第30話 竜の巫女
第一王子カーネリアン・スフェラ・フローライトの手により、『黒竜の檻』と呼ばれる水晶で覆われた洞窟へと女騎士見習いセレスは誘われた。
洞窟の奥の檻の中には、伝説上の生き物である黒い竜が閉じ込められている。
カーネリアンは、その黒竜こそが、『第二王子スピネル・スフェラ・フローライト』であると言い放った。
スピネル――。
侯爵家に生まれながらも、使用人である妾の子だったからと虐げられてきたセレスに、初めて出来た友人――。
共に戦地へと向かい、親交を深めるに至った。
空を見るのは生まれて初めてだとはしゃいでいた、セレスよりも六歳年上だった少年。
(あの黒い竜が、スピネルですって……?)
にわかには信じがたく、セレスはカーネリアンの顔を覗く。
彼の本来の橙色の瞳は、暗い洞窟の中ではよく見えない。だが、彼がわざわざ嘘をつくとも考えづらい。
「君とスピネルが最後に会ったのが、オルビス・クラシオン王国との戦争だったから、もう五年、いや六年近く経つのか……」
「そうですね……」
そんなにも時間が経ったのかと、セレスはしみじみと思う。
「スピネルの希望でもあったのだけれど、かれこれ六年近く彼に力を与えることが出来ていない――」
カーネリアンの言葉の意味がよくは分からなかったが、彼の言い方だと――。
セレスの胸の中に不安がよぎる。
「このままだと、スピネルは飢えて死ぬ――」
カーネリアンの言葉にセレスは衝撃を受ける。
「そんな……スピネルが……死ぬ……?」
「だからこそ、セレス、君を連れてきたんだ。本当は、君が成人である十七を迎えてから会ってもらおうと思っていたのだけど……」
(スピネルの死と自分がどう関係あるというの――?)
セレスはやはり、カーネリアンの意図が読めずに戸惑う。彼女の金の瞳が、暗闇の中で揺らめく。
「推定でものを言うのはあまり好きではないが、彼に力を与えさえすれば、また元の人の形を保つことも出来るはずだ――」
「力を与えるとは――? それができる人物は――?」
セレスは自分でそう言いながらも、力を与えることのできる人物に心当たりがあった――。
(それは、まさか――)
第一王子カーネリアンは、セレスに向かって話を続ける。
「竜である彼には、つがいとも言える『竜の巫女』を必要とする」
「『竜の巫女』……確か、その言葉は……」
セレスはどこかで聞き覚えのある単語だと思った。
(一体、どこで――――?)
「黄金の瞳を持ち、神に与えられた力を行使する女性――それこそが『竜の巫女』たる資格と言える――」
「黄金の瞳に、神に与えられた力――? まさか――」
いや、どことなく、もしかしたら――?
セレスは戦地でのスピネルとの出来事を思い出して、スピネルの『竜の巫女』の存在がいったい誰なのか、答えは出ているに近しい。
「そう、察しの通り、スピネルにとっての『竜の巫女』は――」
セレスは、カーネリアンの口から正解が導き出されるのを待つ――。
「――セレスタイト・カルセドニー――君に、スピネルへと力を分け与えて、彼のことを救ってもらいたい――」




