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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
782/800

782食目 行く者 ~折れぬ心~

「フウタよぉ、ぜってぇ、これが最後の出撃だぞ?」

「でしょうね。この急造のGDでどこまでやれるか」


 ルティエ連合艦隊に拾われたアルフォンスとフウタは、彼らから提供された部品を無理矢理組み合わせて急造のGDを制作。それをテストもしないで身に着けてカタパルトへと乗り込んだ。


「おまえらも大概だにゃん」

「感謝してますよ、ミケ大尉」

「先に行ってるにゃ。ミケもすぐに出撃でるから」


 大破したGDラングスに、ごてごてとわけの分からない部品を取り付けて、異形の存在となった急造GD【ラングスリペア】はカタパルトから射出された。

 それを追いかけてミケ・ニャンコ大尉の【コマンドボディ】が発進する。


 このコマンドボディは、惑星ルティエで言うところのGTに相当するものだ。というのも、惑星ルティエに住まう者は非常に小さく、大人で僅か十センチメートルしかない。

 ミケ・ニャンコ大尉は、その惑星ルティエの代表種族である、【にゃんこ人族】と呼ばれる猫獣人だ。その卓越した技術力と戦闘本能の高さから、他星の侵略をことごとく退けてきた経歴を持つ。


「にゃ~ん、NXニャンガー、オールグリーン。ミケ・ニャンコ、出撃でる!」


 猫とも人とも取れる、シャープなフォルムの白い機体が黒い宇宙へと射出された。それに類似した灰色のコマンドボディ・NXGニャントモが後に多数続く。


「にゃうん、今回は流石に戻れないかもにゃ」

『またまた、今回も、きっと帰れるにゃ~ん』


 ミケ大尉は無線で仲間たちと呑気なやり取りをおこなう。このやり取りはアルフォンスたちの耳にも入っていた。

 自動翻訳機もカーンテヒルの言語が登録されたことにより正確になり、彼らの呑気な会話が正常に分かるようになったのだ。


「一応、真面目な会話……なんだよな?」

「にゃんにゃん言っているので、少しほんかわしてますね」


 アルフォンスとフウタはそんな会話に気が抜けつつも、モニター画面に表示されている赤い警告に辟易した。その全てが不明な部品が接続されたことに対する警告であったからだ。


「あぁ、鬱陶しいな」

「戦闘モードに入るまでの辛抱ですよ」


 やがて、前方に輝きが見えた。戦艦吉備津が魔導騎兵と交戦しているのを確認したのである。


「ありゃあ……戦艦吉備津か!? なんで、こんなところに!」

「なんにしても、すぐに救援に向かいましょう!」


 戦艦吉備津は、多くのGDをASUKA内部へと送り込んだため、防御が手薄となっていた。そこを狙われたのだ。

 損傷率も七割を超え、撃沈もすぐ目の前にまでやってきている。ここに至ってはリマスも覚悟を決める必要があった。


「陛下! もう持ちません!」

「く……ここまでか。総員退艦! 僕は残ります!」

「なりませぬ! 陛下は脱出を!」


 その艦橋に魔導騎兵の一機が迫った。魔導ライフルを構えリマス王を狙う。家臣は自らを盾にリマスを護らんとした。


「へ、陛下っ!」

「くそっ!」

 

 ここまで接近されては迎撃も叶わない。リマスは覚悟を決めた。しかし、その時は訪れなかったのである。

 艦橋を、リマスを狙っていた魔導騎兵はアルフォンスが抱えていた歪な形状のレールキャノンの射撃により、一撃で大破、爆散したのだ。


「おいおい……マジかよ!?」


 そのあまりの射程距離と威力にアルフォンスは驚愕した。そして、そのレールキャノンを使いこなすミケ大尉たちの姿に身体が震える。


「にゃ~ん、いただきにゃお!」

『こいつら、よわっちぃにゃ!』

『やっぱり、今回も楽勝にゃん!』


 次々に駆逐される魔導騎兵、遠近共に隙の無い兵装のコマンドボディは黒い空を縦横無尽に駆け巡る。それは、圧倒的であり、安心感さえ抱かせた。


「うはっ……なんちゅう動きだ、ありゃあ」


 恐ろしい軌道を描き練度の違いをまざまざと見せつけられる。宇宙空間での戦いの手本とも言える動きにアルフォンスとフウタは目を奪われた。

 ひょっとしたら、いけるのではないだろうか、そんな期待感すらアルフォンスとフウタは覚える。その安堵感は周りに気を配る余裕を与えた。


「アルフォンスさん」

「おう。おい、戦艦吉備津! 大丈夫か!?」

『その声は……アルフォンス様ですかっ!?』

「リマス……リマスかっ!? おまっ、国をほったらかして何してんだ!」


 アルフォンスは窮地に陥っていた者の正体を知って酷く困惑した。そんな彼をカバーするかのようにフウタが周りの魔導騎兵を撃破してゆく。それをミケ大尉たちが援護、戦艦吉備津に纏わり付く魔導騎兵は数を減らしていった。


「よし……少し動きがぎこちないが、いける! アルフォンスさん、驚くのは後です!」

「お、おう、そうだったな!」


 フウタのツッコミで再起動を果たしたアルフォンスは全身に装備した砲門に加え、風の大剣を無数に生み出し、多数の魔導騎兵を同時に撃破していった。


「我々も、負けてられないにゃ~ん!」

『分かってるにゃお! ミケ大尉に続くにゃ~ん!』


 コマンドボディの三個小隊が魔導騎兵に殺到する。歴戦の戦士たちに圧倒されて魔導騎兵たちは瞬く間に爆散して果てた。


 九死に一生を得たリマスは今度こそ退艦を促す。暫く戦いを共にした戦艦吉備津を敬礼でもって見送る。暫しの後、戦艦吉備津は閃光と共に宇宙に沈んだ。


「リマス、分かってんのか? 後戻りなんてできやしないんだぞ?」

「分かっています。でも、それでも行かなくてはならない、と僕の奥底で何が叫んでいるんです」


 リマスはGDティアリを身に着け、アルフォンスたちと共にASUKA内部へ向かう決断を下した。それに従うクルーは僅か三十名。


「アルフォンスさん、ここに至ってはもう……」

「分かってるよ。リマス、最初っからだったが、俺はおまえさんを王とは見てない」

「はい」

「いくぞ、勇者リマス」

「はい!」

「できればヒーラーが欲しかったですね」


 こうして、アルフォンスたちはリマスたちを加えてASUKA内部を目指す。その後をルティエ連合艦隊が追った。






 宇宙要塞ASUKA内部……そこでは、魔導騎兵と激戦を展開する闘神ダイクの姿があった。

 快進撃を続けていたダイクの率いる部隊であったが、通路が一本道になったことで事情が変わる。


 そこに配備されていた多数の魔導騎兵は長距離射程のライフルを装備しており、GDティアリの魔導ライフルの射程を優に超えていたのだ。

 この武器の性能の差は圧倒的であり、多くの部下を失ったダイクは行くことも引く事もできない状態に陥った。


 しかも、ようやく撃破できたかと思えば即座に魔導騎兵は補充されてしまう。このイタチごっこに、ダイクは業を煮やした。


「突破できねえか!?」

「抵抗が激しくて難しいです!」

「やっこさんも相当に焦ってやがるなぁ。おぉ、やだやだ」


 ダイクは面倒くさそうに腰に装備されていたグレネードを魔導騎兵の集団に投げ付ける。

 それは閃光と共に爆発し、魔導騎兵を纏めて葬り去った。しかし、それもすぐに補填され、先に進む事ができない。


 ダイクの言うようにASUKAを管理するシステムもここを突破されるわけにはいかない、という重圧を抱えていた。

 したがって、抵抗もかつてないものとなっている。だが、ダイクも事情は同じであり、ここをなんとしても突破、確保しなければならなかった。


「やだねぇ、消耗戦ってのは。おい、弾ぁ、残ってるか?」

「自前のなら二つほど」

「冗談を言えるくらいには元気があるってか?」

「冗談を言わないと、やってられないってことですよ」


 ダイクたちは魔導ライフルを投げ捨て、魔導光剣を引き抜いた。そして、雨あられと光線を放つ魔導騎兵へと殺到したのである。これは、自殺行為に等しい暴挙だ。


「おらおら! 道を開けろ!」


 ダイクたちのまさかの特攻に、魔導騎兵たちは戦闘パターンを崩されて混乱状態となった。

 とはいえ、混乱は一部であり、すぐさま立ち直りダイクたちに光線を浴びせる。それは、多くの戦士たちを死に追いやった。

 しかし、ダイクは怯むことなく突撃。遂に魔導騎兵の壁を切り崩した。


「よし! ゴリ押せぇ!」


 なだれ込む戦士たちに魔導騎兵たちは壁を維持できず崩壊、多くの犠牲を払いながらもダイクたちはASUKA中枢への道を確保した。


「ダイク隊長! 侵入通路を確保!」

「おう、後は維持しろ! すぐにお客さんが来るぞ!」


 彼らが待つのは果たしてリマスか。その答えはすぐに訪れた。


「人の子よ! 大義である!」

「そんなのいいから、さっさと行ってくれ!」

「あっぱれな男よ! その勇姿、決して忘れぬ!」


 傷だらけとなった黄金の大蛇に跨る日本神話の神々、彼らを災禍の中心に導くことこそ、闘神ダイクの最後の使命であった。


「ダイク隊長! 敵の増援です!」

「こっちは増援が期待できねぇってのに!」


 魔導光剣を振り回しダイクは闘神の名に恥じぬ戦いを見せ付けた。しかし、度重なる戦闘でGDは既に機能を果たさなくなり、遂に魔導光剣のエネルギーも尽きる。

 それでも、彼は戦い続けた。剣がないなら拳で、と魔導騎兵を砕き始めたのである。


「ぜぇ、ぜぇ……へへ、やっぱ、無理があったかねぇ」


 満身創痍、そう言い表すのもおこがましい状態となったダイクは周囲を見渡す。倒れ伏す部下たち。立っているのは自分と迫り来る魔導騎兵のみ。


「でもまぁ、任務は果たした。なら、後は自分のために使ってもいいよな?」


 脳裏に蘇る友との思い出、それは走馬燈であっただろうか。


「色々あったが……面白い人生だった! そうだろ、シグルド!」


 闘神ダイクは魔導騎兵に突撃する。それが、彼の最期の姿であった。


 彼が地に伏したという記録は残っていない。最後の最期まで彼は倒れることなく戦い続け、その末に絶命したという。

 この凄絶な戦いによって、闘神ダイクの名は確かに世界に刻まれたのである。

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