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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
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767食目 一閃

 勇魂の騎士ソウルレイトスが大型ブースターを始動、異形の巨人ヘカトンケイルへと突撃を開始する。これを、ヘカトンケイルは魔導ライフルで迎撃。おびただしい閃光がソウルレイトスへと集中した。


「『この程度っ!』」


 しかし、ソウルレイトスに着弾した光線は薄緑色の膜によって弾かれ霧散する。ソウルレイトスの【アンチ・マジックコート】が発動しているためだ。


 魔導ライフルも元を質せば攻撃魔法である。したがって、魔法障壁などでも防御は可能だ。しかし、これを防ぐとなると通常の魔力量では不可能となる。実質的に当たると終了、という理由はここにあった。

 だが、ソウルレイトスは十体ものゴーレムの集合体だ。そのゴーレムコアの連動による魔力増幅は魔導ライフルを無効化させるほどの魔法障壁を展開させることを容易にする。


 問題となるのは、その消費エネルギー量。活動限界時間はもって三分。


「(決める……この三分で! 託されたこの力で、皆を護るんだ!)」


 クラークのツインカメラアイが輝きを放つ。それに呼応し、真紅の身体から淡い緑色の輝きが溢れ出してきた。彼らのゴーレムコアが勇気の力によって、限界以上の力を発揮し始めたのだ。


「『おぉぉぉぉぉぉぉ!【ソウルナックル・クラッシャー】!』」


 天に掲げたソウルレイトスの右腕が激しく回転し出した。それをヘカトンケイルに向けて放つ。暴風を纏った破壊の鉄拳が異形の巨人へと迫る。ヘカトンケイルはそれを無数の手で防がんとするも、あまりの威力に腕を粉々にされ、無数にある頭を複数個粉砕されてしまった。


 続けて胸部のエムブレムから熱光線を放ち異形の巨人を焼き始める。この怒涛の攻撃に、流石のヘカトンケイルも怯んでしまった。


「しめた! 今の内に突破を!」

「突っ込め、フォク! 俺が盾になってやらぁ!」


 フォクベルトはガンズロックを盾にし、咲爛を抱えて突撃を敢行。迫る破壊の光線はガンズロックが個人スキル【鉄壁】で防ぎきる。

 彼の自殺行為に等しい突撃はムセル、マフティ、ゴードンの決死の護衛によって成り立っていた。

 しかし、あまりにも攻撃が激し過ぎる。一度、リズムを崩せば瞬く間に破壊の閃光の餌食となった。


「あうっ!?」

「アマンダっ!」


 アマンダが被弾、次々に破壊光線が彼女に降り注ぐ、そして爆発。その光景にフォクベルトは絶句した。


「小僧! 何をしておるか!?」


 しかし、その絶望の閃光からアマンダを護る者がいた。宇宙を駆ける雲に乗る巨大な猿だ。


「待たせたな、小童ども!」


「あ、あなたは……!」

「征けい! おのれの成すべきことを、成して来い!」

「は、はい!」


 フォクベルトは彼の声で、彼が何者であるかを理解した。アマンダを抱えた大猿は巨大な棒でもって迫る破壊光線を弾き飛ばす。


「孫悟空、ここに見参! わしも一つ、暴れさせてもらおうか!」

「『桃大佐!』」

「クラーク! 左半分は任せよ!」

「『はい!』」


 そう言うと桃大佐はソウルレイトスと同程度まで巨大化。気を失ったアマンダを自分の頭の黄金の輪へと押し込む。すると、彼女はするりと輪の中に入ってしまったではないか。


「ふふん、アクセサリーとして付けていたが、意外なところで役に立ったわい」


 そして、彼は如意棒を構え不敵な笑みを見せた。ヘカトンケイルは、それが気に食わない。

 ソウルレイトスに吹き飛ばされた頭と腕を瞬時に再生させて、一転攻勢に打って出たのである。


「よいか! あくまで決戦兵器ジャッジメントの発射阻止が最優先じゃ! 決して止るではないぞ!」


 桃大佐こと孫悟空が動いた。同時にソウルレイトスも突撃を開始する。ヘカトンケイルは無数にある顔でそれを捉え、瞬時に判断を下した。

 それは、ジャッジメントのコアに接近するフォクベルトにも同様であり、排除するために無数の腕を伸ばす。


「こなくそ!」


 だが。ここでマフティが被弾した。彼女のカバーに、傍にいたゴードンが入る。


「よせ、ゴードン! 巻き添えを食うぞ!」

「けっ、んなこたぁ分かってるよ」


 ゴードンの左腕が吹き飛んだ。悲鳴を上げるのは彼ではなくマフティだ。ゴードンの手は細工界の至宝と呼ばれるほどにまで成長していた。それが失われたのだ。


「ゴードン! 腕が、腕がっ!」

「落ち着け! エルティナなら治せるだろうが!」

「で、でも……んっく!?」


 ゴードンは大胆にも、マフティにショック療法を敢行。まさかの接吻である。


「ゴ、ゴゴゴゴゴゴ、ゴードン!?」

「目が覚めたか? なら、さっさと止血してくれ!」

「お、おう」


 マフティは顔を真っ赤にさせながら〈ヒール〉を発動。エルティナのように腕を再生させることは叶わないものの、見事に傷口を塞ぐことに成功した。


「出血は少ない、まだいける。援護してくれ、マフティ!」

「あぁ、分かった! こんなところで、死ねねぇしな……ふひっ」


 妙な状態になったマフティに少し心配になるゴードンであったが、気を取り直してフォクベルトの援護を継続する。

 桃大佐が来たとはいえ、状況は相変わらずよろしくない。これを打開するにはもうひと押しが必要であった。


『(どうする? 力を解き放つ? でも、それじゃあ、支配権を奪い返されかねない)』


 ライオットは葛藤した。戦いに参加できない憤りに身を焦がす。だが、その時のことだ。


「にゃ~ん!」

『シシオウ!?』


 咲爛のGDトモエから、ホビーゴーレム・ツツオウが飛び出してきたではないか。ライオットが魔導騎兵にめった刺しにされた際、彼はふっ飛ばされてGDトモエに挟まってしまったのである。

 だが、激しい動きによってようやく脱出に成功、主の下へと帰ってこれたのだ。


『いいぞ、これなら……! シシオウ、攻撃だ!』

「にゃ~ん!」


 シシオウの頭部の桃色のタンポポが桃力の輝きを放ち始めた。すると、開け放たれていた機械の壁から、無数の独立砲台がスラスターを吹かして飛んできたではないか。


 これは元々ヘカトンケイル用に開発された無人機動砲台【インフィニットバスター】である。それをツツオウはジャックし自分用へとプログラムを書き換えたのだ。

 当然ながら、それを可能としたのは彼の頭部に咲く、桃色のタンポポの力である、


「にゃお~ん!」


 膨大な数のインフィニットバスターが火を噴いた。虹色に輝く光線が異形の巨人を貫く光景にライオットは拳を握り手応えを感じ取った。


 堪らず悲鳴を上げる、ヘカトンケイル。まさか、自分用に開発された物を奪われてしまう、とは想像だにもしていなかった。その誤算が彼の制御装置を誤作動へと導く。


「モンダイハッセイ、モンダイハッセイ、モンダイハッセイ」


 無機質な声で同じ言葉を繰り返すヘカトンケイルは、やがて身体を震わせ、いたる箇所から煙を吐きだし始めた。そして、赤く染まり始める身体に桃大佐は危機感を覚える。


「気を付けい! あやつ、暴走しておるぞ!」

「『被害が皆に行く前に……倒す!』」


 ソウルレイトスは必殺の剣【ソウルカリバー】を形成し構えた。桃大佐も如意棒を構える。


 その時のことだ、桃大佐はほんの僅かな殺気を背後に覚え身をよじらせた。その勘は正しく、巨大な何かが彼を掠るように通り過ぎる。


「なんとぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

「『空間が湾曲!? ヤツは空間制御もできるのか!』」


 桃大佐を襲ったのは、歪んだ空間から伸びるヘカトンケイルの腕であった。その脅威性は計り知れない。そして、その脅威がフォクベルトたちに迫っているという事実。


 ここで彼らがやられてしまえば、ジャッジメント内に居る彼らは、死の閃光を浴びて全滅してしまうのだ。


「ぬかったわ! 小童!」


 桃大佐がフォクベルトに注意を促そうとするも遅かった。突如として空間が歪み、出現する巨大な手。それはフォクベルトを握り潰してしまう。


「フォクぅ! ちくしょう!」


 難を免れたガンズロックは、フォクベルトの呆気ない最期に憤り叫ぶも、彼はもう帰ってこない。

 だが、ヘカトンケイルがその手を開くと、フォクベルトが潰れた痕跡は残っていなかった。


 それは何故か。答えは簡単だ。


「間一髪だね」

「ま、間に合ってよかったぁ」


 フォルテとメルシェのGD・エクスカリバーが、寸でのところでフォクベルトと咲爛を回収し、彼らは難を逃れたのである。


「おらっ! ついでに、こいつもくれてやらぁ!」

「アカネ……俺は……生きる!」


 GD・エクスカリバーに牽引してもらっていたスラックとロフトもGD・フルアーマーラングスで参戦。ヘカトンケイルの無数にある腕を迎撃する。


 ロフトの右頬は赤く腫れあがっていた。スラックに思いっきり殴られたのである。親友からの遠慮のない一撃は、拭抜けていた彼を目覚めさせるには十分過ぎた。


「生きて、生き抜いて、おまえに沢山の土産話を持て行ってやる!」

「はは、そりゃあ、ナイスアイディアだ!」


 ロフトとスラックは長年培ってきた阿吽の呼吸でヘカトンケイルを翻弄した。フルアーマー装備となって火力と機動力を増した新たなるGDラングスで異形の巨人を攪乱し始めたのである。


「すげぇ、あいつら、あんなに戦えたのか」

「けっ、やっと本気になりやがったか……おせぇんだよ」


 マフティとゴードンはロフトとスラックの動きに驚嘆することになる。その動きは最早、常人のそれではないからだ。

 まるで相手の動きが分かるかのように回避し、相手の行動を見据えた着弾地点に弾丸を叩き込むという離れ業まで見せていた。


「フォクベルトさん、大丈夫ですか?」

「すまない、メルシェ。僕はGDのスラスターをやられて足手まといだ。咲爛をお願いするよ」

「任せてください」

「咲爛、大仕事だ。いけるかい?」

「ふふん、誰に言うておる、フォルテ。この織田咲爛に任せておけい」


 フォクベルトはGD・エクスカリバーに後を頼むと一人離脱。光の剣を抜き放ち、ガンズロックと共にヘカトンケイルに攻撃を加え始めた。


「いくよ、フォルテ!」

「あぁ、行こう、メルシェ!」


 後を託されたランゲージ夫婦は決戦兵器ジャッジメントのコアへと突進する。GD・エクスカリバーの上に立つ咲爛は、血に塗れた妖刀を構えた。


「景虎……わらわに力を貸してくれ」


 深呼吸し、瞼を閉じる。再び瞼を開いた時、彼女の世界は赤く染まっていた。彼女は確信する。それが、自分が目にする最後の光景であると。


「感謝っ! いぇあっ!」


 咲爛が斬りつけた先は、なんの変哲の無い機械の壁。そこが、ゆっくりと斜めにずれてゆく。果たして、咲爛は乱心したのであろうか。


「さ、咲爛さん!?」

「メルシェ、もうちと、ゆっくり飛んではくれまいか?」

「……え?」

「メルシェ……」


 フォルテに諭され、メルシェはゆっくりと速度を落とす。咲爛は静かにゆっくりと腰を下ろした。閉じられた瞼からは、とめどもなく涙がこぼれ落ちる。否、それは涙であって涙ではなかった。


「さて、光は失われたが、わらわはまだ剣を振るえる。目標を告げよ」

「そ、そんなっ!?」


 咲爛のあっけらかんとした告白にメルシェは衝撃を受けた。それと同時に目に映っていたジャッジメントのコアが霧散する。

 そこにあったのは、ただの機械の壁。そして、斜めにずれゆく壁はジャッジメントのコアに変化した。


 そう、視界に映っていたジャッジメントのコアは映像によるダミーであり、本物は巧妙に隠されていたのだ。

 しかし、咲爛はこれに違和感を感じ極限まで精神を集中。景虎の個人スキル同様の効果を獲得するに至った。そして、幻惑に惑わされることなく一閃を加えたのである。


 その代償は視覚。極限にまで高められた力に彼女の眼球は耐えることができず、毛細血管が破裂。血の涙を流し、彼女は光を失う形となる。


「やれやれ、景虎には頭が上がらぬ。死して尚、わらわにお節介を焼く……か」


 だが、咲爛には見えていた、隣に寄り添う彼女の従者の姿を。光を失ったがゆえに彼女を見ることが、感じる事ができるようになっていたのだ。


「メーデー、メーデー、メーデー、メーデー、メーデー、メーデー、メーデー」


 ヘカトンケイルは本格的に暴走を開始、桃大佐とソウルレイトスとで押さえ込もうとするも、あまりの力にそれは有効的とはいえなかった。


「ええい、ここは、わしが押さえる! 小童どもは、さっさと行けい!」

「『ダメです! 異様な熱を感知しています! こいつは自爆するつもりだ!』」


 クラークの言うとおり、ヘカトンケイルは使命を果たせなかったので自爆プログラムを発動したのだ。仮にヘカトンケイルが自爆した場合、宇宙要塞ASUKAの半分がチリに還る。

 桃大佐は身体を張って爆発の規模を押さえようというのだ。しかし、それはあまりにも無謀な行動であった。


「『二人なら、生き残れる可能性も……!』」

「たわけ、おまえのエネルギーがもうない事は知っておる! 早う脱出して戦艦吉備津で補給して来い! 戦いはまだ続くのだぞ!」


 ソウルレイトスを引っぺがしたところで、彼のエネルギーは底を尽き分離し始めた。


「桃大佐っ!」

「メルシェや、そこの連中も連れて行ってくれんか? 鬱陶しくて敵わん。あと、この娘もな」


 桃大佐は黄金の輪の中に収納していたアマンダを、メルシェたちに託す。


「桃大佐……」

「たまには、わしにも良いところを見させてはくれんか?」


 メルシェは涙を堪えてクラークたちをロープで牽引、アマンダは咲爛が抱える。そして、戦艦吉備津へと向かって飛び立った。その後にマフティたちが続く。


「爺さんっ!」


 マフティの悲痛な声に桃大佐は親指を立てて応えた。遠ざかる桃大佐の大きな脊中に彼女は悲しみの咆哮を上げる。


「ちくしょうっ、ちくしょうっ!」


 そして、振動、爆発が発生した。爆炎がマフティたちに迫る。いまだ出口は遠い。


「間に合わない!? 桃大佐が体張ってくれたんだぞ!」

「マフティ、出口だ! 諦めるな!」


 だが、マフティたちは後一歩のところで死を運ぶ爆炎に飲み込まれ、その姿を炎の中へと消し去った。

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