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狂気

 事務所を後にした俺達は、エリックに導かれ敷地内の誰もいない倉庫の中へと移動していた。


「……これが主なリスクになります」


 倉庫に移動するとエリックは契約のリスクについて続きを話し始めた。そのリスクはやはりどれも危険で、こんな状況でなければ絶対に受け入れられるような物では無かった。それでも優しく丁寧に教えてくれるエリックには誰一人不満を口にする者はいなかった。


「そして最後になりますが、これだけは良く覚えておいて下さい。悪魔との契約は一見掟に従いするように見えますが、実際は悪魔が自分の操り人形を得るための物です。ですので最終的には私には危害を加える事は出来ず、私の命令にも逆らう事が出来なくなります。それを理解した上で契約するか否かを決めて下さい」

「えっ? ちょっと待てエリック。お前最後のはなんで言った」

 

 今までのリスクだけでもゴードンさん達は止めると言い兼ねないのに、俺でさえ二の足を踏むような操り人形発言には納得がいかなかった。


「これはスクーピーを救う為の契約だからです。ここからは信頼が絶対要素になります。だから私は全てを伝えました。もちろんスクーピーが戻ってきたら契約は解約するとスクーピーに誓います」


 世界基準ではエリックは悪魔なのかもしれない。しかし今スクーピーを救う為だけに全てを話すエリックは悪魔とは呼べない存在だった。

 そんな真摯な姿がゴードンさんとツクモを突き動かす。


「分かりました。エリックさん、デリトリー・ゴードンは貴方と契約致します」

「ちょっ! ゴードンさん!」

「じゃあ私もします! ササキ・ツクモはエリックさんと悪魔の契約をします!」

「ツクモ!」


 戦力は確かに欲しかった。それでもあれだけのリスクを聞いてしまえばスクーピーの為などとは言えなかった。


「やっぱり二人は駄目だ! いくら何でもリスクが大きすぎる! スクーピーの為に戦ってくれるのは嬉しいけど、やっぱりここからは俺とエリックだけで行く!」


 スクーピーをまた抱きしめられるのならどんなことでもする覚悟はあった。だがスクーピーを救う為に誰かが犠牲になってしまっては正義もくそも無かった。


「では契約についての条件を提示します」


 ここまで来て今さら駄目だなんて発言は我儘以外の何物でもない事くらいは分かっていた。だからこそもう誰も俺の事など構わず話を進める。


「待てよエリック! お前本当にそれでいいのか!」


 スクーピーを救いたい、でも関係の無いゴードンさんとツクモはこれ以上巻き込みたくない。それなら無理を承知でも俺とエリックの家族だけで戦う。そんな想いさえあった。

 だがやはり今の俺は邪魔者以外の何物でもないようで、あのエリックが辛辣な言葉を浴びせる。


「リーパーさん。もう私達にはやる以外の選択肢は無いんですよ。それを仕向けたのはリーパーさんじゃないですか。今最も覚悟が足りないのは、リーパーさん、貴方なんです」


 エリックの言葉だけでも十分重みがあったが、そうだと俺を見つめるゴードンさんとツクモの視線はさらに心の奥深くまで突き刺さった。


「最後に一度だけお聞きします。リーパーさんはスクーピーを愛していますか?」

「…………」


 これには即答できなかった。何故なら今自分がゴードンさん達を止めようとしているのは、本気でスクーピーを救いたいと思う行為では無かったからだ。


「ではリーパーさんだけはここから離れ、警察に助けを求めに向かって下さい」

「…………」

「ゴードンさん、ツクモさん。早速契約に入ります。こちらに来て下さい」

「はい」


 ゴードンさんやツクモ、エリックだけでなく、スクーピーからも見放された気分だった。そして、自分自身からも見限られたような暗く冷たい感覚がした。


 恐らく俺は何も成し得る事の出来ない人間なのだろう。口ではいくらスクーピーを愛していると言っても、結局は自分自身が可愛いだけだ。だから今目の前で大切な家族を失うかもしれないという状況でもぐだぐだ足を引っ張る。


 ハンターでAランクになり、ギルドスタッフとしてもエイダールでもそれなりにコミュニケーションを上手く取りやっている自分は、なんだかんだ言っても他人よりは優れていて、いざとなればいくらでも戦えると思っていた。そんな自分が実は口が上手いだけの見栄っ張りだと知り失望した。

 しかしその時だった。悔しくて拳を握りしめようとすると、自分の手相にある升掛線が見え、その瞬間何故だか突然スクーピーの手の温もりを思い出した。するとその感触はスクーピーだけでなく、ヒーやリリア、アドラやロンファンへと重なり、自分は一人ではないのだと勝手に思った。


「……エリック。やっぱり俺もエリックと契約する」

「…………」


 別に力が湧いたわけではない。ただ、俺の手に残る温もりを思い出した時、あれだけ凄い奴らがこんな俺の手を握り繋がっていてくれたと思うと、是が非でも離したくは無いと思った。


「リーパー・アルバインの名に懸けて誓う。この先俺はスクーピーをまた抱きしめられるなら、例え悪魔だろうが魔王だろうが全員殺す。だから俺も契約に混ぜてくれエリック!」


 再びスクーピーと手を繋ぎ、エリックと三人でシェオールに戻り皆と笑い合えるのなら、悪魔にでも神にでもなってやるつもりだった。

 そんな覚悟が伝わったのか、エリックが静かに口を開いた。


「一度だけと言ったのでもうリーパーさんには聞きません。ですが、敢えてリーパーさんの口からお聞きしたい。何故リーパーさんは戦うのですか?」

「俺がスクーピーの父親だからだ。それ以外に理由があるか」


 そう答えるとエリックは少し寂しそうな表情を見せた。


「分かりました。ではこれからここにいる全員と契約します。ですがリーパーさん。リーパーさんだけには一つだけ条件を加えます」

「条件?」

「はい。リーパーさんだけはこの先誰一人殺してはいけません。その条件を前提にして下さい」

「分かった」


 何故? と聞くまでも無かった。それは俺もエリックに求める条件だったからだ。だがそうは答えてもいざとなればいくらでもその条件を破るつもりだった。それは例え俺の手が汚れてもエリックさえいればこの先スクーピーはいくらでも幸せになれるからだ。

 俺の中ではすでにエリックは、スクーピーの掛け替えのない親になっていた。


「だけど俺にも条件がある。エリックもこの先誰も殺すな。もし殺さなきゃならなくなったら俺に言え。俺がいくらでもお前の代わりに殺してやる」

「それは……分かりました。もしそうなったら私が最後にリーパーさんを殺します。それで良いですか?」

「あぁ、ありがとう」


 何故俺がエリックと出会い、エイダールでスクーピーと出会ったのかが分かったような気がした。

 俺は主役にはなれないが、物語には参加できただけでも良かったと感謝した。しかしどうやらこの物語には相当良い役者が揃っているようで、ここでゴードンさんとツクモが力を貸してくれた。


「安心して下さいお二人とも。二人には誰一人殺させはしません。そういう仕事は私達が請け負います。リーパーさんとエリックさんには必ずスクーピーちゃんを抱きしめさせてみせます」

「ゴードンさん……」

「そういう事。こう見えても私元暗殺者なんだよ。殺しは私に任せて」


 え? ツクモって元暗殺者なの? ……マジで!?


 ここに来てまさかの発言が飛び出したが、二人の温かい言葉に俺達は救われた。


 最近エタってきました。それはpvが増えないだとかブクマが増えないという話ではなく、全く話が終わらないという執筆からです。実際大まかな流れは把握しているのですが、一般ピープル主人公が災いしています。悪いのは全てスクーピーを攫った犯人です!

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