第9話 海の後悔、空の決意
目を覚ますと、城の中の医務室に戻ってきていた。
「あれ? 私は……」
確か、水晶がたくさんある洞窟の中で、スピネルと遭遇したのではなかったか……?
不思議な場所だった。
だとすれば、あの体験は夢だったのだろうか?
セレスがまだぼんやりする頭で考えていると、医務室の扉が開いた。
部屋の中に入ってきたのは、兄アズライトだった。
「セレス、大丈夫か?」
心配する兄を見やる。
「お前はなんでそう無茶をするんだ。目が覚めたばかりで散歩をするなんて。カーネリアンが見つけてなかったら、大変なことになってたぞ」
やはり、自分が外に出たのは間違いないようだ。そして、最後に会った人物がカーネリアン王子だということも……。
セレスが洞窟に入る前、アズライトはインカローズと一緒に薔薇園にいたはずだ。二人はとても親密な様子だったが、あれも真実だというのか。
そこまで考えると、セレスの胸がざわつきはじめた。
「ごめんなさい……。お兄様」
しおらしい妹に対し、アズライトはそれ以上は何も言わなかった。
「まあ、いいか。とにかく無茶はしないでくれ。それと、カーネリアンの話についてだが……」
カーネリアンの話。
おそらく、じきに始まるという噂のオルビス・クラシオン王国との戦にセレスも同行するという話についてだろう。
兄アズライトは、セレスが同行することについて反対していた。
その兄の表情が冴えない。
彼はしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「先程、国王様より、俺に話があった」
ひどく重たい口調だった。
セレスの心臓が音をたてた。
兄の榛色の瞳に自分が映っている。
「今日の夕方の出来事で、国王様がお前の力に気付いたらしい」
(´それは、つまり……)
少しだけ兄が話す調子が、とてもゆっくりなものに感じた。
「お前も戦に連れて行くことになった」
(やっぱり、そうでしたか……)
そう言われる覚悟はしていた。
だが、本当にそうだと聞かされると、現実味がない。
夢か現か分からないような、水晶の洞窟にいた時のことよりも、セレスには想像がしづらかった。
「いつでも先の事がわかるわけではないことも説明はした。だが、納得されなかった……」
アズライトはとても悔しそうに見えた。
だが、兄を助けるためだと思い、城に来たのはセレスだ。
自身で決めた事だ。そのことについては後悔はしていない。
「あまり強く反対しても、お兄様が国王様からご不興を変われるだけです。お兄様のためなら、私は戦に行っても構いません……」
「セレス……」
「お兄様のお役に立てるなら、私は頑張りたく思います」
そう言うセレスの表情は淡々としていた。
アズライトは腕を伸ばし、彼女の両肩に手を置いた。
「すまない、俺の力不足だ……」
後悔のにじむ声がする。
セレスは、彼の左腕にそっと自身の右手をのせた。
そしてアズライトの顔を覗きこむ。
「大丈夫ですお兄様」
彼女はそう言ったが、兄は項垂れたまま、しばらく動けないようだった。
セレスは胸の内で呟いた――。
(私が『あの未来』を回避してみせます)
――と。




