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一騎打ち

 エリックの法螺が仇となり、ツクモと細目の男の一騎打ちが始まってしまった。当然こんな展開は予想していなかった俺達は唐突の出来事にただ見守るしかなかった。


「ねぇあんた。始める前に一つだけ言っとくけど、私が女だからって手加減しない方が良いよ? 残念だけど私は一発で仕留めるつもりだから」


 エリックの力を解放してから……いや、解放する前から狂っていたツクモは、今から真剣勝負が始まるにも関わらず、全く恐れる事無く挑発を続ける。それはまるでアドラのようで、物凄い安定感があった。


「するつもりは無い。俺の刃には二の太刀は無い」


 腕としてはエリックの言う通り相当な手練れらしく、ツクモの挑発を受けても細目の男は落ち着いて言う。その静けさが不気味で、全く手の内を知る事が出来なかった。


「二の太刀要らずか。良いわね! じゃあ早速始めようか?」


 全くツクモの挑発を意に介さない細目の男は、答えるように腰を落とし刀に手を掛けた。それを見てツクモも腰を落とし、逆手で柄を握った。


 俺はサムライや刀の戦い方は全く知らない。それでも両者が腰を落とし抜刀体制を取ると、流派によって型があるようで全く違う構えとなったが、二人が強い事だけは分かった。


 ツクモは背筋を伸ばしどっしりとした構えを取り、細目の男は頭を下げ前傾姿勢を取る。間合いは遠く、直ぐには決着がつきそうな感じはしない。しかし二人が構えると重々しい空気が流れ、二人ほどの達人ならあの距離からでも間合いの取り合いをしているようで、その空気が伝わる全ての者が息を殺したかのように静まり返る。


 呼吸の音でさえ出すことができなかった。それほど張り詰めた緊張感の中では、何が切欠で決着するか分からなかったからだ。それこそ高鳴る心音でさえ二人を刺激すれば、いつ飛び掛かるかも分からない程張り詰めていた。

 

 そんな緊張感の中、二人は徐々にすり足で間合いを詰め始めた。姿勢どころか重心すら変えぬよう半歩ずつ牛歩で近づく。それは俺が知る決闘とは違い、とても遅く静かだ。


 俺が知る決闘は常に相手に武器を向け、タイミングを計られないよう体を揺らしながら距離を詰める。そして後は相手が倒れるまでボコスカ殴り合う。他にも馬や牛に乗り突撃し合い交差の瞬間叩き落とすという物や、魔導士同士ならバッコンバッコン打ち合う物で、アルカナではどちらかと言えば決闘は見世物になるような物で、こんなに静かな戦いは見た事が無かった。


 その為防具も付けず真剣で切り合うというこのスタイルは、一瞬で決殺してしまうという事実から、見守る者さえ音を出せないという緊張感のせいでとても楽しめるような物では無かった。


 徐々に距離を詰めた二人は、とうとう互いの間合いの一歩外にでも来たのか、そこで足を止めた。そしてここからが本当の勝負なのか、まるで人形のように微動だにしなくなった。しかしその静止がより緊張感を高め、怖さを伝える。


 多分二人は今満を持した状態。それこそ矢先が互いの額にくっついたような状態なのだろう。しかしそんな状態でも先に手を放せば躱され、自分が串刺しになる。

 この戦い方の肝は分からないが、刃が届くギリギリの距離で睨み合う二人は、正にそれと同じような状況に見えた。


 ――誰かの汗が地面に落ちた。そんな音が聞こえたような瞬間だった。突然二人が弾けたような勢いで刀を抜いた。

 それは本当に一瞬の出来事だった。二人が動いたと思った次の瞬間には刀が描く光の線だけが見え、想像とは全く違うバンッ! という強烈な炸裂音が響き、二人は刀を振り抜いた姿勢で停止した。


 どっちが勝った!? ツクモが遣ったのか!?


 人が出せるとは思えないほどの炸裂音と二人の停止は、まるでどちらかが立ったまま死んでしまったのではと思うほどだった。何より俺には速すぎてどうなったのかは見えなかった。

 この衝突には悪魔であるエリックでさえ気圧されたようで、停止した二人が動き出す次の瞬間まで誰一人身動き一つ見せなかった。


 そんな中、先に動いたのは細目の男だった。だが何故か刀を手放し、静かに背筋を上げた。


「さぁ斬れ。これ以上は外道だ」


 意味が分からなかった。今のぶつかり合いからは二人には負傷は無いようで、ただ刀がぶつかり合っただけにしか見えなかったからだ。それなのに何故か細目の男は諦めたかのように刀を手放し、何故か外道を付けて「斬れ」と言った。

 もしかしたらただ単に俺が見えなかっただけで、実は細目の男は物凄い損傷を受けているのかもしれないが、それでも見たところ健康そうな男に訳が分からなかった。


「斬る必要は無いわ。いえ、斬るだけの価値は無いわ」


 何が何だか良く分からないが、本当に決着したようでツクモは刀を鞘に納め言った。


「あんた私に『二の太刀は知らない』とか言ったけど、私の流派は二の太刀必殺なの。分かる? 一太刀で刀を折られるようなあんたは、最初から私の敵じゃなかったって事。外道もくそも敵じゃないあんたには“道”すらないわ」

「くっ……」


 辛辣~! 良く分からんがツクモ辛辣~!


 確かにツクモの言う通り、よく見ると細目の男が手放した刀の先は折れてなくなっていた。それで男が負けを認めたのは分かったが、外道どころか道ですらないと言い放つツクモは、正に鬼だった。


「そんなに斬られたきゃ古巣に戻れば? あんたなんかでも斬りたくて仕方が無い奴一杯いるでしょ? それともあんたのいた所はそんな基本も出来てない三下だったの?」

「くっ……」

「もうここにいる誰もあんたに期待なんてしてないわ。ご退場願うわ」


 もうやめて上げてツクモ! お前には敗者に対する敬意は無いの!?


 スクーピーを攫った憎い敵だが、あまりに横暴な態度を取るツクモに責められる細目の男が可哀想になり、駆け寄って抱きしめて上げたいほど胸が痛んだ。

 しかし勝負の世界とは厳しい物で、負けた男は何も言い返さず、がっくし肩を落とし、トボトボ俺達の横を通り無言で外へ向かい歩き出した。

 

 そんな男の残した折れた刀が折れた心を映し出し、哀愁だけを残していた。


 正に殺し屋! ツクモってそっち系の殺し屋だったの!?


 余りにも痛烈な男の敗北には一味も哀れんだようで、物語のように「敗北者は要らん!」と言ってリーダーが殺すような事も起きず、結局男はそのまま部屋を出て行ってしまった。それを見て、魔界と言われるプルフラムも俺達人間社会とあまり変わらないのだと思い、微妙な気持ちになった。


 そんな中だった。やはりここは魔界のようで、細目の男があれだけ悲惨な死を迎えたのにも関わらず、次は俺の番だと言わんばかりに赤髪に灰色の肌をして、黒革のコートを着た男が前へ出て来た。


「随分面白くなって来たじゃねぇか。次は俺が相手をしてやる」


 やめとけよ! なんでこのタイミングでそんな堂々と出てこれんだよ!?


 赤髪に肌はまるで泥が渇いたようにヒビが入り、スラッとした体形にぴったり合った革のコートが強者の風格を醸し出す。しかし先ほどの展開を見た後だと、何故か彼がやられキャラに見えて仕方が無かった。


「おい娘! あんな口だけの奴に勝っただけで良い気になるなよ! 俺様が直々に嬲ってやる!」


 こいつは魂消だ。こんなにも瞬殺されそうな雰囲気を出す奴は初めてだぜ!


 見た目は強者。しかし喋れば喋るほどどんどん弱く見える。それこそ俺でも圧殺できそうな勢いに、あれだけ狂気じみたツクモでさえ刀に手を掛けようとはしなかった。


「どうした! ビビったか!」


 多分彼は一味の中では相当強いのだろう。実際俺の事を勝手にインペリアルだと勘違いして尻込みする雑兵とは違い風格もある。だが何故か相手にするだけ損な気しかしてこなかった。


「一騎打ちがしたいんだろ! なら俺を倒さなきゃてめぇらの娘は死ぬぞ!」


 口調や態度からやっすい挑発にしか感じず、例えスクーピーを殺すと言われても微塵も怒りを感じなかった。なのにここでまさかの人物が怒りを露わにした。


「貴方。そんなに死にたいのなら私がお相手します」


 エリーック! お前のツボが分からん!


 多分彼より弱い俺でさえいくら引っ叩いても怒らなかったエリックが、何故かこの挑発に目の色を変えた。それは今まで見て来た憤怒という怒りではなく、凍り付くような冷たい怒りだった。


「お前が相手か! 所詮格下悪魔なんだろ? 俺が相手をしてやるよ!」


 もうここまで来ると赤髪の男が馬鹿に見えた。しかし彼はどうやら本気のようで、エリックが強く一歩踏み出しても臆する事無く立ちはだかり、まるで見下したかのように顎を上げた。


 こうして何故か一騎打ちをしなければならない空気が出来上がってしまい、瞬殺の予感しかしないエリック対赤髪の男の戦いが始まってしまった。


 報告。

 予想以上に拗れた展開にストックが尽きそうです。リーパーVSケシゴムのプロットの奪い合いが起きています。この先投稿が途切れる可能性がありますのでご了承下さい。

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