戦術も、倒した相手を見せしめにして苦しめる所業も、本性を現してからの強気の発言も、全てが恐怖を与えるエリックは正に戦いの達人だった。

 

 恐らくエリックはアドラやツクモのような強さは無い。だが戦術的、精神的な戦いなら圧倒的に勝る。それは力の無い者が目指す最終形のような強さで、俺が目指していた強さとも酷似していた為、よりエリックの恐ろしさを思い知らされた。

 だがエリックの恐ろしさはここからのようで、既に息絶えたはずの赤髪の男がぬるりと立ち上がり、力なく頭をもたげエリックに操られながら前へ進んだ。


「どうしたんですか? 早くしないと彼は死んでしまいますよ? それとも彼の傷を治す贄として取り込まれてくれるんですか?」


 俺との約束は覚えているようで、かなり損傷は激しいが赤髪の男を殺してはいないと言うエリックに、これだけ残忍な事をしてもそれが演技なのだと分かった。が、一向に動きを見せない一味に痺れを切らしたのか、エリックはボロボロの男を乱暴に操り雑兵の群れに突撃させた。


 エリーック! それは少しやり過ぎじゃね!?


 首と腕を力なく揺らし、鮮血を飛び散らせながら走る赤髪の男の姿はもうホラーだった。その悍ましさたるや突っ込まれる一味が腰を抜かしたり悲鳴を上げて逃げる勢いだった。そして役目を終えた赤髪の男は最低限の治療でもしてもらえるのか、静かに横たわると心地良さそうに腹の前で手を組み眠りについた。


 エリック! お前はマジで怖いよ! 


 だがその甲斐もありかなりの戦力を減らす事ができ、残るはリーダーと妙に落ち着いた金髪の青年だけとなった。


「さぁどうしますか? 私としては手荒な真似はこれ以上続けたくはありません。この辺で和平と行きましょう。どうか懐の大きなところを見せていただけませんか?」


 エリーック! もうお前がどっからどこまでが本気なのか分からないよ! さすが手品師だよ! 人を騙す事にかけては一流だよ!


 これには勝ったと思った。恐らくこの流れなら、例え相手がまだ抵抗しても一騎打ちになってツクモとエリックがどうにかしてくれるし、仮に二人一斉に掛かって来てもこっちには四人いる。

 小説や物語なら間違いなくこういう場合はまだ戦っていない俺やゴードンさんの出番になるのだろうが、世の中そんなにドラマチックでもないし、主人公は俺でも無いため、いざとなればエリックとツクモが戦う中、ゴードンさんの陰から石でも投げて応援するつもりだった。


 そんな俺の策略など知りもしない鎧を着たリーダー格の男は、まるで俺に味方するかのように一人立ち上がり、一人で戦うような素振りで立ちはだかった。


「和平か。面白い。では貴様ら全員の首が条件だ。全員で掛かって来い!」


 魔力で作り出した大剣を振り払い臨戦態勢に入った鎧の男は、今まで相手にして来たどの相手よりも大きく見え威圧感があった。その圧は全員が本能的に魔力を高めてしまうほど強烈で、ゴードンさんの陰から石を投げてなんとかやり過ごそうとしていた俺までもが身構えるほどだった。


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