793食目 秘策
「なんだというのだ! おまえたちはっ!?」
「モモガーディアンズだよっ!」
ライオットの渾身の蹴りが魔導機神メサイアの腕部装甲を削り取る。その攻撃力の高さに危機感を覚えたミレットは英雄再生をおこなっている場合ではないと判断。背部ディスクを停止させ邪魔者の排除を決断する。
「ライオット! 来るよっ!」
「おう! やるぞ、プルル!」
「任せておくれよ!」
魔導機神メサイアは長高三十メートルにも及ぶ巨大人型兵器だ。その巨大な存在に恐れることなく挑む少年少女の姿に、ミレットは苛立ちを募らせる。
ミレットは圧倒的であった……はずだった。だが、現状は彼が不利になっている。
魔導機神メサイアが再生させた英雄たちの数は優に五万を超える。これは、モモガーディアンズたちを遥かに上回る数だ。しかし、なんの足止めにもなっていない、というのが現状であった。
「おのれ、おのれ! 小蠅どもがっ! メサイア、こいつらを消し去ってしまえ!」
魔導機神メサイアのデュアルアイが真紅に輝き、コクピット内のモニター画面が真っ赤に染まる。そこには【デストロイシステム起動】の文字。
瞬間、魔導機神メサイアがライオットたちの視界から消え失せた。
「なっ!?」
ライオットは背後に殺意を感じ取る。そして、直感に従い身体を捻った。
何かが通り過ぎる。それは、魔導機神メサイアの巨大な拳であった。
「大型の機体が出していい速度じゃないよ!」
プルルはGD・ネオ・デュランダを駆り、魔導ライフルを発砲。それらは正確無比に魔導機神メサイアに命中する。しかし、魔導機神メサイアに変化は無かった。
「消されたっ!? 遠距離攻撃は効果が薄いのかい!」
「魔導機神をなんだと思っているんだ。神だぞっ!」
魔導機神メサイアのかざした手の平から波動のようなものが発生した。プルルの背筋が凍り付く。それは彼女を包み込み、一瞬でこの世から消し去ってしまった。
「まずは、一匹!」
「プルル! てめぇ!」
プルルが消し去られたことで頭に血が上ったライオットは、矢鱈滅多らに魔導機神メサイアに突撃する。
しかし、そのような分かり易い攻撃は今の魔導機神メサイアには通用しない。残像すら残す高速移動で意図も容易くライオットの背後を取る。
「消えろ」
「しまっ……!」
魔導機神メサイアがライオットを握り潰す。邪魔者を排除したミレットは薄暗いコクピット内でため息を吐いた。
「誰にも邪魔はさせない。誰にもだ。母さん、もう少ししたら……そっちに行くからね」
彼は乱れていた呼吸を整え、次に備える。英雄たちは役に立たない、そう判明したからだ。案の定、モモガーディアンズの精鋭の姿が、すぐそこにまで迫ってきている。
「チャージ完了まで……あと、十分を切った。もう、僕を止めることはできない」
ミレットの青い瞳が紅蓮に染まる。それは、赤であったが黒でもあった。憎しみの炎は宇宙ですら焼き尽くさんと触手を伸ばす。
それを切り裂いて戦士たちは機械の神に挑む。
「っだぁぁぁぁぁぁっ! しくった!」
「いやぁ、どうにも参ったね。あれは反則だよ」
消滅させられたライオットとプルルであったが、彼らはエルティナの下にいた。これは、どういうことであろうか。
「ふきゅん、あれは一苦労だな。やっぱり、俺が出向く必要があるなぁ」
無駄に大きな乳房を抱え、うんうんと考え込むエルティナ。その彼女の胸が光り輝いた。
「なんじゃ、ありゃあ!? ふっざけんなよ!」
「マジか、あと数分でアレをなんとかしろってか?」
「無理無理、近付けもできなかったさね~」
白エルフの少女から、ぽこぽこと生み出される変態トリオの姿。悪態を吐く彼らにライオットたちも同意する。
「んで、飛ばされた先には何があった?」
「俺は溶岩の中だった」
「俺は恐竜の頭の上だったな」
「わちきは、どこかの星の女湯だったさね。折角だから、美人さんを押し倒して、色々としてやったさね」
「「「これは酷い」」」
エルティナの質問にそれぞれの答えを示す変態トリオ。特にアカネは酷かった。
「いきなり身体が解れて行った時は驚いたけど、これが消滅の能力に対する回答かい?」
「そういう事になるな、プルル。いわゆる、【デスルーラ】、【死に戻り】、という荒業だぁ」
「死に戻りは分かるけど、デスルーラってなんだ?」
「気にするな」
プルルの問い掛けにエルティナは頷いた。ライオットに対しては説明が面倒くさいと判断。気にしない方向へとさり気なく誘導する。
この【死に戻り】が、エルティナの魔導機神メサイアの消滅の能力に対する回答であった。
エルティナは現時点で、永遠の死を迎えた戦士たちのデータバンクとなっている。したがって、彼らが脱出困難な状況に封じられても、わざと肉体を崩壊させ、一から再構築させることが可能なのだ。
ただし、幾らデータがあるからといっても、同時に同一人物を二人構築させることは不可能である。また、再構築場所は必ず彼女の魂からとなる。
「とにかく、俺もメサイアの傍までいかないと話にならん」
「なら、急ごうぜ。もう時間もそんなに残っていないはずだ」
エルティナたちは魔導機神メサイアの下へと急ぐ。しかし、エルティナは遅かった。尻が大き過ぎるのがいけないのだ。これではメルシェを馬鹿にはできない。
「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」
「あぁもう。お尻を押してあげるからがんばってよ、エル」
「おいぃ、このタイミングで破廉恥行為はNG。てか、手で押してないだろ!?」
「……ばれた?」
エドワードはどさくさに紛れてエルティナの尻に顔を押し付けて変態行為を炸裂させていた。これにアカネが呼応するも、ロフトに首根っこを掴まれて未遂に終わる。今は大人しい。
「……カーンテヒル様に代われば?」
そして、ヒュリティアの冷静なツッコミで、全世界の珍獣が「ふきゅん」と鳴いた。
苛烈さを増すモモガーディアンズと魔導機神メサイアとの攻防。そのなかで魂無き英雄は役に立っていないと思われがちであるが、実のところ厄介な存在がいた。それが魔導王ソロモンである。
彼は秘術を用いて悪魔を召喚、使役する。呼び出された悪魔は魂無き存在ではなく、魂を縛られた本物の悪魔なのだ。
「ちっくしょう、ぽこぽこと呼び出しやがって!」
「戦い難いねぇ……腐らせちまったら、後で文句を言われちまうよ」
レヴィアタンとベルゼブブは、魂を縛られた旧知の悪魔たちの対応に追われていた。束縛を解除することは容易くはない。
最も簡単な方法は召喚者を殺すこと。しかし、魔導王ソロモンが無数に存在するという矛盾。彼を一人殺したところで、同一人物が無数いるため契約が解かれることが無い。
「何を躊躇してやがる? おまえらも悪魔だろうが! 遠慮なく殺せ!」
「しかしっ!」
「拭抜けたか? なら、ここでくたばっちまいな! へぼ悪魔!」
「んのやろっ!」
束縛された悪魔の挑発を受けてレヴィアタンが水の刃を放った。それは、旧知の悪魔の首を刎ね、魔導王ソロモンの頸をも跳ねる。
「……やればできるじゃねぇか」
レヴィアタンの旧知の悪魔は事切れた。満足そうな笑みを浮かべて。
「胸糞わりぃ。もう、遠慮はしねぇからな!」
ヤケクソになったレヴィアタンが、次々に悪魔を、ソロモンを屠ってゆく。その姿は正しく悪魔。同胞の返り血を浴びて妖艶に舞い踊るレヴィアタンにガイリンクードと誠司郎も続いた。
「それでいい、悪魔は人がいる限り、いつか蘇る」
「でも、人がい無くなれば、それも叶わない」
ガイリンクードが魔銃を放つ。放たれた弾丸は予測不能な軌道を描きつつ魔導王ソロモンの額を貫いた。その間、誠司郎は向かってくる攻撃の回避に努める。
一つの身体に二つの魂を持つがゆえの役割分担は、恐るべき戦闘能力をもたらした。
そこに、タカアキたちが乗る次元戦艦ヴァルハラが、そして、始祖竜カーンテヒルが到着する。
今、決戦のゴングが鳴り響き銀河は激震する。世界の消滅まで、あと八分。




