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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
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713食目 鬼もこれには敵わない

「おぉい、獲ってきた食材を一ヶ所に集めてくれぃ」


 各々が獲得してきた海産物やら何やらを一ヶ所に集める。すると、あるわあるわ食べれるかどうかも分からない物体がごろごろと。

 よくもまぁ、こんなものを取ってくる気になったな、というほどに毒々しいクラゲやエキサイティングなアメフラシ、中にはファンタスティックなフナムシまでいやがる。


「ヴェ~」

「おまえ……そんな鳴き声で大丈夫か?」


 奇妙な鳴き声を上げるフナムシも食べれない事はないだろうが、臭みやら苦みを抜くのが面倒くさいので、彼はそっと逃がしてやった。生きろ、フナムシ。


 カサカサカサ……すっ……シュタタタタタタタタタタっ!


 いや待て、普通に逃げろ。誰が二足歩行で砂浜を駆け抜けろと言った。


「ふきゅん……ま、一般的な食材以外は海にリリースだな」


 やはり、ファンタスティックだったフナムシを見送った後に海産物を仕分けする。すると、獲ってきた海産物が半分になってしまったではありませんか。


 おまえら何やってんの? おバカなの? ふきゅんなの? タコさんに頼んで、ルルイエに連れて行かせんぞ?


「ふぁっきゅん、これじゃあ、晩飯が作れない作りにくい。だから、俺は伝家の宝刀、フレイベクスの無限お肉を使用するだろうな」


 困った時にはこれに限る。対ライオットには、もうこれ以外思い浮かばないのが現状だ。

 しかも、ライオットの嫁さんであるプルルも彼に匹敵するくらいに食べるので、食材が絶滅の危機に瀕してしまう。がんばって、フレイベクスさん。


 ……どこかで、とんでもない嬌声が上げられている気がした。気のせいだとは思うが。


 まぁいい、取り敢えずは昼飯を作り始めよう。皆の期待の眼差しがスパーキングしてやがるから。


「十分に温まった鉄板にオリーブオイルを敷いて、蒸し麺を豪快に解しながら投入」


 鉄板の前で、調理風景を眺めていたプリエナのモフモフ尻尾がピンと立つ。なんだか、頭に電球でも発生したかのような勢いだ。

 

「あっ、分かった。焼きそばでしょう?」

「もちのロンだ。海に来たらこれだろ?」

「えへへ、美味しいよね」


 プリエナがいる、という事は当然、ルバールシークレットサービスもいる、という事になる。

 よ~く観察すると、茂みやら木の上、果ては砂浜の中に紛れて偽装しているヤツまでいる。無論、全員火器を携帯している徹底ぶりだ。

 なんというプロ集団。気配を微塵も感じさせない辺り、プリエナを気遣っているのだろう。しかし、時折放つ殺気はどうにかした方がいい。位置がばれるぞ。


「流石、デカい鉄板は格が違うぜ。そぉれ、お肉投入、野菜もどかぁん」


 広い鉄板では、なんでもやりたい放題だ。食材を別々に且つ同時に炒める事ができる。

 丁度いい塩梅になったら、それらをドッキングして、秘伝のソースをドバ~っと投入。ジュワ~、というお馴染みの音と香りが否応もなく食欲を揺さぶる。ふはは、怖かろう。


 そして、とどめだっ! おるるぁん! 辛子マヨネーズの拡散粒子砲も食らいやがれっ!

 こいつもくれてやるっ! 青のりフラッシュに、紅ショウガダイナマイツっ!


「ふっきゅんきゅんきゅん……我が軍の焼きそばは圧倒的ではないか」

「エルちゃん、目玉焼きっ!」

「リンダ、慌てるなぁ。分かってるぞ」


 リンダが興奮気味に腕をぶんぶんと振りながら目玉焼きを催促してきた。勿論、忘れているわけではない。これだけ鉄板が大きく、尚且つ火力が強いとすぐに黄身が硬く焼き上がってしまうのだ。だから、わざと焼くタイミングを遅らせていたのである。


「ほぉい、卵の片手割りでござぁい」

「お見事っ! 私だと、どうしても殻が砕け散るんだよねぇ」

「リンダは、力を入れて強引にやり過ぎだな。もっと優しくするんだぁ」


 というわけで、目玉焼きを焼く。半熟がいい者は素早く鉄板からレスキューしてどうぞ。

 同時に焼きそばも完成している。焦げ付いたソースの濃厚な香りが、空きっ腹にボディブローをかましてきた。こいつは効くぜぇ。


「おるるぁん! 出来たぞっ! 食え食え!」

「「「ヴォォォォォォォォォォォォォっ!」」」


 鉄板に向かって一斉に箸が乱舞する。世は戦国の様相を呈してきた。弱き者は食にあり付くことは叶わぬ、情け容赦のない弱肉強食のルールが適用される。

 そんな中にあって、やはりライオット、プルル、ユウユウ、リンダが強かった。


「うおっしゃあっ!」

「ちょっ!? 焼きそばを手づかみでいったぁぁぁぁぁっ!」

「貰った……えべしっ!?」

「ロフト君、ふっとばされた~~~~~!」

「クスクス、レディーファーストという言葉を知らないのかしら?」


 乱れ飛ぶのは箸だけではない、弱者が強者にボコられて宙を舞い、豪快に海にぼっちょん。哀れな姿を晒す。


 だが、ロフト、おまえの勇姿は忘れない。勇敢な弱者に敬礼っ!


「まぁ、こんなものかしら?」

「ユウユウ、そんなに食べて大丈夫?」

「大丈夫よ、リンダ。余剰な栄養は全部、鬼力に変換しているから」

「ひょっとして、私がペタンこなのは……!?」


 とまぁ、そんな感じでユウユウたちはごっそりと焼きそばを確保し、さっさと戦場から離脱している。

 意外なところで、プリエナがちゃっかり焼きそばを確保していることであろうか。だが雄叫び揚がる乱戦の中、銃声が聞こえたのは気のせいではないはずだ。


 見ろ、どさくさに紛れて、プリエナにセクハラをおこなわんとした、ロフトとアカネの変態二名が哀れにも地に伏している姿を。

 愚かな……ルバールシークレットサービスは、常にプリエナをガードしているのだぞ。


 というか、ロフト、おまえいつの間に戻ってきたんだぁ?


「ふっきゅん! ふっきゅん! いっそげ、いっそげ!」

「エルティナさん、このままじゃ焼きそばの材料が無くなるんだな、だなっ!」

「マジでっ!?」

「マジなんだな、だなっ!」


 俺はもりもりと追加の焼きそばを制作。一人では間に合わないと判断しグリシーヌに助っ人を依頼する。

 しかし、グリシーヌの報告によると、このままでは焼きそばが絶滅してしまうので、早くもフレイベクス肉を投入する流れになった。

 暫くすると、芳ばしいお肉の香りがぷい~ん、と放たれ野獣どもの胃袋を刺激する。


「がふがふ」

「おまっ、レアにすら焼けてない肉を食うな」

「フレイベクス肉は、この状態がいいんだ」

「それは、おまえだけだぁ」


 全身胃袋のライオットは、焼き始めたばかりのフレイベクス肉に喰い付いた。まぁ、元々はライオット対策のものなので、問題がないといえばないのだが。


「ふっきゅんしゅ」


 続いて大きなエビを豪快に鉄板の上に載せる。サイズからして伊勢海老を彷彿させるが、こいつはやたらと手が長い。そして、ハサミもビッグだ。


「海の珍獣ビックラブかぁ。よく見つけたな、ブルトン」

「たまたまだ。こいつは清酒がよく合う」

「もう飲んでんのかぁ。俺にもくれぃ」


 むきむきマッソォなブルトンは水着姿のままで、もう酒をやっていた。ただいま、お昼真っ只中である。まぁ、彼は酒に強いので咎めることはしないのだが。


 焼き上がったビックラブの殻を外して食べ易いようにする。その際は殻を捨てないで取って置く。この殻から出る出汁がまた美味しいのだ。


「蒸し上がった身も良いけど、表面を軽く焼くとまた美味いぞぉ」

「確かに。清酒とよく合うからな」

「ぷりっぷりの身が美味いんだぜぇ」


 ブルトンは大人なので、一気に食べないでよく味わって食べてくれる。これならば、多くの者に行き渡るだろう。なので、そんな彼にビックラブの頭を進呈。

 ビックラブはエビ味噌がたっぷりで食べごたえがあることでも有名だ。


 そして、エビ味噌を取り出した後は、中に清酒を流し込んで味わうのが飲兵衛の流儀である。


「……美味い」

「ブルトンも好きだなぁ」

「酒は良い、嫌な事を忘れさせてくれる」

「おう、飲め飲め。でも、酒に飲まれるなよ?」

「心得ている」


 そんでもって、グリシーヌが下ろしてくれたサーモンの切り身をサッと炒めてマヨネーズをどぴゅっとかける。んでもって醤油を回しかけると幸せになれる一品の完成。

 しっかり焼いても良いし、半生でも美味しいぞぉ。


「ご飯が欲しいヤツは、焼きおにぎりも焼いてるから手に取ってくれい」


 鉄板の上は自由だ、何を焼いても良い。鉄板焼きを楽しめっ!


「へぇ、いいね……って、誰だよ、おにぎりの中に納豆を入れたのは」

「きゅおん、おにぎり担当は俺だ」


 スラックの口から糸を引くおにぎり。それは納豆のネバネバであった。不味くはないだろうが、納豆の独特のにおいが増加されるので善し悪しだな。好きなヤツは好きだろうが。


「キュウト、まさか、おにぎりの中に具を入れたのか?」

「よかれと思って」

「焼きおにぎりは基本的に具は入れなくていいぞ? 表面に醤油やら味噌を塗るからな」

「……そ、そうなのか~」

「まさか……手あたり次第に具を入れたんじゃなかろうな?」

「てへっ」

「てへ、じゃないだるるぉ!?」


 セクシーな紺色の水着を身に纏う狐娘はエレガントなてへペロを披露。だが無意味だ。


「あぁ、もう。滅茶苦茶だよ」


 折角の焼きおにぎりが、ロシアンルーレットになった瞬間であった。無論、お残しは許されない。全員に食してもらう。


「お、これは当たりかな? たくあんだ」

「ぶはっ!? なんでチョコレートが入ってんだよっ!?」

「すっぱ!? こ、これは……中華サラダ!?」


 まったくもって、恐ろしい具材を詰めに詰めたものだ。しかも無駄にレパートリーが多い。


「ひっひっひ、このわしを差し置いて飯とは良い度胸じゃ」


 そこに、帰ったと思ったら、ちゃっかり残っていた金熊童子が登場。どうやら、お腹を空かせてたかりに来たもようである。

 瞬間、貫くかのような電流が俺の中を走り抜けてゆく。


「ふきゅん、金熊童子か。焼きおにぎりを奢ってやろう」

「……いただこう」


 にやぁ。


 金熊童子を除く俺たちの心が一致した瞬間であった。焼きたてで芳ばしい焼きおにぎりを口に運び、一度、二度と咀嚼する金熊童子。


 焼きおにぎりを、んぐんぐ、と味わう老人に変化が起ったのは間もなくであった。


「ぶひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? か、辛いっ!」


 そして、泡を吹いて倒れる哀れなお年寄り。流石の俺もビックリである。


「な、何を入れたんだ? キュウトさんや」

「きゅおん、これだ。美味しそうだったから丸ごと入れた」

「……ハバネロじゃねぇか。俺が食ってたら死んでたぞ」


 恐ろしい事に、最大の敵は身内だった……?


 結局、散々な目にしか遭っていない金熊童子は泣きながら帰っていった。あまりに不憫すぎて掛ける言葉が見つからない。シリアスな展開になったらまた来てくれ。


「これで、最大の危機は回避できたな」

「う~ん、まだ虎熊童子の意図は見えてこないと思うけど、どう思う? エル」

「ふきゅん、確かに。金熊童子は別に動いている様子だったしな」


 昼食も一段落したとあって、だらだらと鉄板で二枚貝のバター焼きを摘まみながら清酒をちびりとやり、エドワードと話をする。彼の言うとおり、いまだに虎熊童子の意図は見えてこない。


 ヤツが創造したトチという人工生命体は、満腹になって直接砂の上で寝息を掻いている。どれだけ食べたのであろうか、トチの腹は妊婦のように膨らんでいた。


 虎熊童子のヤツは、俺にどうしろというのだ。敵の問題児のお世話なんて、やってられんぞぉ。


「だらしねぇ腹だなぁ」

「よく食べてたね。きっと美味しかったんだと思うよ」

「まぁ、嫌そうに食べられるよりかはいいけど、こいつは危機感がないな」

「まぁね。なんだか、大きな子供みたいだよ」

「……言い得て妙、といったところか」


 知識は与えられても生まれたばかりの存在だ。性格が幼いのだろう。

 俺は「ぷひっ」とため息を吐き、お猪口に入った液体をくいっと飲み干した。

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[一言] 二足歩行のフナムシ 金「····のう、今二足歩行で走るフナムシを見た気がするのじゃが···」 ユウユウ「···それはまた、凄い光景ね···」
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