第33話 目覚めた姫は、騎士に――
スフェラ公国公都の城。
その中にある、第二王子スピネルの部屋にて――。
「それは、黒竜の王子ではないかえ?」
――碧色のふわふわとした髪に妖艶な顔立ち、胸元が大胆に開いた黒いドレスを身に着けた女性が現れた。
スピネルが眠るベッドの隣にある椅子に座っていたセレスは、その女性を見て声をかける。
「エメラルド、何しに来たの?」
セレスが問いかけると、碧髪の女性はふふんと笑った。
「セレスよ、魔力の揺れを感知したと申したじゃろ? 一応、次期魔術師長として、城の違和感に対応するのは当然のことじゃ……」
「でも、ここは第二王子の部屋よ……いくら次期魔術師長だからって……」
「セレス、お前が黙っていれば良いだけのこと」
(エメラルドは相変わらず、好き放題ね……)
セレスは嘆息する。
彼女に名を呼ばれた年齢不詳の女性は、エメラルド・クロムスフェーン。
スフェラ公国の魔術師長クロムスフェーン公爵の娘にして、彼をも凌ぐ強大な魔力を持つ者と言われている。
身勝手な行動をとることも多いエメラルドだが、周囲に疎まれがちなセレスに対しても話しかけてくる稀有な存在だった。
エメラルドは眠るスピネルをちらりと見るや、にやりと笑んで話を始める。
「ほう……城の外で療養しているという話じゃったが、急に姿を現すなどと、一体どこに隠されていたのか――」
妖艶な笑みを浮かべながら、エメラルドは続ける。
「カーネリアン王子は、何を考えておるのかのぅ? はてさて――」
「本当はわかってるんじゃないの? エメラルドなら――」
「さぁのぅ……」
セレスとエメラルドが談笑していると――。
「ん……?」
少年とも青年とも言いがたい声が聞こえる――。
「スピネル……!」
セレスは歓喜の声をあげた。
久しぶりに会えた友人に、彼女は嬉しくなり金色の瞳に涙を浮かべる。
長くなってしまった黒髪を背に流したスピネルはゆっくりと身体を起こす。
彼の瞳にセレスは囚われる。
血に濡れたような鋭く紅い瞳――。
「スピネル……」
その時セレスははっとする。
(違う……この雰囲気――こいつは――)
気づけば彼女の腕は、彼の手に掴まれていた。
騎士として鍛えているはずのセレスの腕をいとも容易く、その細腕が制してくる。
そして――。
「腹が空いた――まだ足りない――」
そう彼が口にしたかと思うと――。
エメラルドがいる前に関わらず、スピネルの唇にセレスの唇は塞がれてしまったのだった――。




