第26話 海との別れ
更新が遅くなってしまい大変申し訳ございませんでした。もう少ししたら、更新スピードを上げたいなと考えています。
兄アズライトに切り裂かれ、紅い髪をした敵国の剣の守護者は、地面に拡がる血の海の中に倒れていた。
しばらく彼の体は血だまりの中で動かない。
セレスは兄の勝利を手放しで喜びたかったが、胸中に一抹の不安があり、心の奥底から喜ぶことが出来なかった。
セレスとスピネルが、銀の髪に紅い瞳をした魔術師と未だに対峙しているのが原因なのだろうか?
セレスがもどかしく感じていると、剣の守護者の体から突然金の光が放たれ始めた。
「な……に?」
セレスは愕然とした表情を浮かべる。
一体あの紅い髪の青年に何が起きたというのだろうか?
「どうして?」
混乱するセレスを支えるスピネルは、眉をひそめた。そうして、彼はぽつりと呟く。
「神器一族の加護か……」
立ち上がった剣の守護者は髪から足先まで血に濡れていた。先程アズライトに斬られたはずの傷は遠目でわかるほどに大きな傷になっていないとおかしいはずなのに、その傷からの新たな出血はなさそうだった。
「傷まで回復してしまうなんて……あんな化け物相手じゃ、お兄様に勝ち目なんて……」
狼狽え出したセレスを、スピネルが抱き寄せる。
二人が対面していた銀髪の魔術師は、剣の守護者に目を奪われている。
セレスは、遠くで兄と紅い髪をした化け物が再度剣を交える姿が見えた。
兄が何か叫んでいたが、セレスの耳に入ってはこない。自身の鼓動の音がうるさくて堪らなかった。
兄と剣の守護者の間では、しばらく剣の撃ち合いが続いていた。
取り留めない思考が頭の中をまわる。
こんな危機的な状況なのに、兄の青い髪と敵の紅い髪が対照的だと考えてしまっている。
兄が大剣を振り上げる。剣の守護者に向かって叩きつけるように剣をおろす。
だが、敵はその渾身の一撃を避けた。
彼はその禍々しい神剣で、最愛の兄の身体を薙ぐ。
兄の身体がゆっくりと倒れていった。
そうして、紅い髪をした化け物だけがそこには立っていた。
セレスの最愛の兄の血が、彼の全身を濡らし、時折その血が地面へと滴り落ちている。
彼のぎらつく碧の瞳に、セレスは視線を奪われてしまう。
怖くて怖くて、地に倒れた兄がどうなっているのか見ることができないでいると、隣に立つスピネルがセレスに囁く。
「セレス、今のうちに戦場から離れるよ」
セレスははっとしてスピネルを見る。
彼の紅い瞳と視線が合う。
スピネルは本気でそう言っている。
「そんな……! お兄様を、助けないと……!」
セレスは水色の髪を振り乱しながら叫ぶ。その場から兄を助けに行こうとしたが、スピネルに制止される。
「もう助からない。ごめんね、役に立てなくて……」
スピネルの無情な言葉に、セレスは恐慌状態になったかのように叫び続ける。
「いや! お兄様! お兄様が死んだら、私は……!」
暴れるセレスをスピネルが押さえ付ける。
「離してくださいスピネル! お兄様のところへ――」
彼女はそこまでしか言葉を継げなかった。
気付けば、セレスの唇はスピネルの唇に塞がれていた。
混乱するセレスの手先から、徐々に力が失われていく。
(身体に力が入らない……)
口付けが終わる。
セレスの意識は朦朧としてきた。
「ごめんね、セレス、小さい君の力を限界まで奪ってしまって……」
セレスは遠ざかる意識の中、スピネルの寂しそうな声を聴いた。




