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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
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707食目 その少女、極めて危険

 死にかけてる私がマイリフちゃんです。どう足掻いても絶望な状況からの帰還に、自分で自分を褒めたいです。あぁ、なんだか力が湧いてきました。

 そういえば天使たちも、私に褒めてもらうと元気が出る、と言ってましたね。


「……無事でいてくれるといいのだけど」


 自室のベッドの上で膝を抱え、失われた日々を思い出します。あの日は、もう取り戻すことはできないのでしょう。

 それでも、私は手を伸ばします。そこに、取り戻したいものがあるならば。


「はぁい」

「ぶふっ」


 ちょっぴりシリアスが入っていたのに、それを粉々に打ち砕くのが珍獣クオリティ。

 いつの間にやら、ベッドの上に黄金の毛玉が鎮座しているではありませんか。


「不法侵入、余裕でした」

「せめて、ノックくらいはしてちょうだい」

「それじゃあ、不法侵入できないし難い。だから俺はノックしないだろうな」

「これは酷い」


 金色の毛玉と化したエルティナを抱き上げます。ふわふわもこもこが反則レベル。軽い上に程よく手に納まる大きさは、荒んだ私の心を癒してくれました。


「ふきゅん、俺が思うに、マイリフは既に力に目覚めていると思うんだぜ」

「え? それはどういうことですか?」

「あとは自覚できるかどうかだな。じゃ、俺は闇系のクエストがあるから」


 エルティナは訳の分からない理由を告げて部屋を後にしました。本当に何をしに来たのでしょうか。分かりません。

 再び一人になった自室は、急に温度が低くなったようで不安な気持ちになります。仕方がないので部屋から出ることにしました。今はとにかく温もりが欲しいです。真夏ですが。


 フィリミシア城はひんやりとしていて快適です。冷房魔法が掛けられているからでしょう。日陰から出ると一気に暑くなるのですが、それは仕方がないというもの。


 暫く廊下を歩くと、第一モモガーディアンズメンバーを発見。フェアリーのケイオックです。男の子から女の子へと性転換し、戸惑いの日々を送っているとか。


「ケイオックちゃん、こんにちは」

「あ、こんにちはっ! マイリフ、聞いてくれよっ!」


 何やらケイオックは興奮気味のもよう。何事かあったのでしょうか。


「またから血が出てきたっ! 俺、死ぬのか?」

「あ~……」


 予備知識が無いまま性転換して、そのまま例の日がやって来た、といったところでしょうか。ぷるぷると震える彼女が愛おしく感じます。

 そこに生理用品を抱えたエルティナがやってきました。彼女の言う、闇系のクエスト、とはこのことだったのでしょう。


「おいぃ、勝手に動き回るんじゃない。またから血がポタポタ落ちるだろうが」

「ぬるぬるして気持ち悪い。お腹も痛い。だるい~」

「ならジッとしてろ。ほら、処置するから服を脱げ」

「俺、やっぱり男がいいよ」


 エルティナの手の上に着地しペタンと腰を下ろす妖精は、もぞもぞと服を脱ぎ始めました。というか、廊下のど真ん中ですることじゃないですよね?

 私の鋭い指摘に驚愕の眼差しを送ってきた二人、はなはだ遺憾であります。


 二人は渋々と言った感じで医務室へと向かいました。やれやれです。


 私は再び歩き出します。今度はアカネとロフトに出会いました。どうやらスラックはいないようです。二人に気を使ったのでしょうか。


「んお? マイリフ様、ちぃ~っす! おっぱい、元気ですかっ!?」

「マイリフ様、ケツに顔を突っ込んでもいいさね?」

「挨拶からして酷いですね」


 この二人は恋人になってからも行動パターンが変わりませんでした。スラックを見習ってください。彼はかなりまともになりましたよ? 三人でいる時は、以前と変わらぬ行動をしているようですがね。


「訓練上がりですか?」

「まぁ、そんなところかな」

「ウォルガング様も職務から解放されたからか、わちきらの訓練に容赦が無くなったさね」


 よくよく見れば二人はところどころを負傷していた。といっても軽い打撲と擦り傷であるが。

 しかし、怪我には変わりがないので〈ヒール〉で治療してあげる。あっという間に、二人の怪我は完治したもよう。

 こう見えても、私は治癒魔法が得意なのです。えっへん。


「お~、マイリフ様もやるなぁ」

「食いしん坊程じゃないのが、なんともさね」

「うぐっ、彼女と比べないでください」


 正直な話、エルティナの治癒魔法は規格外。遂に無機物ですら癒す、という有様に戦慄を隠しきれません。最早、あれは神の領分ですから。


 あれ……私って神様だったよね? うん、深く考えるのはやめよう。


「ところで、マイリフ様は写真集を出さないのか?」

「え? 写真集というと……ルドルフさんのようにですか」

「そそ、最近はユウユウも出したしさ」

「一日で完売なのは笑ったさね」


 確かルリティティスの口車に乗せられて写真集を出すハメになったとか。恐るべきは彼女の美貌とルリティティスの監修。そして、今や敏腕カメラマンになってしまった、ルーカスの撮影技術でしょうか。


 ユウユウはともかく、ルリティティスとルーカスは何を目指しているのでしょうか。心配になってしまいますね。


「私はほら、女神様に戻るかもしれないし、俗っぽいのは避けないと」

「今は女神じゃないんだし、若い内にやっておかないと後悔するさね」

「……」


 言えない、実年齢がうん万年だなんて。でも、神様だと若い方なのよね。というか、赤ちゃんレベル。赤ちゃんのグラビア写真集だなんて、どうなんでしょうか。


「うちはレベルが高い連中が揃ってるから、適当に写真集を出してもヒットするんじゃないのかな」

「それは有り得るさね。でも、わちきとシーマとリンダは避けた方がいいさね。身体が貧相だから」

「まてっ、それがいいヤツもいる。需要が無いとは言えんぞ!」

「むむむ、ロフトは視野が広いさね。言われてみればそうさね」


 そして、話は謎の盛り上がりを見せてきました。脱出の機会を逃してしまった私は、二人の会話に付き合わされるハメに。どうしてこうなった。


「おや、こんなところでどうしたんだい?」

「ひほっ、面白そうな予感がしますわ。お姉様」


 今度は双子の美人姉妹が加わり、会話は危険な領域へと突入する。グラビア写真集からエッチ話へと移行するのに、それほどの時間は要さなかった。


 特にランフェイが酷い。ロフトを超えるスケベさ、そしてダークぶりを発揮していました。本当に女の子なの!?


「ひほっ、やっぱりバックからならメルシェかプルルね。もちろん、お姉様は一番よ」

「嬉しくないけど、ありがとう、ランフェイ」

「今日もたっぷり突いて差し上げますわ」

「やめてっ」


 狂気の会話は終わることなく悶々とした何かが鬱積してゆく。それはロフトとアカネにも蓄積されていたもようで、次第に二人は顔を赤く染めていきました。

 チラチラとお互いの顔を見詰め、恥ずかしそうに顔を逸らします。超甘酸っぱいです。


「(変態なのに、誰よりも初心うぶで青春しているんですよねぇ)」


 それに比べて、この残念姉妹は。被害者の姉と加害者の妹の関係を憂う、あなた方の父上の気持ちを考えたことがあるのだろうか。

 姉はともかく、妹の方は無いんだろうなぁ。


 そして、私は考えることをやめた。きっと、それは正しかったのだろう。


 取り敢えず、このままだと話の方がエスカレートして、ここで【いけない行為】が始まってしまいそうだ。既に妹の方がテントを張ってしまっている。そして、姉に対して壁ドン。退路を塞いでしまった。


 救いを求める視線が向けられるも、これを華麗にスルー。ロフトとアカネもこれに倣った。

 ルーフェイは白目痙攣状態となり、まな板の鯉と化す。いとあわれ。


 だが、これはチャンスだ。私はルーフェイを生贄に即効魔法スケープゴートを発動。このバトルから強制離脱する。


「それじゃあ、私たちは光系のクエストがあるので!」

「グッドラック! ルーフェイ!」

「後で詳しく話を聞かせるさねっ!」


「は、薄情者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「ひほほほほほほほほほほほっ!」


 そんなわけで、ロフトとアカネを連れて脱出。後ろから聞こえてきた悲鳴は聞かなかったことにする。


「危なかったです」

「あぁ、あいつは男だろうと、女だろうとお構いなしだからな」

「ランフェイは、ひほっ、からの、あー! が恐ろしいさね」


 男女の性別を超越した存在、それが今の彼女だ。ある意味で恐ろしい存在である。


 ロフトとアカネと別れて、次なる温もりを求めて歩き出す。次はまともな人と出会いたいものだ。取り敢えずはモモガーディアンズ本部のカフェスペースを訪れてみようかしら。

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