759食目 最終兵器ジャッジメント突入
最終兵器ジャッジメントの発射口に突入したライオット、フォクベルト、ガンズロック、咲爛は、援軍を待つことなく進撃、立ち塞がる魔導騎兵たちを各個撃破しながら最奥を目指す。
収束されゆく純粋なる死は、生ある者に影響を及ぼさないはずもなく、フォクベルトとガンズロックの精神を蝕んだ。
また、幼い頃から戦場に立って死への抵抗を持つ咲爛ですら、この純粋な死に表情を曇らせる。
「嫌な力だ、吐き気がする」
「陰の力よりも悪質だぜぇ、あっちはまだ共感できる部分があるからよぉ!」
「やりにくいのぅ、戦場の殺気の方がまだマシじゃ」
それは純粋過ぎた。ただ一点、【死】ということのみに特化されたエネルギー。そこに意志など存在しない。
万物に死を与えるだけの存在が収束されている事実に、生物が畏怖しないわけがないのだ。
しかし、死によって肉体から解き放たれたライオットには効果を及ぼさない。
そして、奇妙な事に、彼は死によって新たなる場へと立っていた。それは、進化だ。
肉体を越え、命を越え、この世に具現化した魂の存在は、純粋なる【死】に対抗しうる唯一無二の存在。
『あれが撃たれたら拙い! 急いで、ぶっ壊さなきゃ……!』
輝ける獅子は魂の力を解き放つ、輝ける雷撃はまるで天空神の雷霆。それは機械の壁を蹂躙しつつ魔導騎兵に伝わり、動力を喰らい尽し、遂には爆散せしめる。
だが、魔導騎兵は無限に湧き出てくるかのようにライオットたちを妨害した。ここが正念場という事を理解しているフォクベルトとガンズロックは強行突破を試みる。
「ガンズロック、行きますよっ!」
「おう! いってくれやぁ!」
「まてまて! わらわが追いつけぬ!」
フォクベルトのGDフライヤーが唸りを上げて魔導騎兵の壁に突撃する。それに咲爛はしがみ付く。ガンズロックは、魔導騎兵が形成する壁にバズーカ砲の砲弾を叩き込んだ。
ライオットはフォクベルトの意図に呼応、その身を獣の姿に変えGDフライヤーに追従する。
強引な行為はさもすれば自殺行為に等しい。魔導騎兵が作り出す壁を突破したものの、すぐさま新しい壁が形成され、一斉射撃を被る。
「かわしきれないっ!」
「いたた……わらわを盾にするとは何事じゃっ!」
「泣き言は聞きたかねぇよぉ!」
魔導騎兵の射撃を回避しきれない、と判断したガンズロックが両手斧を手にGDフライヤーから飛び出し、迫り来る破壊光線を薙ぎ払う。
「ガンズロック!」
『無茶だ!』
「いけぇ! ここはぁ、俺が、なんとかしてやらぁな!」
一瞬の躊躇、だが、フォクベルトはGDフライヤーのアクセルペダルを踏み込み、魔導騎兵の壁の僅かな隙間を突いた。
ライオットも戸惑いの表情を見せたが、意を決してフォクベルトの後を追う。
「へっへっへ……美味しい見せ場じゃねぇか。漢、ガンズロックの大立ち回りを見晒しやがれぇ!」
フォクベルトたちを先へと進ませたガンズロックは、魔導騎兵の集中砲火を浴びる。身に付ける物はGDではなく普通の鎧。耐えれるはずもない。
「そんなもんかよぉ! 個人スキル【鉄壁】! 誰も俺を砕けやしねぇ!」
ガンズロックの個人スキルは、ありとあらゆる攻撃に耐える頑強さを獲得するものであった。一見、強力なこのスキル、弱点が無いわけではない。現に、彼はダメージを負っている。
鉄壁の個人スキルの弱点は発動時間の短さにある。その効果時間は僅か三秒。一対一の戦いにおいて、三秒もの無敵時間は大きなアドバンテージだ。
しかし、集団戦においては、そのアドバンテージが希薄になってしまう。絶えず攻撃をされてしまえば効果時間終了時に攻撃に晒されて大ダメージを被る事になるのだから。
そして、次に発動できるまでの冷却時間もある。三秒の効果に対して、十秒もの間が必要になるのだ。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!」
だからこそ、ガンズロックは魔導騎兵の集団に接近戦を仕掛ける。彼らの射撃を封じるためだ。コンピューター制御の魔導騎兵は、同士討ちを避けるために魔導光剣の刀身を発生させる。
ガンズロックがそこまで計算して行動に移ったかは不明だ。しかし、彼の戦士としての経験が、直感が、接近戦を選択させた。
そして、それは正しい。戦いは大混戦と化し、ガンズロックは十分過ぎるほどの囮と化す。
「おぉぉぉぉぉぉぉりゃぁ!」
魔導騎兵に体当りをかまし、その魔導騎兵を盾に別の魔導騎兵を両断。千切っては投げ、千切っては投げを、幾度となく繰り返す。
傷付きゆく肉体を無視して暴れまくる彼は、狂戦士と化し、一秒でも長く戦場に留まる事を目指した。
しかし、いくら彼とて無尽蔵に体力があるわけではない。徐々に直撃を受けるようになってきた。鉄壁の個人スキルでなんとか防いでいるが、致命傷を負うのは時間の問題だ。
「はぁ、はぁ……へっへっへ……十分、時間は稼げたかぁ?」
破壊光線の一撃が彼の兜に直撃、頑強なアダマンタイト鉱石製の兜が一撃で吹き飛んだ。
スナイパーライフルを装備した魔導騎兵の狙撃である。爆発により頭部を負傷したガンズロックの目に自らの血が流れ込み視界を損なう。
そんな彼を認めた魔導騎兵たちは、ガンズロックに止めを刺すべく殺到した。
「ここまでかぁ……止まるんじゃねぇぞ、フォク、ライよぉ……ついでに咲爛」
魔導騎兵の魔導光剣の刃が彼に迫った。そして、貫かれる。その胸に生えるは鋼鉄の腕。
「格好良いセリフを決めてるようだけど……お節介だったかな?」
「へっ、言ってろよぉ。随分と遅かったじゃねぇか」
「あぁ、ちょっと寄る所があったんでね」
魔導騎兵の胸を貫く赤い腕。それはゴーレノイド・クラークの鋼鉄の腕だ。赤い腕を引き抜き、そのまま魔導騎兵を掴み魔導騎兵の一団に投げ付ける。
胸を貫かれた魔導騎兵の爆発に巻き込まれ、多数の魔導騎兵が爆散した。そんなクラークの脇を通り過ぎる青い影。
『レディ』
「やっちゃえ~」
GT・MTがヘビィマシンガンを放ちながら魔導騎兵たちを蹂躙する。それを援護するかのようにシングルナンバーズが魔導騎兵たちに殺到した。
大火力による制圧に、魔導騎兵たちも一時撤退せざるを得ない状況に持ち込まれる。
それはガンズロックに対する援軍だった。この土壇場で彼は命を拾ったのだ。なんという剛運であろうか。
「ガンズロック君! フォクベルト君はっ!?」
「アマンダっ!? どうやって、ここに? おめぇさん、月へ向かったんじゃあ……」
「月にはもう行ったわよ。そこから、また来たの!」
「また来た、だぁ!? どういうこったぁ?」
「こういうことさ」
灰色のゴテゴテとした威容を誇るGDラングスが、ガンズロックを魔導騎兵から護るかのように立ちはだかる。
「クウヤっ!? おめぇさん、どうして、ここに!」
「GD・フルアーマー・ラングス! フルバースト!」
両肩二門の魔導キャノン、両椀の二連装魔導カノン、両足の四連装ミニミサイル、バックパックの誘導式光学レーザーが一斉に発射され、魔導騎兵たちによる壁に大穴を生じさせる。
「戦っているのは俺たちだけじゃない、後詰が来てくれたんです」
「後詰だぁ? んなこたぁ、聞かされてねぇぞ!」
「エルティナ様も要請するつもりは無かったんでしょう。つまり、無断出撃です」
「あっはっは! 後で絶対に怒られるぞ、あいつら。あんな物まで持ち出しやがって」
「けけけ、まぁ、最終決戦で出番なしの方が情けねぇもんなぁ」
マフティとゴードンも救援に駆け付けた。そして、彼らの視線は魔導騎兵の更に向こうにある。
「それに……ブルトンのヤツを迎えに行ってやらにゃあならねぇ」
「けけけ、世話の焼けるヤツだぜ」
マフティのGD・ネオ・ラヴィの二丁魔導ガンが火を噴く。ゴードンのGD・ネオ・ワララの電磁鞭が無数に魔導騎兵を絡め取り電撃を喰らわす。たちまちの内に複数の魔導騎兵はただの鉄の塊へと帰した。
「まったくじゃて。折角、駆け付けたのに、またお守りの方とは」
巨大な棒が魔導騎兵を薙ぎ払う。宇宙に在って雲に乗る巨猿の姿に、流石の彼らも驚愕せざるを得ない。
「誰っ!?」
「ふむ、そう言えば姿を見せるのは初めてだったか? 狼娘よ」
「あっ……その声って?」
「うむ、私が桃大佐だ」
まさかの桃大佐の救援に、モモガーディアンズたちは益々勢い付いた。その場に留まる魔導騎兵は、瞬く間にガラクタと化し宙を漂う事になる。
「へっへっへ……こりゃあ、おちおち休んでもいられねぇ!」
「んじゃ、ちゃちゃっと治療するからジッとしてな」
「あぁ、頼まぁな、マフティよぉ」
マフティの手早い対応によって治療を受けたガンズロックは、相棒である両手斧を肩に掲げ気力を漲らせる。
鎧は既に役目を果たさなくなっているが、脱ぎ捨てる時間も惜しいガンズロックは、そのままで戦闘を続行する様子を見せた。
「これで負けたら、大恥だぜぇ!」
「負けるかよ。やられた連中の分も利子を付けて連中に返してやる!」
彼らは行く、決戦兵器ジャッジメントの暴挙を止めるために。
ジャッジメント発射まで、あと三十分。その時間は果たして長いのか短いのか。
確実に迫るタイムリミットに焦りを感じ、駆け付けた戦士たちは先を急ぐ。




