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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
740/800

740食目 開戦

「どうやら、天空神とエルティナが接触したようですね」

「いかがいたしますか?」

「放っておいていいわ、ミレット」


 宇宙要塞ASUKAの中央コントロールセンター。その黄金の玉座に座る女神マイアスは、青年の姿となった天使ミレットに対し、酷く気怠そうに告げる。

 彼女の前には、ホログラフィとして投影される超機動要塞ヴァルハラの姿があった。その姿は宇宙に浮く宮殿そのものである。


「雑魚をいくら集めようともなんの足しにもなるまいに。ミレット、魔導騎兵の配備はどうなっているの?」

「はい、大型戦艦五百、及び無人の魔導騎兵二千五百万、ASUKA防衛ラインに配置完了です。鬼用の有人魔導騎兵の配置も間もなく」

「急がせなさい、そろそろ来るわよ」

「ははっ」


 ミレットは命を受けて足早に立ち去ってゆく。小さなため息を吐いた女神マイアスは静かに目を閉じた。蘇るのはマイアスとして生きてきた記憶の数々。それに違和感を抱く現在の自分に戸惑いを見せていた。


「バグ……かしらね、しっくりこない。私は女神マイアス、それで十分」


 映像の超機動要塞ヴァルハラがゆっくりと動き出した。目標はここである、と目星を付けた女神マイアスは集結した鬼たちに告げる。


「これより、桃使いたちと決着を付ける。各員は最後まで【鬼らしく】戦い抜くことを望む。以上、さぁ、暴れていらっしゃい!」


 鬼たちの雄叫びが宇宙要塞ASUKAに響いた。次々と出撃してゆく魔導騎兵、その中には金熊童子と星熊童子の姿もある。


「虎熊のヤツは?」

「あやつは要塞で待つそうじゃ」


 五本の指が爪状になっている八十メートル級の魔導騎兵【ゴールドシザー】を操る金熊童子は窮屈そうに身体を捩らせた。コクピット内は十分に広いが、どうにも気に食わない様子を見せる。


「あんにゃろう、大物ぶりやがって。連中を全部食って、一人たりとも行かせないようにしてやる」


 星熊童子は百メートル級の超巨大魔導騎兵を器用に操りながら宇宙空間を飛んだ。そのモニターには小さいながらもヴァルハラの姿が見て取れる。


「まずは脅してみるか」


 星熊は魔導騎兵【スターベアー】の右手を掲げる。その手の平には熱光線の発射口が備わっており、暫しの収束の後に極太の熱光線がヴァルハラに目掛けて放たれた。


「熱源感知! 敵です!」

「防御フィールド形成! ただの脅しだ!」


 船を任されたオーディンが適切な指示を船員に出す。速やかにヴァルハラは防御フィールドを形成、六角形が連なって出来上がった光の盾は着弾した熱光線を完全に遮断した。


「やるねぇ……そうこなくっちゃ!」

「ひっひっひ! おまえら、遠慮はいらんぞぇ! 存分に暴れるがいい!」


 大小様々な魔導騎兵およそ三百万が、一斉に超機動要塞ヴァルハラに襲い掛かった。


「敵、魔導騎兵、来ます! 数……三百万!」

「こちらも兵を出せ! 出し惜しみなど無意味だ!」


 オーディンの出撃命令に待機していた戦闘機たちが順次飛び出してゆく。かくして、最後の戦いは幕を開けた。

 輝き一つ一つが命を散らす輝き。その輝きは暗い宇宙を昼間のように明るくする。


「沢山の命が消えてゆく……こんなことって」

「エル」

「分かってる、エド。俺たちがやる事は変わらない。行こう、全てをやり遂げるために……宇宙戦艦ルレイズいもいもベース発進!」

『いもっ!』


 エルティナは激戦がおこなわれている戦場を突っ切る形で艦を発進させた。いよいよ、泣いても笑っても最後の戦いとなる。

 三十隻のつくしに護られながら目指すは宇宙要塞ASUKA。ありとあらゆる犠牲を払ってもルレイズいもいもベースを宇宙要塞ASUKAに送り届ける。それが宇宙戦艦つくしの役目であった。






「来たぞ、魔導騎兵だ! 出ろ、出ろ! 出れるヤツは全員だ!」


 アルフォンスは、矢次に指示を出し息を吐く。そして呟いた。


「最新技術で船を制御してる、ったって限度があるだろ。おめぇらGDは着ておけよ」


 つくし一番艦を任されたアルフォンスの出撃命令に従い、GD隊が順次発艦する。全員、緊張の色は濃い。訓練したとはいえ、実際の宇宙とでは勝手が違うに決まっていた。


「これが……宇宙か。レイヴィ・ネクスト、GD・ノイン、出るぞ!」


 GD隊隊長レイヴィ・ネクストが、一番艦の部隊の先陣を切って宇宙を行く。彼の【カナザワ改】が閃光を放った。GDと魔導騎兵とではサイズが違うが、攻撃力は変わりがない。サイズ差を生かし、相手の攻撃を避けながらの戦いとなった。


 それでも攻撃が命中すれば一撃でアウトだ。スラスターをやられたGD隊の一人が閃光の中に消える。犠牲を払わないことはできなかった。

 それでも、エルティナたちは、グッと堪えて戦場を突き進む。その先に行かねば、会わねば、戦わなければならない相手がいるのだから。






「転生の果てが、この最終戦争とはな。女神マイアス、あなたが言っていたチート素質でも足りないという言葉……今更ながら理解しましたよ」


 フウタ・エルタニア・ユウギは、つくし二番艦の艦長を任されていた。しかし、彼は既にGDを身に纏いいつでも艦を放棄できるようにしていたのだ。他のクルーも既にGDを身に着けている。いざとなれば艦をミサイル代わりに使う腹積もりなのだ。


「敵、砲撃来ます!」

「こちらも撃ち返せ! 砲弾に【英霊】をセットするのを忘れるな!」


 つくしに装備された255ミリ砲が火を噴く。放たれた砲弾は敵魔導騎兵に着弾し爆ぜた。その中から英霊たちが姿を現す。

 なんと、オーディンは英霊を砲弾として活用することを考えていたのだ。砲弾から解き放たれた英霊たちは実体を伴い、魔導騎兵に切り掛かった。


 このような使い方をするのであれば、弾を惜しむ必要性などどこにもない。全艦は英霊弾を撃ち尽くすつもりで砲撃をおこなった。


 しかし、それは敵側も同じこと。交わす隙間が無いほどの砲撃が飛んでくる。着弾、また着弾。

 つくしの装甲はネオダマスカス合金製であるが、それでもダメージは甚大となる。


「第二甲板大破! 出力低下! 艦長っ!」

「ダメコン! 船を安定させろ! 砲弾を撃ち尽くすまで耐えるんだ!」


 つくし二番艦は早くも中破となり先行きが怪しくなってきた。それでも、なんとか攻撃を耐え忍び進軍を続ける。全ての砲弾、戦士たちを送り出すまでは沈む事ができないのだ。






「はは、終わりの地が空の彼方とはな、あ、地面ねぇか」


 三番艦には冒険者たちで編成されたGD隊が乗り込んでいる。その艦長を務めるのはガッサーム・レパントンだ。彼も既に黒いGDを身に着けている。

 三番艦以降は有志たちによるGD隊が乗り込み順次出撃していった。世界の未来を護らんがために。






「果たして、生きて帰る事ができるだろうか。いや、帰らねばな」


 四番艦にはヤッシュ・ランフォーリ・エティル率いるラングステン騎士団の面々。彼の息子たちも同乗している。


「各員はGDを着用の上で任務に当たれ! いざとなれば、この船をぶつけるぞ!」


 ヤッシュは不退転の決意で事に臨む。彼の後ろには愛する娘がいるのだ。退く事などできやしない。






「始まったな」

「はい、いよいよでございます」


 いもいもベースの真正面に位置するつくし三十番艦はカオス教団に譲渡された艦だ。桃吉郎を始めとするカオス教団の面々が乗り込んでいる。


「姉上、よかったのですか?」

「いいのです、私だけが地上に残るなどできません。この最後の戦いをあなたたちと共に」


 フレイベクスは消えゆく命にかつての光景を重ねた。あの時よりも凄惨で悲しい戦いだと感じた。人の意識が、感情が光と共に消えてゆく。その光景は悲しくも美しかった。






「宇宙要塞ASUKAの防衛ラインに突入する! 野郎共、覚悟はいいか!」


 エルティナの怒号が飛ぶ。ブリッジクルー以外は既にカタパルトデッキにて待機していた。そのゲートが開き、閃光に染められる宇宙が姿を現す。瞬間、つくしの一隻が爆散、宇宙に沈む。


「つくし二十五番艦、轟沈!」

「……ルナキャノン、来ます……!」


 ダナンとララァの報告が矢次に飛んでくる。飛んできたのは報告だけではない、月のルナキャノンの支援砲撃もだ。その凄まじい閃光は魔導騎兵の約3%を焼き払った。

 しかしこの砲撃は副砲によるものである。主砲は鬼用に改装されているため、無人魔導騎兵には効果がないからだ。


「モモガーディアンズ、出撃!」


 エルティナの出撃命令に一番乗りを果たしたのは、GDBPを装着したライオットだ。彼はこの期に及んでもGDの装着を拒否した。そんな彼の頭にはホビーゴーレムのツツオウの姿。


「うっし! いくぞ、シシオウ!」

「にゃ~ん!」


 生身の獣人が巨大芋虫の口から射出される、という珍現象に魔導騎兵は若干動揺した。

 しかし、その動揺は命取りとなる。出会い頭に一機が飛び蹴りで破壊され、続けて輝ける獅子が彼の掌底から放たれた。

 ライオットの頭の上に陣取る小さな獅子は、遠隔操作にて操る砲台を駆使して主を援護する。ここに、遠距離攻撃を苦手とするライオットの弱点は消えた。


「相変わらず気の早いやつだ。ゴーレノイド・クラーク・アクト、出ます!」


 続いてゴーレムサイボーグのクラークがライオットに続く。クラークに続いて専用カタパルトデッキから、シングルナンバーズとゴーレムたちが出撃し、魔導騎兵と激しい交戦を開始し始めた。


「よし、ガンズロック、準備はいいかい?」

「おうよ、飛ばしてくれぃ!」

「フォクベルト・ドーモン、GDフライヤー、出ます!」


 フォクベルトはスノーモービルのような形状をしたGDの追加パーツを身に着け、後部座席にガンズロックを載せて発艦した。


「この大砲をぶっ放せばいいんだなぁ?」

「そういうことです。こちらでも撃つので、遠慮なく」

「がってんだ!」


 二人の役目は魔導騎兵の攪乱だ。役割を分担することによって攪乱と攻撃とを両立しているのだ。そんな二人に嫉妬の炎を燃やすのはフォクベルトの妻アマンダだ。


「きぃぃぃぃぃぃぃっ! なんで、あの二人が一緒なのよ! 誰得よ、誰得!」

『いいから早く出ろ、アマンダ!』

「うっさい、ダナン! 帰ってきたら張り倒すからね!」

『うひっ、こえぇ』

「アマンダ・ドーモン! 出るわよ!」


 怒れる鮮血レッドウルフが発艦した。彼女が身に纏う真紅のGDは、彼女の形態に合わせて形状を変える。人型と獣の姿へと変形することが可能だ。

 アマンダは怒りを発散すべく、魔導騎兵を備え付けられた大型クローで引き裂いた。


「いや、まさか宇宙でおまえらに乗る事になるとはな」

「みゅ~ん?」

「今更か……おまえらも覚悟は決まったか?」


 ワイバーンに乗っているのは変態トリオである。ワイバーンには宇宙用の装置が取り付けられ飛行が可能となっていた。彼らに乗るのはGDラングス改を着込んだロフト、スラック、アカネだ。


「やる事は変わらないだろ? さっさと終わらせようぜ」

「そうさね、早く終わらせてケツを眺めるさね」


 まったくブレない親友と恋人の頼もしさに勇気をもらったロフトは、ワイバーンのトライをカタパルトに載せて発艦する。


「ロフト・ラック、トライ、行きます!」

「スラック・コーロン、ツヴァイ、出るぜ!」

「アカネ・グランドロン、アイン、いってくるさね!」


 三人と三匹の竜騎士は宇宙へと飛び立った。かつて目指した大空は無限の宇宙へと舞台を移し、彼らを最後の戦場へと導く。


「あいつら、出るの早いなぁ」

「今更怖気づいたのか? 腰抜けトカゲめ」

「うるせぇ、お前こそどうなんだよ?」

「ふん、この元上級貴族である私が、戦場を前にして恐れる事などありはしない!」

「その割りには膝が震えているんですが?」

「貴族震いだ!」


 リザードマンのリックはやれやれと頭を掻き、ガクガクと震えるシーマの背中を思いっきり叩いた。


「先に行く! リック・ミラーシュ! GDラングス改、出るぞ!」

「あふん、いや、そうじゃない! 勝手に先に行くな! シーマ・ダ・フェイ、GDラングス改、出る!」


 気合いを入れて飛び立つ、トカゲの騎士と変態貴族の二人。宇宙はそんな二人も分け隔てなく受け入れた。そこは、どのようなことも受け入れるのだ。たとえ生と死であろうとも。


「マフティ、ゴードン、言っておくことがある」

「お? なんだ、ブルトン」

「けけけ、神妙だな。似合わねぇぜ」


 この土壇場であっても、いつもどおりの二人にブルトンは表情を崩す。滅多に見せない彼の笑顔に二人は驚いた。


「……死ぬな」


 それだけ言い残し、彼は大きな脊中を二人に見せた。


「ブルトン・ガイウス、GDル・ブル改、でるぞ」


 単騎で飛び出すブルトンが向かったのは超機動要塞ヴァルハラだ。彼には決着を付けるべき相手がいた。もう一人の自分と向き合い、未来を掴むために。


「グリシーヌ……こんな俺を、きみは受け入れてくれるだろうか」


 男は暗黒の空を征く、少女の笑顔を心に描き未来を掴むために。


「ブルトン……」

「マフティ、俺たちも行くぞ」

「お、おう。そうだな」


 兎とゴブリンは友の言葉に引っかかるものを感じながらも、己の成すべきことを成さんがために出撃する。


「マフティ・ラビックス、GDネオ・ラヴィ、出るぜ!」

「ゴードン・ストラウフ、GDネオ・ワララ、いくぜ!」


 二人は新たに受領したGDを身に纏い、ルレイズいもいもベースを発艦した。新たなるバニーガールと藁人形は見事なコンビネーションを見せ付け魔導騎兵を撃破してゆく。


「熱源! 超大型魔導騎兵二機が、本艦へ急速接近!」

「ふきゅん、おいでなすったか。おいぃ、ユウユウ閣下、リンダ、お客さんだぞぉ」


「クスクス、もう痺れを切らせたのかしら」

「いつもどおりじゃん。金熊と星熊でしょ?」

「そうね、プルルはどうするのかしら」

『僕はもう艦の外だよ。ドッキングに手間取っていたんだ』


 スピーカーからプルルの声が聞こえてきた。どおりでこの場にいないわけだ、と鬼の二人は納得する。


「それなら、出ちゃいましょうか。ユウユウ・カサラ、GDオーガ、出るわよ」

「リンダ・ヒルツ、GDオーガ弐式、いっきま~す!」


 禍々しいデザインのGDを身に纏った鬼の姫君が同胞を迎え撃つべく出撃を開始。その後姿を眺めるのがルレイズ号とのドッキングを済ませたプルルだ。


「お祖父ちゃん、本当にいいの?」

『当たり前じゃ。孫だけを戦わせてなるもんかい』

「なら……プルル・デイル、GD・アルティメット・デュランダ、行きますっ!」


 いもいもベースからルレイズ号が切り離され、巨大ブースターが火を噴く。その外部装甲が弾け飛び、中から武装コンテナのような機体に埋め込まれたGD・ネオデュランダ改弐の姿が見えた。


『システム・オールグリーンです~。気分はどうですか~?』

「うっく、なかなか豪快な機体だねぇ。骨が軋むよ」


 GD・U・デュランダはあまりにも複雑な操縦を必要とした。とてもイシヅカだけでは手に負えないので、サブパイロットとしてプルルの祖父ドゥカンとウルジェが同乗している。


『うふふ~、それは~何よりです~』

「飛ばすよ! ウルジェ、お祖父ちゃん!」


 全長百二十メートル、長高五十メートルのモンスターGDが、因縁の相手と決着を付けるべく宇宙を切り裂いて飛んでいった。

 その姿は流星。暗黒を切り裂き、希望の光を招き入れる星だ。


「つくし十三番艦、轟沈! 十二番艦、中破!」

「……二番艦、大破。クルーは艦を放棄」

「っ! フウタ……!」


 戦いは混沌を深めつつあった。この絶望の宇宙に、エルティナは希望の光を灯すことができるのか。戦いは始まったばかりである。

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