第14話 星は空を別の名で呼ぶ
緑色の髪をした少女に言われ、セレスは気が付いた。
そうだ、スピネルという名前。
どこかで聞いたことがあるとは思っていた。
「スピネルが、この国の第二王子」
彼女の呟きを、セレスの背に隠れたサルファ王子は黙って聞いていた。
スピネル・スフェラ・フローライト。
病弱とされるこの国の第二王子の名だ。
あまりに話題に上ることが少ないので、すっかり忘れてしまっていた。
(病弱? そう言えば、えらく肌が白くて線が細い印象がある……)
病弱とされる彼が、戦争に来ると言うのだろうか?
「一説では、病弱なわけではなく、その魔力が強すぎると言う噂だったようじゃが……。昨日の混乱で明るみになったようじゃのぅ」
愉快気に緑の髪をした少女は笑っている。彼女が首を傾げるような仕草をしたため、長い髪が揺れた。
彼女はセレスに声をかける。
「セレスタイト・カルセドニーよ。そなたの活躍も期待しておるぞ」
そう言い残し、彼女は去って行った。
(彼女は、何だったんだろう……?)
セレスの背後に隠れていた第三王子サルファだったが、緑色の髪をした少女が去ったからか、セレスの横へと飛び出した。
「お前。カルセドニーということは、アズライト殿の妹だったのか?」
そう言われ、セレスは頷いた。
サルファ王子は、「そうだったか……」とだけ口にして押し黙った。
そんな彼に、彼女は問いかけた。
「サルファ王子様、あの緑の髪をした女性は一体?」
「あの女のことを口に出すな!!」
間髪入れずに答えが返って来た。ものすごい剣幕で怒鳴るサルファに、セレスは驚く。
「ご、ごめんなさい」
萎縮し謝る彼女に対し、彼は咳ばらいをした。
「お前が謝ることではない。悪かった。それよりも――」
そう言ってサルファ王子はセレスに尋ねる。
「セレスは、スピネル兄上の事をご存じなのか?」
彼の問いにセレスは戸惑った。
「おそらく、ですが……」
「そうか。スピネル兄上は、カーネリアン兄上が言うように髪が黒くて紅い瞳をしているのか? 何か知っていることがあるなら教えてくれ」
サルファ王子の言い方に、セレスはますます困惑する。
彼の言いぐさでは、これまでにスピネルとサルファは顔を合わせたことがない、という風に聞こえる。
二人は腹違いかもしれないが、兄弟のはずだ――。
セレスが言いあぐねていると、二人とは別の場所から声が聞こえた。
「セレス。まさかサルファ王子と一緒だったとは――」
声の主は、セレスの兄アズライトだった。
「お兄様!」
セレスはサルファ王子から離れ、兄の元へ走り寄った。
「なかなか帰ってこないから、昨日みたいに倒れてるんじゃないかと心配したぞ」
「お兄様は、昔から心配性ですね」
静かに返答する妹に、兄は微笑みかけた。
「もちろん妹の心配はするさ」
セレスは嬉しくなり、兄に微笑み返した。
そんな彼女とアズライトを見たサルファが、「何か、面白くない……」と呟いていた。
「セレス。戦場に向かう前に、一旦家に帰りたいのだが、大丈夫か?」
兄にそう言われ、セレスはどきりとした。
アズライトと共に戦に向かうと話したら、父や義母たちはどう思うだろうか。
一抹の不安にかられたが、兄が一緒ならば安心だと言う思いもある。
セレスは頷いた。
そうして兄妹は、サルファ王子に挨拶をし、その場を去ることとした。
※※※
カルセドニー兄妹が立ち去るのを見ながら、第三王子サルファは、ぼそぼそと呟いていた。
「兄上も、竜の姫君も実在しているようだな……」
立ち尽くす彼に、男の声が聞こえる。
「ああ~~、サルファ王子様、見つけました~~」
近くにあった柱の陰から少年が現れた。
ピンクの髪に細い目をした男だ。間延びした話し方が特徴的で、あまり仕事ができるような印象がない。
彼は、数か月前からサルファに付き従うようになった。
少年はとろとろしているからか、すぐにサルファから離れてしまうのが困ったところである。
サルファよりも少しだけ年上に見えるのだが、しっかりしていない。
「おいお前、どこに行ってたんだ? 僕じゃなかったら、もうお前なんかクビになってるんだからな」
ふんとサルファは鼻を鳴らすと、男からは「すみません~~」とだけ返答があった。
「まあ、お前の相手が出来るのなんて、僕だけだろうがな。よし部屋に戻るぞ」
サルファは、細い目をした少年を連れて回廊を再び歩き出したのだった。




