表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/53

第三十四話 暗躍する影

暴行表現がありますので、苦手な方はご注意下さい。

「フラウロス」


「あら、スルト。そっち…反乱軍の城への誘導は終わったの?」


「ああ。お前は?」


「見ての通りよ。貴方も加わる?」


「そうしたいのも山々なんだが、そろそろ切り上げて合流しないと総隊長がお怒りになるぞ」



ヴァシュヌ王家親衛隊員、スルトとフラウロス。

腕にある腕章は黒。

黒を持つ者は総隊長直轄の諜報員の印である。


彼等諜報員は総隊長以外に任務内容を知る事はないため、存在は知られていても実際に見た事のないという親衛隊員も少なくない。

諜報員は元々親衛隊員の中からの選抜であるのだが、それが任務の際に全親衛隊員の中から秘密裏に選抜されるため、部隊とかけ持ちと言う事が起こる。実際、スルトとフラウロスの持つ本来の腕章の色は水色、ルビーの部隊の親衛隊員である。

ルビーがカーンに嫁ぐ際に諜報員に指名された二人は、隠密裏にカーン城に潜入。そこで見た事・聞いた事・現実に行われている事等、全てを総隊長に報告する任務に当たっている。




現在ヴァシュヌ王家親衛隊は、アビゲイル隊だった親衛隊員を総隊長自ら所属していた隊員全員を処分、他国に嫁ぐ事で解散するはずだったルビー隊を彼女がいる時と若干の人事異動があったものの、ほとんどそのままの隊員数を保持している。

スルトとフラウロスもその中の一人である。


彼等二人が指名された理由、それはルビーに何が行われているかを黙って見ているだけの忍耐強さと我慢強さが、他の親衛隊員より飛びぬけていたからである。と言っても、彼等も元々はルビーの隊に所属しているために、ルビー皇女に対する絶対性は持ち合わせている。その絶対性を押さえつけて、なるべく自我を消して報告するという過酷な任を任されたのだ。


スルトは男なので総隊長への報告を、フラウロスは女である事を理由に城に潜入、そこで働いていた下女を殺害、まんまとその女に成りすまして王宮の内情を調査していた。



「さて、そろそろ行かないといけないから一息に…と言いたいところだけど、私も我慢の限界だったのよね」


「ああ、俺もだ。こいつだろ、ルビー様を殴ったのって」


「一国の皇女に手を上げるなんて…。本当に殺しても殺し足りないわ」



フラウロスがごつと黒いブーツで蹴りあげた女、洗濯室にてルビーを殴った洗濯室の責任者の女は血を流して血に伏している。それを何の感慨も浮かんでいない目で、二人は女を見下ろした。



「総隊長が決断して下さって良かったわ。私あのままだと直ぐにこの女を殺してたと思うもの」


「ルビー様を殴ったりするから。それさえしなかったら、お前は明日の祖国の朝日を拝めたのにな」



くつりと冷たく笑ったスルトは、壁際に寄ってそのまま背をもたせかけた。


ヒューヒューと喉が鳴りながらも、意識を保たれたままに殴り蹴られていた下女頭は濁った目で二人を見上げた。

何やら城の外が騒がしいと思っていたら、一緒に働いていた女から様子を見て来ないかと外へと誘われた。随分と人気の無い場所まで移動すると思って声をかけようとした瞬間、いきなり目の前の女が見知らぬ軍服を着た女へと変化した。驚いて目を見張っていると、にこりと朱の塗った唇が上がったと思ったその刹那、目に火花が散った。

頬が熱く、殴られたのだと思ったのも束の間、瞬く間に逃げられない様、腕と足を拘束された。何が起きているのか全くわからないままに、黒衣の女に意識を保ったまま殴られ続けた。

嬉しくも、意識が飛ぶと思う事は幾度となくあったのに、女はそれを許してはくれなかった。全く容赦のない暴行を受け続けていると、またしても黒衣を身に付けている見知らぬ男が現われたのだ。



「…あ…あん…た達……な…何者だ…い…」


「俺?俺はヴァシュヌ王家親衛隊のルビー様の部隊員。ついでに、こいつも同じ親衛隊員だから」


「諜報員の私がこんなに忍耐強かった事を喜びなさい。他の隊員だったら、ルビー様に殴りかかる瞬間に腕ごと切り落とされてたわよ、貴女」



くすくすと笑う、黒衣の男女…ヴァシュヌ王家親衛隊の二人を女は絶望に染まった目で見た。


彼等が言う、ルビー様と言うのはあの王妃の異母妹であり、今は下女としてこき使われている、あの見すぼらしい小娘の事であろう。先日、アールマティ皇太后が城に帰城した日に自分が殴ったあの小娘…。

まさか、何故洗濯室という狭い空間で起きた出来事を王家の親衛隊員が知っているのだろうか。



「私、貴女を誘い出した女って言うのに殺して成り代わってたから。あの場面はばっちり見てたのよね。……よくもルビー様を殴ったわね…貴様…」


「フラウロス、なるべく早めに。だが、楽に殺すなよ」


「わかってるわ。さて…貴様のような見の程知らずは苦しんで死ななきゃね」



くっと笑った黒衣の二人の影は、ただでさえ人気のないところでは良く伸びた。





「あら?」


「どうしたのさ」


「火が上がってる。火事かな」


「気のせいじゃないかい?それよりも、城の外は凄いよ!今にも城門が破られそうだ」


「ええ!?本当!?あたし達どうなるんだろう!!」


「知るわけないだろ!あたしだって知りたいよ!!」


「あの人だったら知ってるかな…って、あれ?どこいったんだろう。知ってる?」


「そう言えばさっき見かけたきりだね…。まさか!先に逃げたんじゃないだろうね!!」


「うそー!!じゃああたしたちも逃げないと!!」



ばたばたと、洗濯室には人が逃げ惑う音だけが響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ