第28話 空は闇を思い出す
肩先までの伸ばした水色の髪に、少しだけ丸い金色の瞳をした女騎士。スフェラ公国の騎士団の所属を現す、白い騎士服に身を包んだ彼女は、スフェラ公国の王城の回廊を歩いていた。
「セレス!」
彼女の背後から、まだ少しだけ高い声の少年の声がする。
声の主の正体を見たセレスは、これみよがしにため息をついた。
彼女に走り寄ってきた少年は、金色のふわふわとした髪に、橙色の柔和な瞳をしている。彼の正体は、この国の第三王子サルファ・スフェラ・フローライトだ。
「サルファ王子、私は貴方のお兄様に呼ばれて忙しいの。……話しかけないでくれる?」
セレスの冷たい反応に、サルファ王子は一瞬たじろいだ。
だが、彼は吠える子犬さながらに、セレスに向かって叫ぶ。
「いや、今日こそはお前に勝って……! ……だな……」
しかしながら、彼の後半の台詞は、どんどん小さな声になっていった。
「勝って……何?」
セレスが、サルファのことを睨みつけていた。
「用がないなら行くから」
その場で動けなくなった少年を尻目に、セレスは目的地へと歩きだした。
「ちょっ、待たないか! セレス! セレスタイト・カルセドニー!」
颯爽と歩く彼女の背後から、サルファ王子の情けない叫びが聞こえる。
だけど、彼女が彼を振り返ることはなかった。
※※※
スフェラ公国の第一王子カーネリアン・スフェラ・フローライト。
金色のふわふわとした髪に、橙色の柔和な瞳の持ち主で、弟のサルファとよく似た顔立ちをしている。ただ、カーネリアンの方が年上なだけあって、青年らしい端正な顔立ちをしている。
「カーネリアン王子、改まって話とはなんでしょうか?」
「その前に、個人的な話をしても良いかな?」
カーネリアンの問いかけに、セレスは出鼻をくじかれたような気がした。だが、断る理由もないので、ひとまず頷く。
「……もう、兄のための復讐など辞めてしまって、自身の幸せを考えてはどうだ?」
彼の発言に、セレスはなんとも言えない不快感が沸いた。
「弟の、サルファなんかはどうかな? あの子は悪い子じゃない。サルファの奥さんになって、公爵夫人になって生きていくのも悪くないと思うんだけど」
ふんわりと笑いながら話すカーネリアンとは逆に、どんどんセレスの気持ちは重たくなっていった。
「私は、自分より弱い男は嫌よ」
きっぱりと答えたセレスに対して、カーネリアンが苦笑した。
「それこそ、君より強い男なんて、オルビスの剣の守護者ぐらいしかいないんじゃないかな?」
『剣の守護者』
スフェラ公国の東に位置する国・オルビス・クラシオン王国の、神器一族と呼ばれるうちの一人。
そして、数年前の戦争で、セレスの最愛の兄であるアズライトを殺した張本人。
「すまない、睨まないでくれ」
カーネリアンに指摘され、自身が彼を睨んでいることにセレスは気づかされた。
はっとした彼女は、直立しなおし、自身の荒ぶる気持ちを落ち着ける。
「――本題に入ろう。セレス、君に会いたいと言っている人物がいるんだ。会ってくれないか?」
(会いたい人物――?)
「誰でしょう?」
「――弟だよ」
「弟? サルファ王子には会わないってさっきから――」
先ほど回廊で出会った第三王子のことを、セレスは頭に浮かべた。
だが、カーネリアンの答えは、セレスが想像していないものだった。
「――スピネルだよ」
その名を聞いて、セレスは目を見開いた。
久しぶりに聞いた名前――。
「我が弟で、第二王子スピネル・スフェラ・フローライト。彼の命を救うために、セレスに会いに行ってもらいたい」
――スピネル。
それは、セレスに初めて出来た友人の名前だった。




