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第五十一話 ヴァシュヌの騎士団事情

お久しぶりです。

細かい設定を忘れてしまっているので見直しつつの更新が大変です。

  ヴァシュヌとカーンを川で隔てた先、国境を接した地にはヴァシュヌの騎士団が布陣しているのだが、彼ら騎士団の決定権は国王に存在している。

  現在その権限は、ポイニクス王から騎士団総団長に委譲されている上に、国境沿いの領主からも戦端が開かれた場合には焼野原も已む無しという言葉もいただいている。彼らがいるヴァシュヌの地に、カーンの矢一本でもとんでこようものなら、全騎士が一丸となって矢を放った者に駆けていくであろう。それほどの熱気が川を隔てた場所にあることが、カーンにとっては致命的であった。


  ヴァシュヌ国の防衛を一手に引き受けている騎士団は、勇猛果敢でカーンだけではなく、他国にまで知られている。


  他国にとっては垂涎ものの猛者揃いの騎士団は、かと言って血の気の多い者が多いわけではない。貴族の次男、三男坊が多く、事実、上級騎士ともなれば中央貴族が多い。ただ一握りながらも騎士団長の中には平民出身も存在し、一般騎士に関してはそれこそ一般市民も多く混ざっている。第一から第五まである騎士団は貴族・平民の混成ながらもよく纏まっていると自他ともに認めている、純然たる事実だ。

  ヴァシュヌ国騎士団の第一任務は、有事の際、いかに素早く国難を収めることが使命とされている。そのため、今回の件に関しても素早く、そして迅速に動いたのだが、如何せんその国難がまったくこちら側に動かない。第一皇女が嫁いだ隣国がどうもきな臭いという情報は掴んでいたため、一応の備えをし、国王にも権限を委譲していただいたのだが、それでも状況が全くわからない。

  このような戦況なのだから、端々の騎士だけではなく、参陣していた上級騎士達からも当然のように不満は出る。一方、権限を委ねられた騎士隊の総団長ですら詳しい情報がないのだからたまったものではない。

  眼前の流れゆく川を睨みつけるようにしても、現状はじりじりと時を無為に過ごしているようにしか感じられないのだ。


  騎士団がじりじりとしている理由はそれだけではない。

  第一、第二、第四騎士団と、計三騎士団がカーンとの国境を挟んで布陣している中を、ヴァシュヌ王家親衛隊が何騎かで隣国へと駆け抜けて行ったのが多くの騎士に目撃されたことに起因している。


  それも、国王の守りの要である総隊長と、その双肩に国の未来が乗っている御方までもが駆け抜けていった一派にいたことも認められている。

  報告を受けた総団長にとっては、まさに由々しき事態である。



  そもそも、騎士団と親衛隊は折り合いが良くない。


  元は、国王に最も近い場所で護衛する『近衛騎士』という栄光の任を、騎士団の中から選りすぐりの、そして何よりも有力貴族の中でも実力者である精鋭が務めていたのだが、親衛隊の創始者である当時のファルコン家当主が『近衛騎士』を新たに『親衛隊』として編成し直した。その際には既存の近衛や騎士団の意見を全く聞き入れないばかりか、当の国王すらも人事に口を挟めないという、絶対不可侵のものへと創り変えてしまったのである。

  当然のように騎士団の内部では反発が起き、それも貴族出身連中が相当苦情を入れたようだが、それすらもすでに当時の王の守りを一手に引き受けていた初代総隊長には一笑に付されたらしい。なまじ初代総隊長は、王弟でもあったため余計に根回しや手出しができなかったというのが本当のところのようだが。

 

  親衛隊が騎士団から問題視されたのは他にもある。国王に近しい存在を護衛するという重要な任務にも関わらず、貴族だけではなく、平民出身者が堂々と入隊出来ることだ。

  栄光と名誉を何よりも大事にする貴族はそこが何としても許せなかった。そのため、代替わりした現在であっても水面下では冷戦状態で、相入れない関係なのである。


  と言っても、一般騎士に関してはこれに同意していない者も多い。

  親衛隊の隊員は騎士の人間と同じく平民出身も少なくない上、隊員自身も気さくな人間が大多数だ。貴族の高慢ちきで偉ぶった上司達が嫌いな騎士、特に若手騎士団員には逆に好意的にとらられている節もある。

  彼らに言わせれば、いつまで昔のことを言っているのだという世代間の違いもあるし、親衛隊に対する憧れもあるのだ。

  一般騎士としては、近衛から親衛隊という名前になったというだけ。実際、騎士団から親衛隊へと入隊した者だって少ないながらもいる。その時にはかなり上層部は荒れたと聞いてはいるが、下の連中の目には羨望のまなざしで称えられた。

  それがまた上役には気に入らない原因の一つとなっているのだが、皆決まって素知らぬ顔をしているのもいれば、逆に開き直っている者すらいる。



 

  国王の御身をお守りする名誉、憧れて何が悪い。




  親衛隊の入隊試験はいつ行われているのか、一切知らされない。特にこれといった告示が出ないのだ。

  一部の話では隊員自らが勧誘してきてから試験が行われるとか、秘密裡に隠された情報を基に試験会場を導き出すとかと言われているけれど、それのいずれも噂の域を出ない。

  親衛隊の人事は全く口外されない為、ある時から突然新しい顔だなと思ったら、それが新入隊員だというわけだ。



  騎士団と親衛隊の違い。

  ヴァシュヌ王家親衛隊は、新入隊員のレベルが当初から高いことにあげられる。


  戦闘能力は当たり前のように強者揃いと自慢の騎士と同等、もしくは上の場合だってある。

  新入隊員でそれなのだから、親衛隊の各隊長クラスの人間は武功を幾度となくたてた騎士団長でも敵わないと噂されている。残念ながら、彼らが本気で手合わせをしたことがないのではっきりとしたことはわからないが、それでも息を切らせている団長と、全く平然としている隊長を比べると顕著な差が現れるのだ。

  騎士の中には獲物が剣ではなく、槍などを使うものが存在しているが、親衛隊員は全員帯刀が基本だ。もちろん、必要に応じて獲物を替えることもあるが、基本的には剣が主流である。

 とは言っても、曲者揃いの親衛隊を表してなのか、全員が全員同じ剣というわけではないけれど。





  そしてもう一つ、騎士団と親衛隊の違い。

  それは王家に対する感情の違いである。



  最近親衛隊へ入隊(はい)ったばかりの者だと言うのに、王や王妃、その家族に至るまでのヴァシュヌ王家というモノに対する心服感が突出しているのだ。もちろん、王の傍近くを護衛するのだからそれも当たり前なのだが、それでも見るものによっては常軌を逸しているようにも見える。一方、反逆などを起こされたら一番厄介な存在であるのだから、それも好しとする意見もある。

  ただ、妄信的なまでに王家に対する感情が突出している親衛隊の存在は不気味であると同時に、何かしらの畏怖すらも感じさせるものなのだ。




  王家の方々は揃って親衛隊に厚い信を置いているし、水面下ではいがみ合っている騎士団ではあるが、彼らの実力は嫌がおうでも知っている。

  だからこそ王都でポイニクス王の御身を護っていると思っていたのに、何故国境を越えて行かねばならんのか…!


  一人、天幕の中で握った拳を震わせた騎士団総団長は、バタバタと走ってきた次官の報告に目を剥いた。


  曰く



  『皇太子殿下と皇女殿下が国境を越えてお戻りになられた』



  と。

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