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蒼星のセレス  作者: おうぎまちこ
海の章

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第21話 海の決意



 彼女は運命が変わることを祈ったが、そのためには相当な力が必要なのだと言うことを思い知らされた。


 スピネルがオルビス・クラシオン王国に対して、闇の上級魔術を放った。


 初めは遠くから、誰かの断末魔が聴こえた。

 多勢に無勢で、敵国でやっかいな相手である剣の守護者を倒したのかと、少しだけ期待したが違った。

 同じような場所から次々と悲鳴が聞こえて来る。

 どうやら自国の兵のようだと気付くのに、そんなに時間はかからなかった。


「スピネル様!」


 アズライトが懇願するように、黒髪紅瞳の第二王子に叫んだ。

 それを聞いて、スピネルはため息を吐いた。


「分かった」


 そう言って、何かしらを呟き術を行使した後に、彼は長い詠唱に入った。

 セレス達の頭上に、闇で形成された竜が作られていく。

 彼女は、何かしらの生き物を形作る魔術というのはかなりの実力の魔術師にしか出来ないと言う話を以前兄から聞いていた。しかも架空の生物となると、かなりの素養を必要とするそうだ。


(やはりスピネルは強い)


「それで、剣の守護者に向かわせるが、本当に良いか? 俺はあまり良い方向には向かわないような気がするがな。この術を防がれたらしばらくは、次が撃てないぞ。この器の主の力では、ここまでが限界だ」


 そう言って彼が一旦詠唱を止めて、アズライトに再度尋ねた。

 兄は妹セレスに、未来が視えるか尋ねたが、彼女は首を振った。


(こんな時に未来が視えないなんて……)


 悔しさで、セレスは歯噛みした。拳は握りすぎて、爪が食い込んで血が滲みだしていたが、当の本人は気づいていなかった。


「ここでの判断は私に一任されております。第二王子よ、お願いいたします」


 アズライトの答えを聞くと、スピネルが空の黒竜を敵の方角へ向けて放つ。

 竜は風を斬り、剣の守護者と駆けて行った。


 それを見てセレスは、敵が今度こそ倒れるようにと祈る。


 だが、スピネルの反応は彼女の期待を裏切るものだった。


 彼は眉を顰める。


「神剣の力が、ここまで……」


 そのまま、彼の身体は傾いだ。

 慌てて支えたが、そのままセレスと彼は地面に倒れた。


「スピネル! どうしたんですか?」


 彼は、意識を失っていた。




※※※




 その後、セレスが見た光景は凄惨だった。


 スフェラの戦士達の恐怖におののく声が周囲に満ちていく。


 後方に控えていたセレス達の元へと、大勢の兵士達が逃げまどってきていた。


 耳をつんざく様な悲鳴と、血の匂いが充満し始める。


 遠方に見える人垣が次々と、一人の生き物になぎ倒されていく景色が見えたが、到底現実のものとは思えなかった。



(何が、起きてるの……?)



 剣の守護者を倒すために、何千と言う兵を準備していたのではなかったか?


 だが、たった一人の手によって、それらすべてが台無しになっていく。


 訓練を受けて来たはずの騎士達でさえ全く歯が立っていない。


(こんなの、闘いなんかじゃない……)




 一方的な虐殺。




 そんな言葉が頭に閃いた。



 紅い化け物が徐々にこちらに近づいてきている。


 スピネルを抱えたまま、セレスはその場にしゃがみ込み、動けないでいた。


 混乱し、逃げまどう人々がセレスを踏んで行く。

 だが、呆然とした彼女は痛みを感じる暇がなかった。


 そんな彼女に、兄が声を掛けた。



 「セレス、お前は強い力を持つが、それを弱い者には向けない優しい力を持った子だ」



 兄は彼女に続ける。



「この方が、お前の力を正しい方へと導いてくれる存在となってくれることを願っている」



 セレスは兄の言葉にはっとした。



「お兄様?」



「お前が俺の運命を変えようとしていた事には気づいている。だが、俺がいかなければならない。それが俺の義務であり、責任だ」



 兄アズライトはセレスに淡々と告げる。

 その言葉は、まるで今から――。



「死にに行くみたいです、お兄様」


 ぽつりとセレスは呟くようにそう言った。


 アズライトは一度瞼を閉じた後、すぐに開く。



「セレス、俺はお前を……。お前の――」



 それを最後に、アズライトはセレスに背を向け、逃げまどう人々の群れの中へと分け入った。

 人々の声にかき消されて、肝心な箇所が何も聞こえなかった。



「お兄様、待って! いかないでください! お兄様!!!」



 喉が枯れるのもいとわずにセレスは叫んだ。


 

 人の喧騒で隠れてしまうのは分かっていたが、それでも兄を呼び続けた。




 だが、彼女の声が兄に届くことはなかった。







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