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年末

 年末が近づくと気温はさらに上がり、太陽も高々と空を渡る雲と共に鳶を迎え入れる日が多くなった。それに伴い蝉は盛大に合唱を始め、流れる小川に情緒を漂わせる。そんな陽気に加え、迫る年末連休という喜びに浮かれるかのような街行く人々は、恥じらいも無く肌の露出が多くなった。

 それは俺にも言えた事で、さらに今日が休日という事もあり、三人でのお出かけにとても心が充実していた。


「うわ、凄い人だな」

「えぇ。年末の大売り出しですから仕方がありませんよ」


 エイダールでは年末は色々な物が安く売り出されるようで、それにつられ俺達はエリックがスカウトされた縁起の良いアーケード街へと来ていた。しかし今日の人ごみは想像以上で、まるで祭りでもあるかのような勢いは、アルカナの王室の式典並みだった。


「それでもこれはい過ぎだろ? 地元の人なら混む時間くらい分かるだろ? 少しは考えて時間選べばいいのに」

「リーパーさん、全員が地元とは限りませんよ?」

「まぁそうだけど……」


 とか何とか言う俺だったが、実は俺達も大売り出しにつられてやって来た。しかし今日の一番の目的はエリックの商売道具の買い出しであったため、せめてマジックショップまではのんびり行きたかった。


「まぁとにかく、スクーピーが怪我をしないようにだけ気を付けて行きましょう」

「あぁ」


 エイダールでは戦いとは無縁の人が多いようで、鎧や武器を装備して歩き回るような人はいない。そのため体がぶつかっても怪我をする事は無いが、それでもこの人ゴミならスクーピーが蹴られたりする可能性は大いにあった。それに加え、このチャンスを逃さぬとばかりに各店も大売り出しなどのプリントが入ったのぼりを立てているせいで、通行人以外にも危険が潜む。

 もしこれがエリックと俺だけなら邪魔だなという感覚で済むのだが、スクーピーを連れている今はまるで戦場のような緊張感があった。そして何より、いくら平和だからと言っても肌の露出が多い格好で歩く人々に、教育上良い環境だとはとても思えなかった。


「大丈夫かスクーピー?」

「…………」


 スクーピーにとっても今日の人だかりは怖さを感じるのか、声を掛けても前を見つめたままうんうんと素早く頷くだけだった。

 これにはさすがに失敗だと思った。今日は安いのならついでにおもちゃを買ってあげようという勝手な楽しみで安易にこの場所を選んだが、全くスクーピーの事を考えていなかった。もし本当にスクーピーの事を考えていれば、間違いなくこんな混雑した場所など選びはしなかった。それこそエリックに一人で行けと言っていただろう。


 そんな後悔もあり、せめてスクーピーには怪我がないよう細心の注意を払いながらマジックショップを目指した。しかしこういう時に限ってショップが遠く感じる。そのうえ奥へ進めば進むほど呼び込みの声や通行人の声も大きくなる。


 正にストレス! 一か所で色々揃うのは良いけど、これならもう来たくないよ!


 俺でさえストレスを感じるほどの混みように、もうお家へ帰りたくなった。しかしまた間の悪い事に、こういう時に限って丁度目的地に着く。世の中とは本当にうまく出来ているようだ。

 それでもやっと着いたと思うといくらかストレスは和らいだ。と思ったのだが、マジックグッズなどそれほど需要も無いから空いていると楽観していたのだが、やはり安売りという魔物は強力のようで、狭い店内は結構な賑わいを見せていた。


「はぁ~」

「どうしたんですかリーパーさん?」

「いや、今日は何処も混んでんなと思って……」

「諦めるしかありませんよ」

「分かってるよ」

「じゃあ行きましょうか!」

「あぁ」

「では少しの間スクーピーをお願いします」


 外よりはマシだが、いい加減疲れて来た。しかしエリックにとっては夢の国にでも来た感じなのだろうか、ここからが始まりだと言わんばかりに目を輝かせた。そして待ちきれないのか、返事をするとスクーピーから手を放し、手品師らしく黒を基調にした店内には不釣り合いな買い物かごを手に取った。


 あ、そこは手品師っぽい物じゃないんだ……

 

「リーパーさん達は適当に見回っていて下さい。何か欲しい物があれば持って来てもらっても構いませんよ。ただ、値段によりますけど?」

「え? あ、あぁ分かった」


 エリックが手を放すと、スクーピーにとってもこの空間は目移りしてしまうのか特に気にする様子も無く店内を見渡していた。俺はてっきりスクーピーはエリックから離れる事を嫌がると思っていた為、しばらく面倒臭い買い物に付き合わされずに済んだ事にホッとした。


「じゃあスクーピー。何か欲しい物無いか?」

「あれ~!」


 正直マジックグッズには興味は無かった。しかしスクーピーが興味がある物は見たかった。そんな俺の期待に応え、何が欲しいかを聞くと目一杯腕を伸ばし、指を差してあれだと元気な声を聞かせてくれた。

 

「どれ?」

「あれ~!」


 嬉しそうな笑みを見せるスクーピーに、ここへ来るまでの疲れが吹っ飛んだ。そしてこれだけの反応を見せるほどスクーピーが興味がある物に興味が湧いたのだが、指の先を追うとそこにはまさかのお面があり、思わずギョッとしてしまった。


「あれ?」

「あれ~!」


 さすが手品師御用達の店だけあって、販売されるお面も奇抜な物ばかりだ。貴族が付けるような仮面からピエロのような物、果ては化け物みたいな物まである。そこはまるで見せしめのため殺された多くの種族の顔が張られているようで不気味だった。


 こわっ! ここって拷問器具の店じゃないよね?


 そう思ってしまうほどの品揃えだった。だがさすがはエインフェリアなのか、これだけ凝視されたような感覚がするのにも関わらず、スクーピーは一つの面をしつこく指さす。


 スクーピーは不思議な子で、お面の類が大好きだった。それはエインフェリアという種族自体がそういう性質なのか、もしくはスクーピーは意識しなくとも顔の傷を隠したいという本能から来ているのかは分からなかった。それでも一応好みはあるようで、これだけ沢山の面がある中でもスクーピーは一つだけ選び指さしていた。


「これ?」

「それ~!」

 

 スクーピーが選んだのは、左側が黒、右側が白をしており、右目下に星があり、たれ目型になった表情がピエロのような優しい面だった。

 その面は値段が千円ほどだった事から、手に取りスクーピーに渡した。


「はい。これで良いの?」

「うん! ありがと~!」

「どう致しまして」


 スクーピーは最近ありがとうを覚えた。やはり感謝の言葉は大事で必要不可欠だ。そう思い教えたのだが、ここで出たありがとうには言葉を超えた衝撃を受けた。

 そのあまりにも強烈な感謝に心打たれたのが悪かった。この一瞬を付きスクーピーが面を被る為帽子と眼鏡を取ったからだ。


「ちょっ! スクーピー!」


 その時には時すでに遅しだった。俺が止めに入った時には既に帽子は床に落ち、星形眼鏡は放り出されていた。それでもスクーピーはお構いなしに面を被った。


「に~!」


 そして満面の笑み!


 丁度周りには他の客はいなく、誰にもスクーピーの正体を知られることは無かった。何よりスクーピーが大満足のようだったため、あれだけ駄目だと教えた事を破ったスクーピーを叱れなかった。


「スクーピー。帽子は取っちゃ駄目だよ?」

「……に~!」


 一応注意をするとスクーピーは少し反省するかのように沈黙を見せたが、どうやら相当面が気に入ったようで、満足そうに、に~と言った。


「よし! じゃあそれ買おっか?」

「うん!」


 これには勝てなかった。勝てる筈も無かった。だって可愛いじゃん!


 俺としては何処にそれだけの満足を得られる要素があるのかは分からなかったが、スクーピーが気に入ったのなら何も問題は無かった。スクーピーが喜ぶ事に価値があったからだ。


 正直ここに来るまでは失敗だったと思っていたが、全てがプラスになった事でここにはもう用は無くなった。そこで早速面を購入して帰ろうとしたのだが、そこで目にしたエリックの姿に、プラスが揺らぎ始める。


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