リスク
「えっ!? 君女の子だったの!?」
「うん」
意を決してエリックとの契約を望んだ青年だったが、追い詰められつい口が滑り自分が女性である事を白状した。これにより話がややこしくなって来た。
確かにそう言われれば女の子に見える! でもほんとなの!?
身長や体型は未成年だからだと思っていたが、そう聞くとますます女の子に見えて来た。
そんな驚愕の事実に驚く俺とは違い、既にスイッチが入ってしまったエリックはどんどん話を進めようとする。
「リーパーさん、今はそんな事を気にしている暇はありませんよ」
「で、でもよ」
「何か問題でもあるんですか?」
「い、いや……そういうわけじゃないけど……」
確かに彼……彼女が悪魔と契約するのに俺が口を出す事ではない。しかしなんか腑に落ちない。
「では早速契約について説明します。先ず私と……」
「やっぱちょっと待ってエリック!」
「どうしたんですかリーパーさん?」
「ちょっとだけ彼女と話させて?」
「え? ……まぁ良いですけど……あまり時間はありませんよ?」
「分かってるよ、すぐ終わる」
「早くして下さいよ?」
「あぁ」
時間が無いのは分かっている。しかしどうしても彼女とは話をしておきたかった。
これは別に青年が女性と分かったから下心が生まれたというわけでは無く、なんと言うか、悪く言えば女性差別のような感覚が芽生えてしまったからだった。
「なぁ君、一つ聞くけど、君歳は幾つだ?」
「十九」
見た目の割には思ったより年齢は上だった。だがやはり俺が一番引っ掛かったのは女性という事だった。
戦いは男の役目などという感覚は、ハンター時代もそうだが、ギルドスタッフになってからも俺よりもずっと強い女性がいた為ほとんどない。どちらかと言えばそんなに強いんだったら全部任せたい。だが苦行となると話は別だ。
恐らく世の理では女性は男性よりも強く、戦いという環境では勝る。今までは進化の過程で何とか男性優位の社会を築けてきてはいるが、それは女性がいたからだ。だからこそせめて男としてはそれくらいの重荷を背負う見栄を張らなければならない。
そんな味噌っかすのプライドが、彼女を、それも未成年の子をこれ以上巻き込むわけにはいかなかった。
「そうか。じゃあ君は今すぐ警察に行ってくれ」
「えっ!? 何で! 私だって戦える! こう見えても剣術では免許皆伝してんだよ!」
「だからだよ。君の足なら直ぐに助けを呼んで来れるだろ? 俺達が突入しても成功するとは限らないだろ?」
体力や体の扱い方を見ても彼女の腕は確かなのは分かる。それでもどうしてもこれ以上彼女を危険な目に合わす事はしたくは無かった。
「なら尚更私が必要でしょ! 多分この中じゃエリックさんの次に強いの私だよ! 何でそんな事言うの!」
彼女が女性と知ってしまったせいで、もう俺には彼女とスクーピーが被って見えた。もし将来スクーピーが大人になり、今の彼女のように誰かを助ける為に悪魔と契約すると思うと、こんな非常事態でも受け入れられなかった。
そんな俺に対し、俺以上に覚悟が出来ていたエリックは優しく俺の肩に手を置き止めた。
「リーパーさん。リーパーさんのお気持ちは察します。ですが今は男だからとか女だからとかは関係ありません。ここはプルフラムです。戦う意思がある者を否定するのは無礼です」
やはりエリックは俺の事をよく理解してくれている。そんなエリックの言葉に、自分の軽率な行為に反省した。そして彼女に対して無礼を働いたことに謝罪し、改めて協力を頼む事にしたのだが、エリックの発言で彼女に油を注いでしまったようで、怒りを露わにして俺に迫った。
「ちょっと! 私が女だからそんな事言ってたの! 娘想いの良い父親だと思ってたけど最低な人ね! あんた女を馬鹿にし過ぎよ!」
彼女が怒るのは尤もなのだが、怒り狂う姿がまるでクレアのようで、違う意味で驚いてしまった。
「ご、ごめん! 確かに女だからそう思ったけど、本心は君がスクーピーと被って見えちゃったからなんだよ! 娘を持つと年下の女性は皆娘のように感じるんだよ!」
「何それ! 気持ち悪っ!」
ぐわぁ! 気持ち悪いはやめて! 超胸に刺さったんですけど!
「ホントだって! 君が強いのは俺にだって分かる! 俺だって一応ハンターやってたんだから! だから別に君の事を弱いなんて思ってないから本当は強力して欲しいんだよ!」
「ならさっきのはおかしいでしょ! それにハンターって何! 鹿とか狩ってたくらいでなんで私の強さが分かるの!」
「違う違う! そっちのハンターじゃなくてモンスターハンターの方!」
「あんたふざけてんの! ゲームと現実分かってんの!」
ええっ!? この子モンスターハンター知らないの!? 今まで俺が命懸けて戦った日々はなんだったの!?
超ショッキングな暴言の連発にもうすでに俺の心はグロッキー状態だった。そこに愛しき我が妻エリックが助け舟を出してくれた。
「もうそれくらいで良いでしょうお二人とも。確かにリーパーさんが貴女に働いた無礼でお怒りなのは御尤もですが、そろそろ遊びは終わりにして下さい。それ以上続けるのなら、例え貴女でも敵と見なしますよ」
あぁ愛しきエリック、ありがとう。なんだかんだ言っても俺の味方をしてくれる。お前は本当に良く出来た妻だよ!
重たい雰囲気を醸し出しエリックが仲裁に入ってくれたため、さすがに彼女も口を紡いだ。
「では改めまして契約について説明致します。良いですか?」
「……はい」
「リーパーさんは?」
「あ、あぁ……頼む」
俺のせいでかなり気まずい空気になってしまったが、そんな事はお構いなしに話を進めるエリックのお陰で、やっと本題に入る事が出来た。ごめんゴードンさん!
「では説明します。まず私と契約する事によってそれぞれの体に私の一部を取り入れて貰います。ですがこれは今リーパーさんに預けている状態とは違い、完全に肉体に溶け込みます。すると体内に入った私の魔力をほぼ百パーセント使用する事が出来るようになります。もちろんそれは貴方方の物になります。これにより混ざる事によって、本来ではありえない魔力を手に入れることができます」
今現在俺の体内にいるエリックの部下たちは、あくまで間借りの状態であり、俺の体とは離れた状態にあるらしい。その為部下達が悪さをしない限り俺には害は無く、エリックの魔力を俺が使う事は出来ない。
だが契約は完全に体と混ざり合うらしく、とても危険な臭いがして来た。
「ですが、混ざり合う事によって肉体や精神や思考が変化してしまいます。とは言ってもこれは直ぐというわけではありませんので安心して下さい。肉体や精神の変化は私の魔力を引き出せば引き出すほど顕著に影響します。これが一つ目のリスクです」
それはかなり怖い。もし人とは呼べぬ姿に変わればもう俺はシェオールへは帰れない。
「一つ良いですか?」
「はい。どうぞゴードンさん」
このリスクにはさすがにゴードンさんも危険を感じたのか、手を上げた。
「その変化は一時的なものなのですか?」
いい質問だ。もし一時的なものならそう恐れるものではない。
「相手と条件によります。リーパーさんや彼女のようにほとんど魔力とは無縁の生活を送っていた者なら、僅かな時間であれば髪や肌、目の色が一時的に変化する程度で済むでしょう。ですがゴードンさんのように魔族ならそうはいかないと思います。元々魔族は悪魔とは相性が良いため、一度干渉を受ければ永続的な変化をしてしまうでしょう」
「……そうですか」
ゴードンさんならいくらでも変化が可能だろう。それでもこのリスクには魔族であっても非常に大きい問題なのだろう。思いつめたように返事をしたゴードンさんにそう感じた。
「次に二つ目のリスクを……」
エリックが二つ目のリスクを話そうとしたとき、突然ここの従業員らしき人物が事務所に入って来た。しかしこれにはヒヤッとしたが、空かさずガードの彼女が手刀をくらわし気絶させた。
その反応の速さと手際の良さに、この子は相当腕が立つ事が分かった。
「ありがとう御座います、助かりました……あ~……」
「ササキ・ツクモです」
「そうですか。私はハンフリー・エリックと申します。よろしくお願い致します、ササキさん」
「いえ。それと、ササキではなくツクモと呼んで下さい。ササキだとなんか変な感じがして……」
「そうですか。では改めまして、ツクモさん、よろしくお願い致します」
「よろしくお願いします」
両親は外国出身なのか、ササキ・ツクモという随分と変った名には驚いた。それでもツクモという名には女の子らしい柔らかさを感じた。
「皆さん、話は後にして場所を変えましょう。どうやら先ほどの私の魔力のせいで外が騒がしくなって来たようです」
そりゃさっきあんだけ外の車がピーピーなってたらなるわな。
「でもこいつらこのままにしてたらすぐに気付かれるぞ?」
「それは大丈夫です」
そう言うとエリックは倒れる事務員を見つめた。すると倒れていた事務員達がまるでゾンビのように起き上がり始めた。
「えっ!?」
これにはエリック以外の全員が身構えた。そんな俺達にエリックが落ち着いて言う。
「大丈夫ですから落ち着いて下さい。これは私が操っているだけです。彼らは私がコントロールしますから、しばらくは安全です」
腐っても悪魔。今までエプロン姿のエリックばかり見ていたせいで、この技には度肝を抜かされた。
「というわけですので、とにかく一度移動します。私について来て下さい」
「分かった」
こうしてツクモとエリックのお陰で窮地を凌いだ俺達は、エリックとの契約をするため事務所を後にした。




