第四十七話 復元する痛み
ガタガタという振動でルビーは目が覚めた。
未だはっきりとしない視点で目だけを動かして辺りを見渡そうとしてみても、うつ伏せに寝ているのだろう。白い敷布らしきものしか動かせる視点では見る事が叶わない。その他を見ようにも、ぼんやりとした思考からか、どうにも身体が動かない。ぼんやりとしている頭で視線だけを動かすと、上質なビロードの上に敷布が敷かれて、その上に自分は寝ているらしい。
自由にならない身体を他所に、聴覚と一応の感覚だけは正常に働いているようで、ガタガタと身体が揺らされている感じとガラガラという独特の音は聞き取れる。それらを総合して導き出されたルビーの答えとしては、多分馬車の中なのだろうと予想を付けた。
実際ルビーは王家専用馬車などから比べると、格段に等級を下げられている馬車に乗せられて移動しているのだが、それでも怪我人であるルビーの身体に障らないようにと、なるべく負担を掛け難い種類の馬車が選ばれている。一般市民が乗るような乗り合い馬車のような外観にも関わらず、ルビー一人を横に寝かせて移動出来るだけの広さは確保され、大の大人が三、四人乗ってもまだ座席に余裕があるほどの広いものだった。
「ぅっ……!」
うつ伏せで寝ている身体を動かそうとしたルビーだったが、ほんの少し肘を動かした瞬間に襲ってきた背中の激痛に思わず声が漏れた。
はっきりとしていなかった意識が急激に引き戻されるような痛みに、ルビーは全てを思い出す。
隣国の王妃になるために嫁いできたはずが、何故かそれは姉に替わっていたこと。
国にも帰れず、そのまま城で下女として働かされたこと。
その城でみんなから疎まれ、当の王からも蔑まれたこと。
そんな中、王妃となった姉だけは優しくしてくれたこと。
だけど。
その慕っていた実の姉から嫌悪されていたこと。
姉が今まで故郷で味わってきた思いを憎しみを込めて暴露したこと。
姉に悪意を持って接せられたこと。
そして。
錆びた鉄の香り。
誰かの狂った笑い声。
誰かの悲鳴。
あの、魔の狂宴。
ルビーは全てを思い出す。
それは自分が求めて止まなかった男が突然現われた、あの瞬間も。
「ぁ…ぁぁああ……ゃ…ぃや……いや、いやああああっっっ!!!!!!!!!」
激痛に苛まれる身体。
悪意に叫ぶ心。
黒に染まる思考。
赤い、紅い血を手から流しているのは、
だあれ?




