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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
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781食目 永遠の誓い

 機動要塞ヴァルハラは、遂に宇宙要塞ASUKAに取り付いた。防衛ラインを突破された宇宙要塞ASUKAの制御システムは尚も敵の排除を試みる。


「よぉし、いいぞ! これより、ASUKAへと突入する! 泣いても笑っても、これが最後だ! 各員の奮闘を期待する!」


 機動要塞ヴァルハラの司令官オーディンが、生き残った戦士たちに最後の号令を言い放つ。


「全軍、突撃っ!」


 機動要塞ヴァルハラから戦士たちが、カタパルトより次々に飛び出してゆく。

 それを迎い撃つのは魔導騎兵の軍団。そして、躯に取り付いた小さな魔導騎兵たちだ。


「エティル、大丈夫か?」

「はい、吉備津様。私は大丈夫です」


 その中には桃先生ことエティルの姿もあった。慣れないGDを身に纏い、吉備津彦に支えられながらASUKA中枢を目指す。正しくは、我が子であるエルティナの下へとだ。


「(やはり、あの子の力は完全ではない。私に多くの力が残っているのがその証拠)」


 エティルは胸に手を当てた。そこから感じる全てを喰らう者の力は、エルティナの全てを喰らう者とほぼおなじ波長だ。

 それは即ち、エティルが生み出した真なる約束の子に、全ての力が受け渡されなかった証拠と言えた。


「(急がないと……でなければ、あの子は【約束】を果たせない)」


 エティルの額から汗が流れ落ちた。彼女を支える吉備津彦も慣れない推進装置を身に着けての進軍だ。


「慣れないな、この浮遊感は」

「はい、ですが、急がねばなりません」

「うむ、桃姫……いや、エルティナの下へ急ごうぞ」




 彼らから少し離れた場所に鬼たちの姿があった。いばらきーず、とプルル、星熊童子たちである。


「一時期は、どうなるかと思ったわ」

「直ってよかったね、GD。でも……」

「いいのよ、あの子自身がそういう選択をしたんだもの」

「でも、さようなら、は無いよねぇ」

「そう……ね」


 ウルジェは機動要塞ヴァルハラに【残る】選択を選んだ。そして、飛び立つ戦士たちを見送ったのだ。

 ユウユウは、なんとなくだが、それが今生の別れであることを理解していた。


「(ウルジェ、あなたの選択にとやかく言うつもりはないけど……きっと、辛いわよ)」


 ユウユウの胸の内に去来する何かは、彼女の魂に宿る神をも掻き乱す。


「(汝の勘はきっと正しい)」

「(あらやだ、乙女の心を覗くだなんて、破廉恥よ、アレス)」

「(我に掻く恥はもう無いがゆえに。だからこそ、この力を汝に捧げる)」


 戦神アレスはユウユウとの神魂融合を望んだ。彼の純粋なる欲望を好意的に捉えたユウユウはこれを承諾、戦神アレスを己の力として取り込む。


「あ~、神魂融合したのに、ちぃっとも、おっぱいが大きくならないよ!」

「そういうのじゃないから、神魂融合」


 リンダはおっぱいが大きい、という理由だけで美神ビーナスと神魂融合を果たした。しかし、彼女の胸は一切の変化をきたさず、平たい族を維持し続ける。


「大き過ぎる胸なんて邪魔なだけだよ?」

「そうそう、僕らくらいが丁度いい」

「くき~! プルルと熊はあるからそんな事が言えるんだよ!」


 リンダは標準以上にある乳房のプルルと熊童子に、ねっとりとした嫉妬の炎を燃やす。プルルは内に熊童子がいるため、神々との神魂融合を見送っている。


 暗黒の嫉妬に身を焦がすリンダに呆れるのは、彼女と同じく平たい族の星熊童子だ。


「貧乳は正義。オーディンも、そう言ってた」

「あれは変態ロリコン族だから、真に受けたらダメだよ!」

「お、おう」


 そのように酷い事を言われたオーディンは、星熊童子と神魂融合を果たしている。


「私にとってはご褒美だ」

「変態っ! 変態っ!」

「あれ……私が罵られているみたいだゾ?」


 星熊童子の内に宿るオーディンは、合法幼女リンダに罵られてビクンビクンと快感を覚え、宿主である星熊童子はリンダの罵りに困惑して、ビクンビクンと悶えた。どちらも変態である。




「ガイリンクードさん、これで、最後なんですよね?」

「あぁ、最後だ」


 新たに用意された衣服を身に纏い、ASUKA内部へと進入を果たした大天使は。内なる自分との対話の果てに己の運命を悟る。


「(きっと、これが終わっても……史俊、時雨、さようならだ)」


「いくぞ、誠司郎」

「はい、ガイリンクードさん」


 翼をはためかせ、目指すは最果て。そこに終焉がある事を理解している彼らは、全てのリミッターを解除すべく七つの大罪を解き放った。




「飛ばし過ぎだろ、誠司郎たち」

「もどかしいわねぇ、他の乗り物は無かったの?」

「これしかなかったらしい。まぁいいじゃないか」


 史俊たちが乗り込むのは四人乗りのロケットのような物であった。水上バイクをより鋭いフォルムにしたかのようなそれは、誠十郎の手によって操縦されている。

 これは、自家用車を運転できるのであれば操縦は容易であった。






「行きましたか……では、私も準備に取り掛かるとしましょう」


 勇者タカアキは特殊な装置に囲まれた部屋に独りあって操作パネルを操作し始める。

 すると、機動要塞ヴァルハラが崩壊を始めた。しかし、それは崩壊であって崩壊ではない。余分な部分をそぎ落とし、真なるヴァルハラを呼び覚ますための行為。


 巨大な要塞は姿を消し、そこから一隻の戦艦が姿を現した。まるで太陽を思わせるかのような黄金色をした戦艦だ。鋭い三角形のようなフォルムは神々しささえ感じさせる。


「次元戦艦ヴァルハラ起動完了。これで、準備は万全ですねぇ」


 次元戦艦ヴァルハラは、ドクター・モモの技術の粋を集結させて作り上げた、次元を航行することが可能な戦艦だ。

 高次元からの侵略者に対する備えとして建造された船であり、自己修復、空間転移、無限機関を備えた【脱出艇】の役目をも持たされている。

 内部には、あろうことか自然が存在しており、そこでは野生動物たちが生活し、水や空気までもが生産されていた。


 しかし、タカアキはこれで世界からの脱出を試みるわけではない。彼にはやるべき使命が残っているのだ。


 そんな次元戦艦ヴァルハラに接近する者がいた。果たして魔導騎兵であろうか。


「タカアキ様~、お客様ですよ~」

「ウルジェさん、お通ししてください」


 タカアキ同様に【残る者】の道を選んだウルジェが、準備を整え終えたタカアキに来訪者の訪れを伝える。彼は即断で、彼女に通すように伝えた。


 暫くすると、ウルジェはマジェクトと、憔悴しきったプリエナと彼女を支えるルバールシークレットサービスを連れてきた。


「おやおや、これは大所帯ですね、マジェクトさん」

「色々と事情があってな。この子は予定じゃなかったんだが……」

「そうですか。【残されてしまった】のですね」

「そんなところだ」


 タカアキは虚ろな表情のプリエナの肩を掴む。その温かな手にプリエナは正気を取り戻した。その大きな目には涙が浮かんでいる。


「タ、タカアキ様……私、とんでもない過ちをっ!」

「あなたは悪くありません、不幸が重なっただけなのです」

「で、でもっ! ルバールさんたちまで……!」

「プリエナ様」


 プリエナは、ルバールの凛とした声にハッとする。彼は首を振った。その後に見せる穏やかな笑顔はプリエナが堪えていた涙を決壊させるには十分過ぎた。


「我々はあなた様のために。あなたがいてくれたからこそ、我々はあるのです」


 これを忠義と言わずしてなんというか。彼らは愛を超える絆を、主と仰ぐプリエナとの間に築き上げていた。それこそが、プリエナを女神にまで押し上げたのだ。


「これが運命だというのなら、我らは、あなた様にとことん付き合いましょう」


 ルバールシークレットサービスの一人が胸に手を当てて前へと出る。


「誰からも疎まれ、見向きもされなかった我らが、誇りを持って行動できるようになったのは、紛れもなくプリエナ様のお陰です」

「どうか、その誇りを今後も持たせてはくれませんか?」

「我らは、プリエナ様の、プリエナ様による組織です」


「「「我らは、ルバールシークレットサービス! あなたの銃であり、盾なのです!」」」


 一点の曇りもない彼らの宣誓に、プリエナは落雷で身体を貫かれたかのような感覚に陥った。ここまで、自分を信頼してくれている、そのことにようやく気が付いたのだ。

 ならば、自分は彼らに何をしてあげれるだろうか、自問自答、答えなど既に出ている。


 プリエナは自分の力で立ち上がった。タカアキとマジェクト、ウルジェはそんな彼女の姿を見守る。


「ありがとう、あなたたちが私を護ってくれるように、私もあなたたちを護ります」


 それは永遠の誓いとなった。


 もう、残された者は存在しない。プリエナもまた、【残る者】としての運命を受け入れ、最後の戦いを見届ける事になる。


 次元戦艦ヴァルハラは静かにその時を待つ。

 残る者が見届けるべき、真なる約束の日は、もう間もなくであった。

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