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第二十六話 胎動

「そろそろ行こうか、ティソーン」


「ああ、そうだな、コラーダ」



城をじっと見ていたヴァシュヌ王家親衛隊の二人が窓から離れた。そうして、何事も無かったかのように組織の隠れ家を出て行こうとしている寸前、パルチザンが声をかけて引き留めた。



「お前ら二人、王家親衛隊だろ?って事は来てるのか…その…あれだ。あいつ…」


「総隊長?来てるよ、もちろん」


「既に城に入ったが」


「は!?いつだ!?」



大男二人がお互いの顔を見合わせ、きょとんとした表情をしている。何をそんなに驚いているのかわからないらしい。



「「さっき」」


「何だと!?」


「随分派手にやってたよね、コラーダ」


「あぁ。でも流石は総隊長。全て一撃だったな、ティソーン」


「ホラ吹いてんじゃねえ!第一さっきから静まりかえってるし、異変があるように見えないぞ!?」



二人の簡潔な返事に異を唱えるかのように、周りにいた仲間達が窓辺に殺到して城周辺を見回すが、辺りは何も変わりがないように見える。

城には軍の中でも指折りの精鋭が揃っている。ネズミの一匹すら侵入できないはずだ。もしも誰かが侵入したとなると、必ずや騒ぎになるはず。

それなのに、平日と変わらぬ平穏さだ。この双子の勘違いじゃないかと思い笑い飛ばそうとした時に、隠れ家の戸が叩かれた。その途端に殺気が皆を包む。



間違っても、ここで死ぬわけにはいかないのだ。せめて、あの暗愚に一矢報いねば…

それが出来なくとも、皇太后アールマティとシャリヴァー殿下、そして反体制派の要でもあるミネルヴァを助けない限り、自分達は死ぬわけにはいかないのだ。



そう構えた面々を後目に、コラーダと呼ばれた飄々とした男が、周囲の制止の声をよそに戸を開けた。



戸の前に立っていたのは、やはり黒尽くめの人物。

戸を開けた人物が大きいからかもしれないが、それよりも少し低い身長の人物に、コラーダは瞠目した。

その様子を見ていたパルチザンが、コラーダの片割れのティソーンを見ると、その無愛想な顔を引きつらせていた。



こいつらと同じく黒尽くめ服装をしているのを見て、てっきり違う親衛隊員が来たんだと思ったが、二人の反応を見る限り違うようだ。どう見ても、想定外の人物を目の当たりにしたような驚き方だ。パルチザン達が、どうしたと声をかけるより早く、双子の二人が同時に膝をつく。そして、その人物が口を開くのを待っていた。



「フレッドは?」


「先ほど、城門から見えました」


「総隊長は既に中に入っています」


「そう、と言うことは全滅させたわけか。相変わらずルビーの事となると容赦ないね、あいつは」



ふうっと一息ついて、跪いている男達を見る。

その周りには意味が分からないと言った面々が、ただ立ち尽くしていた。


パルチザンは、言いようのない不安に襲われていた。

まさか…そんなはずはないと何度も反問しながら、付いてこない頭を動かそうとするが、なかなか上手くいかない。

この親衛隊の二人が総隊長以外に敬語を使う。


それも跪いて…



それが意味するのは…




パルチザンがうんうんと頭を捻っていると、コラーダがその人物に声をかけた。



「城は総隊長が制圧済みです」


「如何なさいますか」



そう言ってくつくつと笑い出した人物が、徐に被っていたフードを落とした。



「じゃあ、フレッドが制圧したみたいだし、君たちも一緒に城へ行こうか。後の事は君たち、カーン国民が何とかしないと。私達は妹を取り戻せば、この国には一切干渉しないから」



そう言って目を細めた彼の瞳の色は、囚われた王女と同じ――――



赤紫






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