第24話 海は紅髪の狂戦士と対峙する
アズライトと剣の守護者。二人の剣の撃ちあいが始まった。
だが、アズライトが完全に防戦一方になってしまっている。
(あんなに強いお兄様が……)
確かにスフェラ公国ではオルビス・クラシオン王国に比べて、現在騎士が育っておらず昔に比べて弱小化しているという課題は残っている。
けれども、セレスの兄アズライトだけは別格だと言われてきた。
これまでの辺境での戦いなどでも、かなりの武勇を残し、若くして騎士団の副団長まで上り詰めたという実績がある。
兄は、今回の戦争をすすめてきた帝国からも一目置かれた存在だったはずだ。
(なのに、こんなに一方的な戦いになってしまうなんて)
神器というものの強さとはこれ程までのものなのだろうか――。
人が近づいてはいけない領域のものだということが、セレスにも分かる。
そのまましばらく固まってしまっていたが、彼女を突然頭痛が襲った。
しばらく痛みを我慢した後に、気をとりなおし、スピネルに声をかけた。
「あと少しだけ、お兄様に近づきます」
「先のことが分かったの?」
その問いには答えず、セレスはスピネルの元から走り去る。
慌てて彼は彼女の後を追った。
※※※
(神剣の強さがここまでだったとは――)
アズライトと対峙しているオルビス・クラシオン王国の剣の守護者。
紅い髪に碧の眼をした、年若い同じ人間。
これまで何度も戦場に立ってきたはずのアズライトが、初陣の青年にこうまで押されるとは――。
化け物じみた強さとしか言いようがない。
剣の神器の圧倒的な強さに、恐れが襲ってくる。
相手から繰り出される剣を防御するのに精いっぱいで、まるで初めて師から剣の稽古をつけられた時の感覚を、アズライトは思い出していた。
「お兄様! 次は右から来ます!」
突然後方から、妹の声がした。
(セレス、ここまで来てしまったのか?)
「次は正面です!!」
アズライトは、彼女の声に応えるようにして剣を振るった。
これまで剣の守護者に近づくことさえ出来なかったアズライトだったが、妹セレスの言葉を聞くことでなんとか敵の剣を躱し、ついには攻撃に転じることが出来るようになった。
(助かった)
少しだけ胸の内で安堵したアズライトだったが、ここで油断してはいけない。
(少しでも気を抜くと死ぬ)
アズライトは大剣を振りかぶる。
だが、剣の守護者は大剣の重さをなんとも思っていないかのように弾く。
そして、アズライトの胸は真一文字に裂かれた。
(剣を離すわけにはいかない)
傷口からの出血はあるが、ここで手を離せば、それこそそのまま剣で貫かれて殺されてしまう。
アズライトは痛みをこらえながら、再度剣を構える。
彼の背後から、妹の呼び声が聞こえる。
「アズライトお兄様! 帰ってきてください! 絶対に、私のところに……!」
かつて恋をした少女とよく似た妹セレス。
彼女の願いに応じたい。
そう思った瞬間、目の前の剣の守護者の動きが鈍った――。
(好機だ……!)
四の五の言っていられない。
相手が自分よりも年若いからといって関係ない。
自国を護るために、ためらってはいけない。
「これは……誰が? 俺、が……?」
呆然と呟く少年に向かって、アズライトは駆ける。
隙を見せたら自分が死ぬ。
そうして、アズライトが大剣を頭に掲げ、正気に戻ったばかりの少年にそのまま振り下ろしたのだった。
アズライトからの重い一撃を受けた少年は、そのまま地面へと崩れ落ちていった。




