第23話 孤独だった海と闇は
立ち上がろうとするスピネルに、セレスは右手を差し出した。
彼女の手に、スピネルの右手が重なる。
「ありがとうセレス。ただ……ごめんね。どうも敵の男の人が持っている神剣のそばにはいけないみたいなんだ……。少し離れている場所でも大丈夫かな?」
淡々とした表情で、彼は彼女にそう尋ねた。
セレスは頷いた。
それに重ねるようにスピネルが話す。
「あと、転移の魔術を使った後は、帰りのためにも大きな術は撃てないよ。後は、何かあったも君の命を優先するからね」
『帰り』という言葉がセレスとしては引っ掛かりがあったものの、彼の発言に、再度彼女は頷く。
彼女は、スピネルに向かって話しかけた。
「あの、スピネル、ありがとうございます。わがままを聞いてもらって」
彼は首を傾げた。
「お兄さんを助けたいと思うことはわがままなのかな? 僕は、君の力になりたいんだ。初めての友達だからかな?」
「友達……」
セレスは、スピネルの「友達」という言葉に衝撃を受けた。
彼女はこれまで、そういった類いの人間には恵まれてこなかった。沈鬱だった胸の内に、少しだけ希望が灯ったような気がした。
彼と繋いだ手の温もりが心地よく感じた。
スピネルは、セレスに微笑む。
「それじゃあ行こうか」
そうして二人は光に包まれる。
ぐにゃりと空間が歪んだかと思うと、次にセレスが見たのは、兄アズライトの背。
そしてアズライトに対峙する紅髪の化け物の姿だった。
セレスは彼の姿を見ると、背筋がゾクリと冷たくなった。
「あれがオルビスの剣の守護者、ソル•ソラーレ……」
人間に対して、『化け物』というのは失礼かもしれない。
だけれど、そうと評せざるを得ないぐらい、自分達とは同じ人間には思えない。
碧の瞳がぎらついた野生のそれで、紅い髪は血に濡れてまがまがしく光っている。
彼が手に握る神剣も、妖しい光を帯びている。
夢で見た時よりも彼の姿は鮮明で、セレスは、これが現実なのだと嫌でも思い知らされる。
(お兄様の役に立たなきゃ……)
セレスは自分を奮い立たせる。
そして、アズライトから口上が聞こえた。
「私は、アズライト・カルセドニー! 剣の守護者よ! 私がこの戦の責任を任されている! スフェラの者と闘うのは、私で最後にしていただきたい!」
オルビス・クラシオン王国とスフェラ公国の、最後の闘いが始まろうとしていた――。




