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魔界

 ようやくスクーピーを攫った犯人の正体を掴んだのだが、エリックの口から出た情報はあまりにも絶望的なものだった。


「四十人って!? 何でそんな奴らがスクーピーを攫ったんだ!?」


 スクーピーを攫った犯人は、エインフェリアだから排除するためにスクーピーを狙ったのだと思っていた。しかし飛び出した話は規模も目的も全く見当が違い、意味が分からなかった。

 そんな俺に、エリックに変わりゴードンさんが説明してくれる。


「恐れ入りますが、リーパーさんはもしかしてキャメロット出身ですか?」

「え? いえ違います。俺はアルカナ領出身です」

「そうでしたか。ではプルフラムは初めてなんですね?」

「えぇ」


 急にどうしたのゴードンさん? 今それ聞いてどうすんの?


「では良く聞いて下さい。プルフラムでは常に多くの魔族や悪魔が徒党を組んで統一を狙い犇めき合っているんです。そうなれば当然多くの構成員を持つ組織の方が有利になるんです。でも人を集めるとしてもそれすらも難しいのが現状です。そこで小さな組織はより力のある者を集め、少しでも組織力を上げたがるんです。だからシャロン……スクーピーちゃんのような生まれつき高い能力を持った子を攫い、無理矢理教育して自分の組織に取り入れようとするんです」

「う、嘘でしょ……? それって犯罪じゃないですか!」

「いえ、プルフラムでは常識です。ただここがエイダールだからそう思うだけです」


 それを言われて初めてエイダールが本物の魔界なのだと痛感した。


「だから私達ギフテッドがそういう子をスカウトし保護するんです。まぁでも、それも全てはオルテリガ様の為と言えば同じ事ですが……」


 今までずっとギフテッドは怪しい組織としか認識していなかった。しかしゴードンさんから語られた真実を聞いて疑っていた事を後悔した。


「オルテリガ?」

「エイダールの首領ですよリーパーさん。前にも言いましたよ」

「あぁゴメン」


 この質問には元の人の姿に戻ったエリックが答えてくれた。


「エイダールも元を正せば悪魔オルテリガが組織力を高めるために作り上げた都市なんです」

「高めるって、こんな裕福な国なら戦争するってなったら国民が反対するだろ?」

「だからですよ。戦争したくないイコール今の生活を守りたいという事ですから、例え魔王と呼ばれるメフィストが相手でも、エイダールが侵略されるとでも言えば国民は血眼になって戦いますよ。それこそ死力の限りに」


 それを聞いて目を丸くした。これだけ豊かな国を築き平和をもたらしても、それが全て死兵を育てるためだと知ると、その知略の高さに恐れを抱いてしまった。


「まぁそういう事です。所詮ここは魔界プルフラムです。いくら国外の文化を取り入れ平和に発展しても、全ては“奪う”ための物です」


 これがプルフラム! 魔界と云われるわけだ!


「それよりもリーパーさん。先ほども言いましたが今の戦力ではとても太刀打ちできません。ただ、犯人の目的がスクーピーの殺害では無いため猶予はありますから、今からでも警察へ向かいましょう!」


 スクーピーの身の安全が分かるとエリックからは慌ただしさは無くなった。それでも今から警察へと向かう判断にはさすがに悠長過ぎると思った。


「駄目だ! それはあくまで可能性の話だろ? もしスクーピーが嫌がったらどうなるか分からないんだぞ?」

「それはそうですけど……しかし今私達が突入したところで返り討ちに合いますよ? それにもしそうなった場合彼らが目的を変更する可能性もあります。やはり今は慎重を期した方が良いはずです」

「それでも駄目だ! 今現在俺達の元からスクーピーは攫われてんだぞ? それだけでも腸が煮えくり返ってんだ。これ以上奴らに時間は与えない」

「その気持ちは私も同じです。ですが現実を見て下さい! これは運や勢いだけではどうにもならないんですよ!」


 落ち着きを取り戻した事から、エリックは作業的にスクーピーを取り返そうとしているのかと思っていた。しかし怒りを口にするとそれに応えるように声を荒げた事から、エリックも相当煮えくり返っているのが分かって安心した。


「なる! ゴードンさん電話を貸して貰えますか?」

「え? ……はい。お使い下さい」

「リーパーさんこんな時にどこに連絡するつもりなんですか!?」

「専務だ!」

「えっ!?」


 もう俺の持つ全ての徳を使い果たしても構わない覚悟があった。もしここがシェオールならアドラやロンファンはもちろん、ハンター全員どころかシェオール中にいる知り合いという知り合いに頭を下げて助けを求める。しかし今はいない。だから今俺が繋がっている手全てをつぎ込むつもりだった。


「すみませんゴードンさん。俺それの使い方知らないんで、今から番号を言うんで繋げて貰えますか?」

「構いませんよ。どうぞ」


 俺達は携帯などという便利アイテムなどは持っていなかった。それでも連絡先だけは大切に財布に保管していた。

 それを引き出し早速ゴードンさんに繋いでもらおうとすると、ここでエリックが止めに入った。


「ちょっと何をするつもりなんですかリーパーさん! 専務に伝えたところでどうにもなりませんよ!」

「なるならないじゃないんだ! ならせなきゃならないんだよ!」

「そんな事言ったって、専務には迷惑以外の何物でもないんですよ!」

「そんな事分かってんだ! それでも今はやらなきゃなんない! お前スクーピーを救いたいんじゃないのか!」

「そうですけど……それなら警察の方が先じゃないですか!」

「違う! エリック! お前本当にスクーピーを救いたいのか?」

「救いたいですよ!」

「なら覚悟を見せろ! お前の全てをつぎ込む覚悟を見せろ!」


 そう言うとエリックは黙った。

 俺だってエリックの言っている事が正しいのは分かる。それでも今必要なのは賢い理屈ではない。今必要なのは無理でも貫く覚悟だ。


「ゴードンさん番号を言います! 60A……」

「はい!」


 相当俺の活が効いたのか、ゴードンさんが番号を打ち終えるまでエリックは静かにしていた。


「はい! 後はここのボタンを押せば繋がります!」

「すみませんゴードンさん! ここですね!」

「はい!」


 だがいざ俺が専務に連絡を取ろうとすると、エリックが静かに俺を呼んだ。


「リーパーさん」

「なんだエリック! 今忙しいから待ってろ!」

「私と契約してくれませんか?」

「はぁ?」


 突然の意味不明の言葉に、思わず手が止まった。


「私と契約ですよ。私と契約すればかなりリスクは負いますが力を得る事が出来ます。そうすればスクーピーを救う可能性が上がります」


 この言葉には荒れ狂っていた心が静寂になるほどの衝撃を受けた。

 エリックの言う契約とは、つまり悪魔との契約という事である。詳しくは知らないが悪魔と契約すれば人智を超えた力を手に入れられる。しかし当然それに伴うリスクも命懸けとなり、俺の知る限りでは悪魔との契約は破滅しか思い浮かばない。


「リーパーさんは覚悟を口にしました。ですから私も覚悟を決めました。私にもスクーピーの親としての誇りはあります。攫われた我が子の為なら例え父親であるリーパーさんを犠牲にしてでも救いたいです」


 例え俺を犠牲にしてでもという言葉には強い気持ちが伝わり、空気が変わった。


「当然これはリーパーさんだけの話では無く、ここにいる全員と契約します。どうしますか?」


 今までとは全く違う静かな張り詰めた緊張感が流れた。そんな中でも全く俺の頭は働かず、ただエリックを見つめる事しかできなかった。だがエリックの目を見た時迷わず言葉が出た。


「頼む! 俺と契約してくれ!」


 契約によってどんな力を得てどんなリスクを負うのかなど一切関係無かった。ただ今はスクーピーの事だけしか思い浮かばなかった。

 そんな俺の答えにも関わらず、エリックは静かに頷いてくれた。


「分かりました。ではそちらの二人はどう致しますか?」

「お願いします」


 ゴードンさんも即答だった。もうこの頃には俺もゴードンさんなら必ずそう答えると思っていた。それほどゴードンさんからは熱意を感じていた。


「貴方は?」


 一度は見限った青年だったが、それでもここまで付いて来た事にはエリックも見直したのか、もう邪険には扱わなかった。


「…………」


 しかし人はそう易々と変る筈も無く、青年は即答しなかった。


「ではリーパーさん、ゴードンさん、ここではあれですので、場所を移して契約しましょう」

「あぁ」

「分かりました」


 突然悪魔から契約しようなどと言われて即答出来た俺達の方がイカれているのは分かっていた。だから青年が尻込みするのは当然だった。しかし今はこの先へは狂気がなければ進めない。残念だが青年はやはり置いていくしかなかった。

 だがやはり青年にはガッツがあるようで、俺達が去ろうとすると意を決したように声を上げた。


「待って! やっぱり私も契約する! だから連れてって!」


 青年の呼び止めには誰一人驚かなかった。しかし青年が“私”と叫んだ事にはなんか微妙な空気が流れた。


「え? 今……」

「分かりました。ではここで契約致しましょう」


 エリーック! 一旦落ち着け! 今おかしなとこあったよ!


 緊迫したこの状況でも青年が私と呼んだ事に触れないわけにはいかなかった。なのにエリックは当然のように話を進めようとする。


「ちょっと待ってエリック!」

「はい? どうしましたリーパーさん?」

「どうしたじゃねぇよ! ちょっ、君! 君もしかして女の子なのか?」


 俺の問いかけに青年は一瞬面を広げたが、直ぐに表情が戻ると静かにそうだと頷いた。


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