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蒼星のセレス  作者: おうぎまちこ
海の章

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第18話 空と闇は戦地に立つ

 こんばんは。

 「癒し姫」ではオルビス・クラシオン側の視点で、戦争を進行させています。

 ご興味のある方は、どうぞよろしくお願いいたします。




 スフェラ公国とオルビス・クラシオン王国との国境。その間には、緩衝地帯が存在する。

 スフェラ公国は西側に、オルビス・クラシオン王国は東側にある。国境にはどちらも、砦が存在している。

 間に囲まれた緩衝地帯は、北側に山があり、南側は海に面している。

 戦はこの緩衝地帯でおこなわれる。



 スフェラ公国はオルビス・クラシオン王国よりも面積が二倍ほどであり、人口も倍近くいる。だが、数年前にスフェラ側からオルビス側への侵略戦争の折に、オルビス・クラシオン王国イリョス・ソラーレたった一騎によりスフェラ公国は、壊滅的な敗北を喫した。


 それ以来、騎士も魔術師もあまり育ってはいない状態での戦いになる。

 戦士の数は、スフェラ公国二万四千人、オルビス・クラシオン王国は八千と言われている。三倍近くの数を有しているが、スフェラ側は平民や貧民街の者達をかき集めてなんとか数を準備したといった様子だった。

 これだけの兵力があったとしても、神器持ちのオルビス・クラシオン王国と闘うには不安が残る。


 唯一勝てる望みがあるとすれば、神器とその守護者を確保するか殺せばといったところか――。




※※※




 飛んでくる弓や魔術を、大きな薄い膜が弾く。魔術師達が張った広大な魔術陣の中にセレスは居た。彼女の側には、スピネルが立っていた。彼が詠唱すると、遠くの兵士達が闇の中に包まれる。


「セレスは観たらダメだよ」


 そう言って、スピネルは手でセレスに目隠しをする。

 視界が塞がれた分、人の断末魔がより一層耳に響いてしまうのだが……。

 セレスは恐怖と闘いながら、兄を助けたい一心でその場に立っていた。

 突然、彼女の脳裏に何かが閃いた。

 彼女は、スピネルの手をやんわりと退ける。


「視えました……。剣の守護者は、あちらの方角にいます」


 セレスがそう言うと、アズライトが騎士や兵士達に指示を出しはじめた。


「ちょうど良い。向こうには崖がある。うまいこと神器持ちを、そちらに誘い出せ!」


 指示を受けた戦士たちは、山の中へと駆けて行った。


 セレスは本当は戦地に出る予定ではなかった。しかし、刻一刻と状況が変わる戦地と、セレスの未来視がいつ出来るのかが分からないという不安定な状況から、彼女も前線のほど近くまで出て活動することになった。


 そもそも今回の戦争、スフェラ公国は負ける可能性の方がかなりの確率で高いと言う。

 



※※※




「万が一勝てるとしたら……。セレスの未来予知の力で、オルビス国の神器の守護者であるソル・ソラーレを探し出し、彼を捕縛、もしくは殺害することだ」


 戦地に向かう前に、カーネリアンがそう言っていた。

 彼の側に立つアズライトは苦笑していた。


「どうして、そんな……負けると分かっている戦争に行かなければならないんですか?」


 それに対して、カーネリアンは寂しげに笑うだけだった。

 代わりにアズライトが答えた。


「大人になると、色々と、やりたくなくてもやらないといけないことが増えるんだ」


 セレスは、兄の答えは質問の答えになっていないような気がした。

 だけど、彼もカーネリアンと同様にとても辛そうな表情をしていたので、セレスはそれ以上何も言うことはできなかったのだ。




※※※



 

 アズライト達も森へと入っていく。

 セレスもスピネルと一緒にその背を追おうとした。

 だが、そこでスピネルの身体がふらついた。セレスは彼を咄嗟に支えた。


「お兄様、後から向かいますから!」


 声を張り上げて兄へと伝えた。兄の事は心配だった。だが、なんとなくだが、彼が危険な目に合うのは今ではない。多少離れても大丈夫だろうとセレスは考えた。

 アズライトは頷いた後に、その場を走り去った。


 幸い、近くに敵兵は潜んでいない。

二人は森の中の木陰で休むことにした。

 

 セレスは、近くの木に背を預ける形でスピネルを座らせた。

 彼は息がしづらそうだった。

 セレスとスピネルは、身体が華奢だったこともあり、騎士服を着用することが出来なかった。代わりに動きやすい服装に、カーネリアンが魔術防御の魔法をかけてくれていたので幸い動きやすかった。

 そう言った経緯もあり、普段と変わらない格好に近い。

 セレスは彼の近くに座り、スピネルの衣服の釦をはずして、袂を緩めた。


(スピネルは外に出たことがないから、すごく疲れたはず……)


 初めて外で活動したあげく、魔術も広範囲に渡るものばかり行使していた。

 彼が疲弊してもおかしくはなかった。


「大丈夫ですか、スピネル。気づかなくてごめんなさい」


 セレスが謝ると、弱々しく彼は首を振った。彼の肩までかかる黒髪が少しだけさらさらと揺れる。


「ごめんね、心配をかけて。僕、疲れたみたい。ちょっとだけ、眠っても良いかな?」


 そう言って眼を瞑ったスピネルに、セレスは戸惑う。


(どうしましょう? お兄様と距離が離れてしまいます)


 兄が不安だが、スピネルをこのままにはしておけない。

 そう考えていると、目の前のスピネルの目蓋がまた開き、彼の紅い瞳と目が合った。


(あれ、眠るって――?)


 スピネルが突然セレスの腕を掴む。そのままセレスの身体は彼の方へと傾いてしまった。

 そのまま頭を抑えられたかと思ったら、セレスの唇をスピネルが食んでいた。

 抵抗するも身動きがとれず、彼女は彼と唇を合わせたまま、しばらくの時間が経った。


 彼が離れた後に、セレスに告げた。


「俺は、これでもう動ける」


「え、あ、あの……」


 セレスは以前と同じように、突然彼から口づけられたので動揺していた。

 彼は立ち上がりながら、セレスの腕を引いて彼女も立たせた。


「ほら、兄のところに向かうのだろう?」


 セレスは、スピネルの変化にも困惑していた。

 先ほどまで、あれほど辛そうにしていた彼が今は元気だ。

 却って、セレスの方が少しだけ脱力しているような気がする。


「あいつは眠っている。代わりに俺が動いてやる。いいから行くぞ」


 セレスは彼に連れられて、また森の中を移動しはじめた。





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