第2話 空は海と星を追い、彼らは闇と対峙する
金曜までにと考えていましたが、今日投稿できそうだったのでおこないました。
恐らく、これからも毎日更新になるかと思います。
「お兄様! 貴方は、私が、絶対に死なせない!!」
セレスには、兄と王子が、黒い子どもと闘う姿が視えた。
急いで裏庭から掛ける。屋敷の近くにつないであった馬に乗る。馬が駆けだした。
使用人たちが驚きの声を上げていたが、彼女は無視する。
兄と王子が出て行ってから、そんなに時間は立っていない。
まだ、間に合うはずだ――。
セレスは城を、まっすぐに見据えた。
※※※
カーネリアンとアズライトの二人が城の中に着いた。
騎士団長を発見したカーネリアンは、彼に問いかける。
騎士団長は茶色の髪をして、茶色の髭を蓄えた人物である。見た目はいかついものの、性格はわりと保守的な人物だ。一応、アズライトの直属の上司に当たる人物である。
「それで、状況はどうなっているんだい?」
カーネリアンは、有事だというのに、のんびりとした口調で尋ねる。質問すると同時に首をかしげたため、彼のふわふわとした金髪が揺れた。柔和な茶色の瞳が細められている。
騎士団長は、彼に近寄り、ひそひそと話し出す。
「はい、城の奥にある森の中で、『黒竜の王子』の力が暴走しているという話です。今は、高位の魔術師達や手練れの騎士達が数名で当たっているのですが、なかなか制御できず」
「そうなのかい? どうして、『黒竜の王子』は外に出てこれたのだろう? そうだ、向かっている騎士や魔術師らは、口の固い者だけなのかな?」
穏やかな調子を崩さないまま、カーネリアンは騎士団長に問う。団長は、「口は堅いと思います。あと、理由は分かりませぬ」と呻く様に話していた。
「まあ、いいか。アズライト、森に向かおう」
「ああ。それで、俺はどうしたら良い?」
カーネリアンのそばに控えていた青年アズライトは頷いた。彼の青く短い髪は、曇り空もあいまって、より深い藍色のように見える。アズライトの榛色の瞳は、カーネリアンの茶の瞳を捉えた。
「『黒竜の王子』の捕縛をお願いしたいかなあ。気絶させてくれれば、また元の場所に戻せるはずだからねえ。ただ、それが出来るかどうかが問題なんだけど……」
「困ったねえ」と、柔和な表情で告げてくるカーネリアン。彼を優しいと評する者達も多い中、のろまで愚図な第一王子だと陰口をたたく者もいる。
だが、アズライトは親友であるこの第一王子に対して、それらのどの評価も下していない。
今も、カーネリアンの口調こそ柔らかい。
だが――。
そこまで考えて、アズライトは頭を振った。
※※※
「団長様!」
城の門の付近に馬を置いてきたセレスは、城の中を走ってきていた。
一応彼女は、侯爵家の娘であり副騎士団長の妹という立場もあるため、城への出入りに関しては王から許可をいただいている。
とは言っても、普段は継母から言いつけられている家の雑事に追われているため、城を訪ねることなどほとんどない。
普段は物静かなセレスだが、現在鬼気迫る表情で、騎士団長の元へと走った。
「君は、アズライトの妹くんではないかね」
突然現れた部下の妹に、騎士団長は驚いている。
「団長様! 教えてください! 王子様と兄は、どこにいますか?!」
叫ぶように訴えるセレスに、彼はたじろぐ。
彼女の水色の長い髪は、走って来た影響もあってか乱れている。
「今は……その……」
いい淀む騎士団長に、セレスは少しだけ苛立ちを感じていた。
彼女の金色の眼がぎらつく。
「急がないと、二人の命が――」
そこまで言いかけたセレスを、再度頭痛が襲った。
「痛……!」
頭を抱えて苦しみだした少女を騎士団長が支えようとした。
が――。
すぐに彼女は、前を見据えた。
「奥にある、森」
そう言って、セレスはまた、駆け始めた。
彼女のその様子を、騎士団長は唖然とした様子で見ていた。
※※※
森の奥では、雷がそこかしこに落ちている。木々が倒れ、葉に火が付き、ところどころ燃えている。
雷の魔術が暴発しているその中央に、黒髪の少年がうずくまっている。
彼は、苦しそうにうめき声を上げている。
額から大量の汗を流しており、黒曜のような髪が肌に張り付いている。
カーネリアン王子とアズライトの二人は、少年の様子を遠目で確認した。
「早く抑えないとまずいな、このままでは……」
アズライトは、片手剣を構えながらそう呟いた。
その呟きを拾ったカーネリアンが、柔和な瞳のまま、アズライトに返答した。
「アズライト、『黒龍の王子』は殺さないでほしいんだ」
「ああ、分かっている」
アズライトが返答した後、カーネリアンが続けた。
「もっとも――」
その先の彼の声を、アズライトは耳にすることが出来なかった。
雷が二人を襲う。
慌てて、二人は避ける。危うく直撃するところだった。
「話している時間はなさそうだ、残念だね」
そう言って、カーネリアンは、詠唱を始めた。
アズライトも、魔術を防御する薄い膜のような壁を、自身の周囲に発生させた後に、少年に向かって走り出した。
薄い壁に雷がはじかれていく。
あと少しで少年に剣が届くという距離まで、アズライトは到達することが出来た。
だが、近づいて分かったが、少年の周囲には黒い靄のようなものが浮遊している。このままでは、彼に近づくことが出来ない。
「離れてくれるかい? アズライト」
カーネリアンの声が響いたかと思うと、鋭い閃光が少年を襲った。
一瞬だけ、黒い靄が晴れる。
その隙を狙おうと思い、アズライトが駆けだそうとした時――。
「止まって! お兄様!」
少女の声が、その場に響いた。
反射的に、アズライトは制止する。
すると、彼が本来なら到達しているはずだった場所の地面が隆起し、そこから黒い靄が激しく噴出していた。
もし、そのまま走っていたら、ただではすまなかったはずだ。
声の主を振り向く。
そこには、やはりと言ってか、アズライトの妹、セレスが立っていた。
「セレス!! お前、どうして!?」
彼は妹に向かって叫ぶ。
後方に控えていたカーネリアンも驚いている様子だ。
カーネリアンよりもさらに後方に、セレスは立っていた。
彼女の金の瞳は、いつもより光り輝いている。
どこから持ってきたのか、彼女は弓に矢を番え、弦を引き絞っている。
「セレス、何をやっている?! お前は安全な場所に隠れてろ!」
矢で少年を狙う彼女に、アズライトは叫ぶ。言ったところで、この魔術の雨が降りしきる中、矢が届くわけもないのだが。
「お兄様、その人は、私が止めるわ!」
「セレス、お前、何を言って――?」
戸惑う様子で、アズライトが妹に問いかける。
「どいて!」
少女の存在が、その場を支配していた。
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また、本作は『記憶喪失の癒し姫』を読んでいると、より楽しめる作品ですので、どうぞそちらにも目を通して下されば幸いです。『八竜国物語』シリーズの部分から飛ぶことができます。




