信用
「おい青年! そろそろ援軍の準備をしといてくれ!」
「えっ!」
セルディオさん達の元を後にすると、俺達は再びスクーピーの元を目指し疾走した。そんな中でいよいよアームル地区に入り敵陣が近づくと、頼みの綱であるガードのチームが必要になって来た。
「えじゃなくて、ガードの援軍だよ!」
かなりの速度で疾走しているが、青年にはまだまだ余裕のようで、未だに呑気な返事をした事に、少しだけ不安を感じたのだが、ここで青年は何故か口を濁した事でその不安は少しでは済まなくなった。
「あ~、それなんだけど……」
「なんだよ! どうした!」
「実はさ……その~……」
一体何が問題なのかは分からないが、青年が子供のように唇を手で隠し濁すのを見て、嫌な予感がした。
「なんだ! はっきり言え!」
「実はさ、その~……わた、俺勝手に来ちゃったから、助け呼べないんだよね」
「えっ!?」
今この子何言っちゃったの!? 俺の聞き間違いじゃなければ今助け来ないって聞こえたけど!?
「いやだからさ、会社ではこういう仕事しちゃいけないんだよね。だからこれ会社にバレたらヤバイやつだから……」
やべぇのはお前の頭だよ! 今さら何とんでもない事言ってんだよ!
この事態にはさすがのエリックも足を止めてしまった。
「それはどういう事ですか!? もう敵のアジトは目の前なんですよ!」
相当エリックもピリピリ来ていたのか、ここに来て怒りを爆発させた。
「そ、その……すみません……」
青年も既にエリックの正体を知ってしまったためか、この怒号には肩をすくめて小さくなった。だがエリックの怒りは治まらない。
「すみませんって! 貴方! 私達は遊びでこんな事してるわけじゃないんですよ! これは命懸けの戦いなんですよ!」
「す、すみません……」
黒いオーラこそ出さないが、エリックの鬼気迫る勢いは俺ですら頭の熱が下がるほどだった。当然青年は委縮してしまい、もう何も期待できない状態になってしまった。
そしてエリックの怒りは限界に達したようで、ここで開き直ってしまう。
「もう良いです! ここからは私達だけでやりましょう! リーパーさん! ゴードンさん! ついて来て下さい!」
本来ならその考えは非常に危険で止めに入らなければならないのだが、ここまで来るのに色々とあったため俺達も賛成し、黙って頷いた。
「では行きます!」
「ああ!」
「はい!」
能力的には恐らく青年は貴重な存在だった。しかし心の面で信用を失ってしまい、俺達は何も言わず青年を置き去りにした。それでもガッツはあるようで、青年は少し離れた位置から後を付いてきていた。それはエリックもゴードンさんも気付いていたが、誰も気には留めずひたすら目的地を目指し走った。
「止まって下さい! ここです!」
しばらく走るとエリックは突然両手を広げ俺達を止めた。そこは某運送会社の前だった。
「本当にここなのかエリック?」
「はい」
全く予期せぬ場所に驚いた。俺はてっきり豪邸か廃ビルのような場所だと思っていたのに、今目の前にあるのはバリバリトラックが動き回っている大きな会社だ。それも名の通っているだけあってかなり建物も新しい。
「では行きますよ」
「えっ!? おいちょっと待てよエリック!」
もう待ったなし状態のエリックは、隠れるわけでもなく堂々と運送会社へ入ろうとした。これには俺だけでなくゴードンさんも慌ててエリックの前へ出て進路を塞いだ。
「なんですかリーパーさん」
「なんですかじゃねぇよ! お前正面から行ってどうする気なんだよ!」
「どうもこうもありませんよ。こっちには確証があるんですから、先ずは事務所に行って事情を説明します」
「説明って! そんなの通用するわけないだろ!」
「しますよ。それにこっちにはまともに戦えるような戦力は無いんですよ?」
「そりゃそうだけど……」
意外な事に、俺達が進路を塞いでもエリックは邪魔だ! というような素振りは見せず、声のトーンも落ち着いていた。
あれ? エリックって意外と冷静なの?
「それに、もしかしたら犯人は一部の者の仕業で、会社自体は関係無いのかもしれません。もしそうなら協力を得られるかもしれません」
「……分かった。エリックに任せる」
「ありがとう御座います」
この辺りはさすがとしか言いようが無かった。恐らく悪魔である以上こういう事には日常茶飯事なのだろう。先ほどまでの怒り狂ったエリックからは想像も出来ない程の落ち着きに、意外と簡単に終わるような気さえして来た。
そんなエリックのお陰で、煮えくり返った鍋のような状態になっていた俺達のリズムが落ち着きを取り戻し、胸を張って事務所の扉を開ける事が出来た。
「すみません」
「はい」
事務所の中も外観同様ちゃんとした会社のようで、パソコンが並ぶ広いオフィスにスーツを着た事務員が数名静かに業務をしていた。そして受付にも若い女性スタッフがおり、普通に対応してくれた。
「私はハンフリー・エリックという者なのですが、こちらの会社に私達の娘が誘拐されまして、ここの責任者とお話がしたいんですが」
「はい?」
エリーック! お前全然冷静じゃないよ! これ完全に殴り込みになってるよ!
ハンフリー・エリックのまさかの暴言にはさすがに受付の女性も首を傾げた。これにはヤバイと思い間に入ろうと思ったが、最初から戦う気満々だったエリックがいきなり魔力を全開にして全身を真っ黒くしてしまったため、もう止めるとか言う話ではなくなった。
「ですから。お宅の会社に家の娘が誘拐されたんですよ。ここの責任者を呼べと言っているんですよ」
事務所内のガラスというガラスがビリビリ音を立て、電気製品が全て異常をきたす。外からはトラックにまでも異変が生じクラクションが鳴り響く。そんな魔力を近距離で受けてしまった俺達は、押し潰されるような重圧を感じ、呼吸するだけでも重労働に感じられた。
当然これを直に当てられている受付の女性には耐えられる筈も無く、胸を押さえながら過呼吸に陥り始めた。そして事務員全員も突然の出来事に対応できずバタバタと倒れ始めた。
「どうやら責任者は不在のようですね。では申し訳ありませんが勝手に調べさせて頂きます」
止めなければならない事は分かっていた。しかしもう恐怖とかそんなレベルじゃない圧に全く動けなかった。
そんな俺達を他所に、エリックは力ずくでもスクーピーを取り戻す気なのか、捕食するかのようにドス黒い魔力を地面に走らせた。
エリックの捕食スタイルは、自分の部下をまるで無数の虫を這わすかのように伸ばし、相手を包み込み喰らう。それはエリックにとってはごく当たり前のことなのだろうが、初めて見たときはその悍ましさに身の毛がよだってしまった。
これは完全にヤバイとは分かっていた。それでもあまりの魔力に圧され声さえ出せなかった。それは全ての事務員が黒い魔力に包まれても変わらず、俺はただ目の前で人が喰われるのを見ている事しかできなかった。と思ったのだが、しばらく事務員に纏わりついた黒い魔力が引くと、全員が元の姿で現れた。
「なるほど。リーパーさん、スクーピーの居場所が分かりました。どうやらこれは本当に戦力が必要なようです」
「え?」
「スクーピーを攫ったのはビリーフ・マーズという組織です。彼らは反社会組織のようで、スクーピーを攫って育て、自分たちの組員にするつもりのようです」
姿は未だに黒いままだが、圧は無くなりいつものエリックだった。その切り替わりの速さには呆気に取られたが、その口調のお陰で我に返る事が出来た。
「お前、今あの人たちば食ったんじゃないのか?」
「まさか。ちょっと記憶を覗いただけですよ。まぁでも、彼らも下っ端と言えど構成員であることに間違いないので、少しの間ですけど彼らには私の部下を潜ませましたけど」
良かった~。俺マジでこいつが悪魔になったのかと思った。
「でもどうしますか。スクーピーの周りには結構な力を持った魔族が付いてますよ」
「そうなのか!?」
「はい。どうやら彼らは実行部隊のようで、大体三十人から四十人はいます」
「四十人!?」
「はい。そしてそのうちの一人は悪魔で、他にも五人から六人はかなりの手練れです」
「マジでか!?」




