第6話 空の知る海は
バラ園の少しだけ開けた場所にて。
セレスの兄アズライトと、その幼馴染みのインカローズが抱き締めあっていた。
セレスは二人の姿を見て、愕然としてしまう。
もちろん慕っている兄が、女性と懇意にしていることに衝撃を受けているのもある。
けれども、そもそも――。
(インカローズさんは、カーネリアン王子様と婚約なさって……)
公爵家の娘である彼女は、この国の第一王子の兄アズライトの婚約者だ。
そして、兄アズライトは、第一王子カーネリアンとは友人同士のはずだ。
清廉で真面目な兄が、親友を裏切るような行動をとるはずがない――。
茂みから二人の様子を見ていたセレスは、そう思い込もうとした。
けれども、奥にいる二人は、抱き合ったまま、お互いの顔を近付けあった。
そうして二人は、口付けを交わす。
そこまで目撃したセレスは、それ以上は耐えきれず、その場から走り去った。
※※※
「そんな、お兄様……」
駆けるセレスの瞳からは、気づけば涙が溢れていた。水色の髪が風にたなびくと同時に、泪の粒が流れていく。
気持ちが落ち着かない。
わけもわからずに、セレスは走り続けた。
どれくらい時間が経っただろうか。
バラ園自体は大きくないが、迷路のようにいりくんだ造りをしている。もうすぐ外に出ても良い頃のはずだった。
だけど、先ほどの光景に驚いてしまったセレスは、何も考えずに移動してしまった。そのため、今一体自分がどこにいるのかが分からなくなってしまっていた。
乱れた呼吸を整える。
けれども、涙は止めどなく溢れ続ける。
(……お兄様……)
兄アズライトが、カーネリアンを裏切るような真似をしていたのが嫌だったのだろうか。
優しくて、真面目だと考えていた兄の、そうではない一面を見てしまったのが嫌だったのだろうか。
いや、違う。
兄がインカローズに対して向ける視線。それは、とても愛おしい人を見るものだった。決してセレスの前では見せてはくれない表情をしていた。
それを思い出すと、胸が軋む。
(私には、お兄様しかいないのに――)
暗い感情が、セレスの胸の内を占めていくのを感じる。
苦しくて、助けを求めたいが、兄以外の誰を頼れば良いのかも分からない。
自分で自分の心の内が分からぬまま、セレスはその場に立ち尽くしていた。
『なんで、泣いているの?』
また頭の中に、少年の声が届く。
頭痛がするため、セレスは頭を抑えた。
視界の端で、何かが煌めいた気がする。
(痛い……)
痛みが去るのを待とうと思い、彼女はその場にしゃがみこんだ。目をつむり、やり過ごそうとする。
落ち着いていた頃、夜なのに、なぜか眩しさを感じた。
ゆっくりと目蓋を開く。
「ここは、一体――?」
セレスは、知らぬ間に、水晶で覆われた洞窟のような場所に居たのだった。
いつもお読みくださってありがとうございます♪
ぎりぎりになって申し訳ございません。
また明日お会い出来ますことを、心よりお待ちしております。




