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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
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756食目 希望の芽 ~男たちの意地~

 負傷者を乗せ月を目指すGD・G・ラック。攻撃方法はゲルロイドの攻撃魔法のみ、という中、魔導騎兵を退けながら突き進む。

 しかし、いくら魔力が豊富なゲルロイドとて、休憩無しに魔法を酷使すれば魔力枯渇現象に陥る。今がまさにそうだ。


「こいつは、拙いんじゃないのかっ!?」

「ぷるぷる……申し訳ない」

「ゲルっちが悪いわけじゃねぇよっ! 後は俺の腕の見せ所ってだけだっ!」


 無茶苦茶な軌道を描き、宇宙を爆走するトラック。当然、中に乗せられている者は堪ったものではない。その殆どがゲロリアンと化していた。汚い。


『ケイオック、俺を出撃せ』

「レイヴィ先輩を? 無茶だろ! GD・ノインは、損傷率八十パーセントを越えてるんだぞ!」

『このままでは、捕まる』

「俺を信じろっ!」


 GD・G・ラックが激しく揺れる。敵魔導騎兵の破壊光線に接触しつつ強引に突破しているためだ。それでも、宇宙のトラックが立ち止まることは一度もない。


「壁が厚いっ!」

「なんで、こんなに魔導騎兵が固まってんだよ!?」

「ぷるぷる。魔法が使えれば……もどかしいです」


 GD・G・ラックの前方には、おびただしい数の魔導騎兵が分厚い壁を成していた。ここを突破することはケイオックであっても容易ではない。ここに至り、レイヴィは出撃を決意する。


「ノイン、ここが俺たちの死に場所だ」


 GD・ノインのカメラアイが鈍く輝く。後方ハッチを開き、彼らは宇宙へと飛び出た。


『レイヴィ先輩!』

「ケイオック、道を作ってやる。隙ができたら突っ込め」

『無茶だ! そんな機体で何ができるんだ!』

「何ができるかではない、成すべきことを成す、それだけだ」


 そう言い残しレイヴィはGD・ノインを魔導騎兵の群れへと突っ込ませた。おおよそ武器となり得る物はない。主力武装であるカナザワは既に大破、コンテナ内に残っていた一般的な性能の魔導ライフルを二丁持っての出撃であった。


「見せてやる、数多の戦場を駆け抜けてきた俺たちの最後の戦いを」


 普段は無表情の男に剥き出しの感情が浮き出る。それは、怒りでも悲しみでもない。確固たる意地のようなものだ。

 たった一機の満身創痍のGDと、圧倒的な数の魔導騎兵との戦いが始まった。


 いかにレイヴィとGD・ノインが強くとも多勢に無勢、分厚い弾幕にGD・ノインは被弾を繰り返す。装甲がひしゃげ、融解し、爆散してゆく。


「レイヴィ先輩っ! ちくしょう、なんとかならねぇのか!」


 ケイオックは叫んだ、無力な自分に苛立ちを覚えコンソールを叩く。その慟哭に戦士たちが呼応する。


「ぷるぷる、何をしようというのですかっ!?」

『仲間を見捨てて、生きながらえようとは思わんよ』


 名も無き戦士たちはレイヴィを救わん、と傷付いた身体を忍てGD・G・ラックを飛び出してゆく。その光景を見詰めることしかできない妖精の少女は、歪む視線の先に命が散る閃光を見た。


「結局……俺たちは、なんにもできないのかよ」

「ぷるぷる……無力とは辛いものです」


「諦めんなよ、諦めんなよっ!」


 これにオフォールが噛み付いた。彼は挫けかけたケイオックとゲルロイドに説く。このGD・G・ラックの使命を。このトラックにはまだ重傷の戦士たちが残っているのだと。


「送り届けるんだ、それが、俺たちの役目だろ」

「でも……俺たちのために死んでゆく者がいたら、意味がないだろ!」

「それでもだっ!」


 オフォールは激しさを増す戦場をガラス越しに眺める。そして、ある事に気が付いた。


「ケイオック、チャンスが起きたら、構わず発進しろ」

「な、なんだっていうんだよ……どこへ行こうってんだよ、オフォール!」

「ちょっと、野暮用だよ」


 そう言い残し、オフォールはトラックを飛び出していった。宇宙を駆ける彼の視線の先には放棄された宇宙戦艦つくしの残骸があった。後方スラスターが全壊しているが、前方部分はまだまだ原形を留めている。


「よし、いいぞ……」


 内部に侵入したオフォールは艦橋へと向かう。そこには多数の戦死者の遺体が漂っていた。その中に知る顔をみる。


「……これは、エルティナには見せられねぇな」


 そこには、物言わなくなったエルティナの養父ヤッシュ・ランフォーリ・エティルの姿。彼は最後まで戦い抜いたのか、無数の弾痕の跡があった。


「システムはまだ生きてるな。自爆装置も……おっと、自爆しようとしてたのか。これは手間が省けるぜ」


 オフォールは宇宙戦艦つくしのサイドスラスターが生きていることを確認し、方向転換させた。彼はこの船を魔導騎兵に向かわせ、自爆に巻き込もうというのだ。


「ヤッシュさん、あんたのやろうとしたこと……引き継がせてもらうぜ」


 オフォールは、ヤッシュの開いたままのまぶたを下ろしてやると暫しの祈りを捧げた。

 ゆっくりと接近する宇宙戦艦つくしの異常な熱を感知した魔導騎兵は目標を変更、迫りつつある宇宙戦艦つくしへと銃撃を開始した。


「気付いたか、好都合だ。おっと、進路がずれてるな。こりゃ、ここから離れられねぇぞ」


 つくしが被弾する振動を感じながら、オフォールは進路を修正する。徐々に原形を失ってゆく希望の芽は、それでも魔導騎兵たちへと向かい続けた。


「まさか……あれをオフォールが!?」

「ぷるぷる、今の内に、レイヴィ先輩たちを回収しましょう!」

「今の内って! オフォールはどうするんだ!」

「……」


 ゲルロイドの言葉は続くことはなかった。それ以上の言葉を用意していなかったこともある。しかし、この後の言葉を誰が用意できようか。


「ちくしょう! ちくしょう!」


 それでも、ケイオックはGD・G・ラックを走らせ、戦士たちを回収してゆく。そして、最後にGD・ノインを回収。辛くもレイヴィは生き残る事に成功した。


「……また、死にそびれたか。ノイン、俺は死神に嫌われているらしい」


 GD・ノインは彼の言葉を聞き届け、静かに機能を停止した。限界を越えても主に応え、彼を生かした従者の最期である。


「すまん、無茶をさせたな」


 レイヴィは長らく共に戦場を駆け抜けたGD・ノインを放棄する。収容スペースを空けるためだ。

 GD・ノインのサブコクピットから、ホビーゴーレム・ノインを回収し、GD・ノインをそっと宇宙に流す。

 流れゆく赤い機体に、レイヴィとホビーゴーレム・ノインは敬礼でもって見送った。






 魔導騎兵の群れに迫る宇宙戦艦つくし、その原型はいよいよ失いつつある。艦のあちら、こちらから爆発が起こり、制御が困難になり始めた。


「うっひょ~、おっかねぇ! マジでチビりそうだ」


 オフォールはそれでも、つくしを制御し続けた。間近に迫った魔導騎兵を半分見れなくなったモニターで確認する。いよいよか、と彼は自爆スイッチに手を掛けた。


「長いようで、短かったなぁ。色々と濃かったけどよ」


 爆発音が起る艦橋にあって、妙に静かだ、とオフォールは感じた。そして奇妙な事に、彼はこの期に及んで、生き延びる、と強く想った。

 宇宙戦艦つくしの自爆に巻き込まれれば、ひとたまりもないだろう。自分は恐怖から、遂に狂ったのではないのか、と自嘲する。


「ま、いっか。考えても無駄無駄、俺には突っ走ることしかできねぇ」


 そして、彼はあっさりと自爆スイッチを押した。瞬間、世界が真っ白に染まる。


「父ちゃん、母ちゃん……俺は、しっかりやれたか?」


 星に残してきた両親に彼は問う。返事を聞くことも無く、彼は宇宙戦艦つくしと共に閃光の中へと消えた。

 宇宙戦艦つくしの爆発に巻き込まれる魔導騎兵たち、戦力の大半を失った彼らは混乱をきたした。その隙を見てゲルロイドはケイオックを促す。


「ぷるぷる! ケイオックさん! 今です!」

「オフォールは……オフォールはどうすんだよっ!」

「いいから行きなさいっ! 行くのですっ!」


 今まで見たことのないゲルロイドの形相に、ケイオックは己の愚かさを知る。辛いのは自分だけではないのだ。

 歪む視界の中、ケイオックはGD・G・ラックを走らせる。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 ケイオックは叫ぶ。それは慟哭であった。残された自分を憎む咆哮でもあった。

 前方には月が見え始めている、魔導騎兵の追手は今のところない。ここに、彼らは遂に危険宙域を脱出することに成功したのだ。


 掛け替えのない友の犠牲によって。

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