741食目 ASUKA防衛ライン攻防戦
「おまえたち、生きているか!?」
「はい、なんとか!」
つくし二番艦艦長フウタは艦が持たないと判断し、早い段階でクルーを全員脱出させていた。お陰で、大多数のクルーは無事に脱出を果たしている。
「しかし……こうもあっさりと沈められてしまうとはな」
現在のフウタはクルーを率いて魔導騎兵と交戦中だ。器用にGDを操り魔導ライフルで敵魔導騎兵を撃墜する姿は、つい最近までGDを身に着けていなかった者の動きとは思えない。
「クウヤ!」
「父上!」
同じくGDを身に纏い、愚直な戦い方をしているのはフウタの息子、クウヤである。所々GDが損傷していることから、どうやら父親の反則レベルの素質は受け継ぐことはできなかったようだ。
「おまえは、エルティナ王妃の下へ! モモガーディアンズ本隊と合流し彼女を護れ!」
「しかし、それでは父上が……!」
「命令だ! 行け!」
「ぐっ……了解であります!」
クウヤは悔しさを堪え、父の命に従い後方へと下がった。
「艦長、不器用すぎますよ」
「副長、俺は最善だと思ったことをしたまでだ。それに、船を失った俺は、もう艦長じゃない。ただの戦士さ」
「はは、では、私もただの戦士ですな。では、暴れるとしましょう」
「あぁ、行こうか!」
フウタは一人の戦士として、仲間たちと暗い宇宙を共に行く。チート転生だ、と浮かれていたのは、いつの頃か。この世界にチート転生など通用しない。
「(そうだ、大切なのは魂のありよう。俺は、俺の望むままに生きるべきだった)」
彼は今度こそ、己の望むままに剣を振るった。その姿、鬼神のごとし。
「俺の後ろには……守るべき者たちがいるんだ! そこをどけぇぇぇぇぇっ!」
フウタの長年の相棒、光輪丸は彼の闘気を糧に雄々しく光り輝いた。
「エル、僕は出ちゃいけないのかい?」
『エドは第三陣だるるぉ? もうちょっと待ってくれ』
「なるべく早くね」
『ふきゅん、配慮するんだぜ』
エドワードは、いまだ出撃が叶わない事に焦りを感じていた。そんな彼に声を掛けるのは、同じく第三陣のガイリンクードだ。
「落ち着け王、焦っても結果は良くならねぇよ」
「分かってはいるんだけど」
「冷静になれ。戦場じゃあ、熱になったヤツから終っちまうんだ」
ガイリンクードは努めて冷静だった。冷静に見えた。しかし、実際のところ、一番熱くなっているのは彼本人だ。
「(糞野郎共、分かっているんだろうな? 俺は人間をやめるぞ!)」
ガイリンクードの宣言に彼に宿る悪魔たちは歓喜の声を上げる。それは彼女たちが待ちに待った瞬間であったからだ。
神によって貶められた彼女たちは、心からの解放を願っていた。そして、それを成し遂げる存在に遂に巡り会ったのだ。
今は、その時を待ち続ける。何千、何万、何億と待ち続けたのだ。数時間程度、どうという事はない。
『第二陣、準備いいか!?』
「はい、準備完了していますわ!」
先に出撃した第一陣が、魔導騎兵と交戦を開始した。彼らに抑えを任せて船は先へ先へと進む。そして、船を護るべく第二陣が発艦する。
「クリューテル・トロン・ババル! GD・ラングス・クリムゾン、いきますわ!」
クリューテルの真紅のGDがカタパルトから発射された。彼女のGD・ラングスは、装甲を紅に塗っただけで性能に差異は無い。
無重力空間に射出された彼女は戦場の光景に息を飲む。そこには生と死が混同した輝きがあったからだ。
「わたくしたちは……帰れるのかしら。エル様……!」
クリューテルは魔導ライフルを構え、魔導騎兵を狙い撃った。その閃光は彼女の強い意志そのもの。紅の銀女は宙を舞う。
「ルーフェイ・ロン、GD・ラングス・B、出る」
「ひほっ! ランフェイ・ロン、GD・ラングス・B、出るわよ」
双子のGDが発艦した。紺色で統一された接近用のGDラングスを身に纏う二人は、踊るかのように魔導騎兵に切り掛かる。
エネルギーの刃を形成する剣は、易々と魔導騎兵を両断せしめた。
「こんな大舞台に立てるとは……剣の修練を欠かさなかった甲斐があるというものだ」
「ひほほほほっ! 私は早くお姉さまとエッチがしたいですわ!」
「こんな時ぐらいは勘弁してくれ」
「の~ん! い・や・ですわ!」
平常運転の変態妹に少しばかり緊張を解きほぐされた姉は、その悔しさを魔導騎兵にぶつけた。魔導騎兵は、いい迷惑である。
『フォルテ! 分かってるんだろうな!?』
「分かってるさ、エルティナさん。俺はメルシェを護ってみせる」
『そうじゃねぇだるるぉ!』
「フォルテ・ランゲージ、GD・セイバー、行きます」
『あっ! くるるぁ! フォルテ!』
「エルティナさん、フォルテは私が」
『まったく……頼んだんだぜ、メルシェ』
「うん。メルシェ・ランゲージ、GD・スキャバード、いっきまぁす!」
灰色の夫婦GDが揃って発艦した。片方は全ての困難を切り裂く剣、片方はその剣が帰る場所だ。
「GD・スキャバード、変形シークエンス」
メルシェがそう宣言するとGD・スキャバードの背部巨大ユニットが変形し、まるで戦闘機のような形態へと変形した。
続いてフォルテのGD・セイバーも簡略的な変形をおこない、メルシェのGD・スキャバードの後方へドッキングを試みる。
「GD・セイバー、ドッキングシークエンス。接続完了。GD・エクスカリバー、発進」
GD・エクスカリバーの形態は、鞘に収まった宝剣のようであった。しかし、その実態は二機のGDが合体することによって大出力を獲得した高速戦闘機である。
「いくよ、メルシェ」
「うん、行こう、フォルテ!」
GD・エクスカリバーのブースターが火を噴いた。黒い空を魔法障壁を展開する宝剣が切り裂いてゆく。若き夫婦は試練を乗り越えんと手を取り合い、暗黒の宇宙にあるはずの希望を目指した。
「ほっほっほ、エドワード、お先に失礼するぞえ?」
「うん、気を付けて、咲爛」
続いて咲爛がカタパルトに乗り込む。その姿はGDというよりは十二単に近かった。
そんな彼女に影のように付き従う虎の獣人、景虎の姿。こちらのGDは、忍者の姿そのものだ。
「咲爛・織田、GD・トモエ、出陣じゃ!」
「景虎・風間、GD・ニンドウ、参る」
二機の和風GDが発艦した。戦場に集う色取り取りの華、彼女たちはその中でも異色であった。
「さぁさぁ、暴れようぞ。今宵は無礼講じゃて」
「何事にも限度がございます、姫様」
「何を申すか。最後の大戦、楽しまなくてなんとする」
「はぁ……致し方ございますまい。これに」
景虎が差し出した赤い刀を咲爛は手にした。久方ぶりの感触に気分が高揚する。
「うふふ、この高揚感、久方ぶりじゃの。鬱憤を晴らすとするかえ」
刀を引き抜くと、どろりとした赤い液体が零れ落ちる。まるで血のようだ。
「さぁ、踊れ、血桜! 今宵の宴は無礼講ぞ!」
そのひと振りが全てを切り裂いた。第六天魔王は最後の戦に心を躍らす。彼女の従者は、ため息を吐きながらも彼女の尻拭いに奮闘した。
「エルティナ! 我らも出るぞ!」
『ふきゅん、スサノオ様、ケツァルコアトル様、行けるのか?』
「疲れがどうこう言っておる場合か! 今、戦わずして、いつ戦うのだ!」
「今であろう、エルティナよ!」
英雄スサノオは、盟友ケツァルコアトルに跨り出撃を宣言する。
「素戔嗚尊! けつあるこあとる、出陣じゃ!」
「我らの最後の戦いを、その眼に焼き付けよ!」
遂に神までもが戦場に姿を現した。手にする草薙剣で魔導騎兵を破壊せしめる。何度もそうしたかのように洗練された動きだ。それは、たった二柱で数百もの魔導騎兵を相手取った経験がそうさせていた。
「みんな……死ぬんじゃねぇぞ。ダナン、防衛ライン突破までどれくらいだ?」
「あと、二百キロメートル」
「長いな、やはり第三陣の出撃は免れないか」
「無理だろうな。内部に侵入できるのは、突入隊だけと考えた方がよさそうだぜ」
突入隊はウォルガング、ホーディック、モンティスト、ルドルフ、ブランナ、アルア、プリエナ、ルバールシークレットサービス、モルティーナ、ヒュリティア、そして、、マジェクト率いる鬼軍団、エルティナという構成になっている。
総勢、三百名による決死隊だ。生きて帰れる保証など、どこにもない。
それ以外のブリッジクルーと守備隊は、エルティナたちの帰る場所を堅持する。ダナン、ララァ、キュウト、グリシーヌ、ルリティティス、そして、二百名のラングステンの騎士たちと聖光騎兵団だ。
「ふきゅん!? 敵の攻撃が激しい!」
いもいもベースが激しく揺れた。魔導騎兵の攻撃が弾幕をすり抜けて命中したのだ。
「……いもいもベース、被弾……出力低下」
「弾幕薄いぞ! 何やってんの!? あと、チユーズ! 修理、急げ!」
『いま』『やってる』『ひと』『づかい』『あら~い』『ぷん』『すこ』
開戦から三十分が経過、戦いは激しくなる一方だ。超機動要塞ヴァルハラからの援軍は無い。向こう側も激戦区になっているからだ。
『弾幕が激しい! 状況は!?』
『被弾! コントロールが効かない! 死にたくな……ザー』
『状況を報告してく……うわぁぁぁぁぁぁ……ザー』
『ちくしょう! アカネが被弾した! スラック、返事を……!』
『ロフト! 後ろだ!』
『クソったれが! 死ねるか、死なせるかよ!』
けたたましく入ってくる通信。死を伝える惨いものもあった。死にたくないと叫んでいる声も。その全てをエルティナは魂に刻み込む。
「つくし三番艦轟沈! 十八番艦大破! 四番艦小破!」
「エド!」
『待っていたよ、エル』
遂に第三陣の出撃となった。エドワードが率いる部隊となる。彼は解き放たれた猛獣のごとき笑みを見せたのだった。




