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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
735/800

735食目 届かぬ一手

 ……まぁ、そんなわけないんだがな。


 熱い手の平返しを敢行しつつ、俺たちは女神マイアスの真正面に出る。闇の枝・ジュレイデに空間を食わせ、時間差で瞬間移動ショートジャンプしたのだ。


「小賢しい手を」

「この小賢しさが、俺を勝利に導いてきたのさ」


 女神マイアスは懐に飛び込まれて迎撃手段を持たない。俺達の完勝、そう思った。

 だが、やはり嫌な予感。白い女に噛み付こうとしていたジュレイデを制し、再び空間を跳躍、僅かにタイミングが遅かったのか右肩の肉をごっそりと持っていかれた。


「いってぇぇぇぇぇっ! なんじゃこりゃあ!?」

「桃吉郎様っ!」


 俺の様子を確認したモーベンが、すぐさま治癒魔法で肉体を再生してくれる。彼に治療を任せ、女神マイアスを確認すれば、その細腕から光の剣がにょっきりと伸びていたではないか。


「インファイトもバッチリかよ」

「うふふ、女神ですもの」


 あの光の剣の気配は間違いなく、全てを喰らう者の性質を備えている。これは厄介だ。


「味を覚えられたな」

「拙い状況ですね。残る八司祭を集めましょう」

「そうだな、虚勢を張っている場合じゃない。形振りを構っていられなくなった」


 相手の方が力量が上、という現実を突き付けられ、俺は計画を大幅に変更せざるを得なくなった。くそぅ、ド派手に目立つはずが、ご覧の有様だよ!


「許さん……許さんぞ、虫けらどもぉ! じわじわと嬲り殺してくれるわっ!」

「桃吉郎様、それはフラグ立てになるので、ご自重ください」


 くっ、モーベンのヤツめ。エルティナのフラグ講座を受けてからツッコミがキレッキレになりやがって。

 だが、確かにフラグなので自重せざるを得ない。ここで、マジにGAMEOVERガメオヴェラは避けたいのだ。


「あら、掛かってこないのかしら? 絶対に許さないんじゃなかったの?」


「くっ、安っぽい挑発に乗るな……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「挑発に乗ってるじゃないですかやだ~」


 なんということであろうか、女神マイアスの安っぽい挑発に、俺の肉体はホイホイと乗ってしまったのだ。精神は拒絶していたので俺はわるくぬぇ。


「でもまぁ、向こうも味を知ったけど、こっちも向こうの味を知ってんだよな」


 飛び交う光線をバクリと喰らう。全てを喰らう者にとって接触とは食事だ。こっちを喰らった瞬間、こちらも向こうを食っている。

 女神マイアスが勝負を急いでいるのは、この情報を知っているがゆえ。折角の全てを喰らう者殺しの技術が、こちらに漏洩することを恐れての事。でも、もう遅いんだよなぁ。


「問題は、そのためのエネルギーなんだが……いやぁ、きついっす」

「枝を分けた状態では無理でしょう。素直に集結を急がせた方がよろしいかと」

「せやな」


 考えがまとまり、とにかく八司祭集結までの小賢しい時間稼ぎを決行。これに女神マイアスは焦りの表情を窺わせた。こちらに情報が漏れたことを理解したのだろう。


「ふふ、小賢しい。本当に小賢しい」

「はっはっは、お褒めに預かり恐悦至極」


 挑発には挑発で返す。俺、こう見えても頭脳派路線でがんばってきたのだ。桃太郎時代は猛烈な肉体能力でごり押すことができたが、今は白エルフの身。貧弱クソザコナメクジ過ぎて嫌になってしまう。

 俺も早く妹みたいに竜信合体がしたいです。


 そのための神の欠片? そのための天空神殿襲撃? イエス、うぃーきゃん。


「御子様!」

「来たか、ウィルザーム!」


 大司祭ウィルザームが残る司祭を背に乗せて俺たちの下へと駆け付けた。これで俺も本来の力が発揮できるというものだ。


「よし、反撃開始だ!」


 全ての枝が俺の魂へと帰還、俺は枝の全ての力を限定的に行使できるようになった。即ち、単独での飛行が可能となったのだ。

 ただし、神の欠片が揃わぬ不完全な状態では、能力の行使を全て自分でおこなわなくてはならない。したがって、少しでも意識を他所に向ければ俺は地上に真っ逆さまである。


 ここ、雲の上にあるけど雲自体は普通の雲だから、乗ることなんてできましぇ~ん。


「でも、あいつら普通に雲の上に立ってるんだよなぁ」


 そんな理不尽に憤りつつ、雷の枝に電撃を放たせる。狙いは女神マイアスではなく、彼女と繋がる機械の壁だ。迸る電流が機械の壁を蹂躙、ところどころで爆発が起き、その影響は壁に繋がる女神マイアスにも及ぶ。


「が、ががが! お、おのれれれれれれれれ!」

「お、効いてる効いてる。じゃけん、もっと壊しましょうね~」


 とはいえ、こちらも神気がものっそい速度で減りまくっている。時間との戦いとはまさにこれのこと。遊んでいる暇などありはしない。

 向こうもそれを理解しているので抵抗が激しい。極太ビームの雨あられ、いやぁきついっす。


 ショートジャンプも駆使しながら電撃をお見舞いする。ゴリゴリと減ってゆく神気に冷や汗を流しつつ、我慢強く攻撃の機会を待ち放電。

 マイアスの弱点が機械の壁だなんて初見殺し過ぎて泣けてくる。反則でしょうが。


 だが、タネが分かってしまえばちょろいもん、しかもチャンス到来。女神マイアスの攻撃が止んだ。砲門からは黒い煙。どうやら、こちらの電撃で砲を制御する装置がショートしたもよう。


「ここまでのようですね」

「おまえは強かったよ。でも、それ……」

「ふふ、私の勝ちです」

「……ふぁ?」


 ごぅん、とマイアスの座る玉座がせり上がり、黒煙を吐きだし始めた。


「あぁ、そうそう、いいことを教えてあげましょう」

「なに?」

「神の欠片は後二つあるんです。ひとつはここ、もう一つは……うふふ」


 女神マイアスは空を見上げた。正しくはその先にある広大な宇宙そら


「まさか……宇宙に打ち上げていたのか!?」

「そういうことです。では、ごきげんよう」


 大気を振動させ宇宙へと向かって飛び立つ女神マイアス。その玉座こそが神の欠片に相違なかった。神の欠片は往々にしてわけの分からない物に姿を変えている。一番見つけにくかった物はおパンツだ。

 フレイベクス姉が露店で購入した、というそれを無理矢理引っぺがしてなんとかゲットした。ほんのりと黄ばんでいたのは内緒な?


「んなろっ! 行かせるかよ!」


 逃げる女神マイアスに対し電撃を見舞う。そして、それは女神マイアスに全て吸い寄せられ彼女を黒焦げにしてしまった。

 炭と化しボロボロと崩れ落ちる白かった女は散り際に言い放った。


「ふふ、悔しかったら追いかけてきなさい、カオスの子よ」

「やはり、現身か!」


 なんとか玉座に取り付こうと転移を試みる。しかし、どうにも上手く行かない。転移した場所が微妙にずれてしまい、転移すればするほど遠ざかってしまう。


「まさか……やられた! 灰になったのは、この為か!」


 そう、女神マイアスは俺の転移を一番警戒していたのだ。だからこその挑発、現身の灰を使い俺の転移を阻んだのだ。


「やられましたな、御子様。今回はあやつめの方が上手だった、という事になりましょう」

「悔しいが、そう言わざるを得ない。クソったれめ」


 ぐんぐんと高度を上げてゆく玉座を載せたロケット。神の欠片は後一歩のところで、俺たちの手の届かぬ場所へと消えていった。


「うな~ぎ」

「デミシュリス、その鳴き方はどうかと思うぞ」


 ウナギさんが天使軍団の接近を報告してきた。神の欠片を逃してしまった今、いつまでもここにいる理由はない。次なる対策を練るために、カオス教団本部へと転移する。

 不覚ながら、俺たちは戦術的敗北を喫してしまったのだ。なんてこったい。

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