第38話 ロクスの亡霊
踏み入れた教会の中、女騎士セレスは老将軍イクシオン・ロクスと対峙していた。
「どうして、あなたに試されなきゃいけないっていうのよ?」
怒気を孕んだ口調でセレスは相手に向かって叫びながら、すらりとロングソードを抜いて切っ先を相手に向ける。
すると、対峙したイクシオンの眉が顰められると共に、剣の切っ先が彼女へと向けられた。
「ここは我が妻の生地であり最期を過ごした場所でもある。つまり、私にとっての聖域だ」
「は? 聖域? だからなんだっていうのよ!?」
「好き放題荒らされたくないということだよ」
抜剣したセレスは老将軍の下へと駆けると、相手へと剣を振り下ろした。
だが、簡単にいなされてしまう。
「剣筋が素直すぎるな……」
何度か相手に剣を打ち込むものの、老将軍は華麗にすべての技を流していった。
(こいつ、強い……!)
セレスの息が上がりはじめた。
だというのに――相手には余裕が残っている。
(亡霊だから体力を消耗しないの……?)
そんな中、イクシオンが剣先をセレスに向けた。
彼が口を開く――。
「爆ぜろ――」
彼女の全身を紫炎が包み込みはじめる。
「きゃあああっ……!」
セレスは叫びを上げた。
炎がゆらゆらと揺れ動いた後、ふっと姿を消す。
火傷は覆わなかったものの、ものすごい全身にものすごい重圧を感じて、その場に崩れ落ちる。
どっと汗が噴き出し、掌に汗が滲む。
(今のは何……?)
不思議と熱くはなかった。
彼女のそばに近づいたスピネルが問いかけてくる。
「セレス、どうしたんだい? 急に大声を上げてしゃがみこんだから心配したよ」
「スピネルには見えていなかったの……? 幻術……?」
肩で息をしているセレスの前――。
「スフェラの女騎士――」
(いつの間に詰められいたの――?)
立ちふさがったイクシオンが赤紫の炎の宿る瞳で女騎士のことを睥睨していた。
「私の試練は不合格だ」
「え……?」
ロクスの老将軍に試されていたようだ。
「今のお前では身を亡ぼすだろう――悪いことは言わない、ただちに立ち去れ」
セレスはひゅっと息を飲む。
今しがた見せつけられた実力差。
彼女がぎりりと臍を嚙んだ。
(今のままじゃ剣の守護者に勝つことはできない)
彼女の脳裏に、兄が殺された瞬間が浮かぶ。
――トクントクントクン。
おかしな鼓動を立てていたが次第に正常を取り戻していく。
セレスはきっとイクシオンを睨み返して告げた。
「――この身が滅びようとも――私は絶対に諦めない」
彼女の瞳に宿る黄金の炎の檻に老将軍は捕らえられる。
「ラフィ……」
彼が女性の名を呼んだ、その時――。
ゆらり。
空間が歪んだかと思うと、ぼんやりと人の姿が浮かぶ。
(新手!?)
現れたのは――白金色の緩やかな髪に、セレスと同じ黄金の瞳を宿した華奢な女性。
「女性を虐める男性は私は好きではありません、イクシオン」
竜と番が二組――神殿の中に終結したのだった。




