696食目 珍獣の結婚パーティー
◆◆◆ エルティナ ◆◆◆
激烈っ! 結婚パーティー! 会場は混沌の宴と化すっ!
「壊れるなぁ……結婚式」
「大盛り上がりだね」
誠司郎を助けに地球にまで赴いた俺たちモモガーディアンズは、カーンテヒル帰還後に予定通り結婚パーティーを再開した。しかし、戦闘後の興奮冷めやまぬ中、再開してしまったため、テンションはオーバーヒート。デビルが阿波踊りをしながら俺のハートをフリーズさせた。たすけてげいな~。
「あぁ、もう、滅茶苦茶だよ」
「うちの連中らしい、といえばそこまでだけどね」
夫のエドワードはこの状況を割と楽しんでいるらしい。フィリミシア城の大広間を貸し切っての結婚パーティーは、各国のお偉いさんの顔がこれでもかといるのだが、彼らもモモガーディアンズメンバーの精神状態に汚染されて、まさかの無礼講状態。あちらこちらで失態や痴態が見れちゃったりする。
「結婚とは喧しいものなのだな」
「いや、シグルド。これは異常なんだぜ」
ようやく覚醒した全てを喰らう者・竜の枝シグルドも、これには遠い目をして呆れているもよう。俺も同じく想いは一緒だ。ここまで酷くなるとは誰が予想できたであろうか。
「うむ、賑やかで結構。それで……曾孫はまだかね?」
「大丈夫です、お祖父様。今日【仕込み】ますので」
「ちょっ、待てよっ!」
確かに今日は結婚初夜になるが、【仕込み】はいけない。ベビーができては戦えない、戦い難い! だから俺はゴムを渡すだろうな。
ぷすっ。
「どうして穴を開けた。言え」
「よかれと思って」
ドクター・モモに作ってもらった明るい家族計画は早くも破壊されてしまった。壊れるなぁ、計画。
しかし、ここで折れるわけにはいかない。俺とてベビーの顔は早くみたいが、今は最終決戦に勝利することを優先するべきである。そのための結婚披露宴であり、戦意向上を図るための起爆剤として俺は了承したのだ。
「ふきゅん、ウォルガングお祖父ちゃんも、エドを焚きつけるのは駄目なんだぜ」
「も、もう一度っ」
「……ウォルガングお祖父ちゃん」
ウォルガング元国王は、感無量と言った感じで何度目かになる漢泣きをおっぱじめた。
なんかもう、王位をエドワードに譲り渡してから、ずっとこんな感じだ。何十年間も張りつめていた緊張が解かれた反動だとは思うが、やたらと感傷的になっている。一時的なものだとは思うが、曾孫ができた時のウォルガングお祖父ちゃんの反応が今から怖い。
怖いといえば、ヤッシュパパンとディアナママンもだ。彼らは「鬼などこっちに任せて励んでね!」などとぶっちゃける始末。誰も俺の味方はいないんですかねぇ?
聞き耳を立てれば、生れてくる子は俺似のぽやんとした珍獣だの、エドワードに似た聡明な子に違いなどと言いたい放題である。その前にやる事があるだろうに。
まぁ、今日はお祭りみたいなものなので、そこまで口やかましく言うつもりはない。
「盛り上がっていますね」
「ふきゅん、デュリンクさん」
「結婚おめでとう、エルティナ」
「ありがとうなんだぜ」
白エルフの四賢者たちもお祝いに駆け付けてくれた。俺がエドワードと結婚する、と聞いて露骨にしょんぼりした彼であったが、今では元通りの聡明な賢者として日々活動してくれている。
「それで……子供はまだですかね?」
「デュリンクさん、あんたもか」
「極めて残念ですが、エルティナはエドワード陛下に託しましょう。ですが、生れてくる王女は今度こそ射止めて見せますよ」
「ふきゅん、俺たちの娘が危ないっ!?」
「ふふ、白エルフに老いも寿命もありませんからね」
そう言い残して白エルフの賢者たちは宴の中に混ざっていった。混沌が更に深まった気がする。白エルフの賢者たちも実は狼だった……!?
「ほらほら、皆が期待してるよ?」
「決戦まで一年もないんだ、今子供を作ったらボテ腹で戦わないといけなくなるんだぞ」
「ふむ、それは子供にはよくない。仕方がない、ゴムを使うか」
「我慢するという選択肢はないのな」
「我慢するなんてとんでもない。もうヤるね」
「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」
夫は性欲の塊だった……!? いや、まあ、我慢すれというのが無理なのだが。
そんなギラギラするエドワードを横目にして汗をダラダラ流す俺の元に、ムー元王子が爽やかにやって来た。その隣にはラペッタ【ちゃん】の姿がある。
実はこの二人、結婚してます。しかも、俺たちよりも早くに。なんでも、ムー元王子は早くから俺を諦めていたようなのだ。だいたいラングステン英雄戦争が終結した辺りから、勝ち目がない事を悟っていたらしい。
そんな折にラペッタちゃんが彼の愚痴を聞くようになり、やがて二人は……というところまでは自然の流れだろう。だが、二人はちょっと違った。いきなり子作りをしてから、恋人宣言をおこなったのだ。
何がどうしてそうなった。自分たちの子供を抱いて「二人は恋人」とかわけが分からないよ。
と言うわけで周囲の反応もあって二人はその勢いのまま結婚。ついでに王位を継承して周辺の小うるさい敵対諸国をぶっ潰した、とのことだ。益々訳が分からないが、ムー王の「計画通り」という呟きに戦慄したのは内緒である。
「やぁ、エルティナ王妃。結婚おめでとう」
「結婚おめでとうございます、エルティナ様」
「ふきゅん、ありがとうなんだぜ」
「エドワード王も羨ましい限りです。爆ぜろ」
「エドワード陛下もお喜び申し上げます。爆ぜろ」
「なんだか、僕だけに殺意が籠ってるね」
三人の仲は相変わらずであるが、別に敵対しているわけではない。やっかみが入っているだけ、とのことである。ほんとかなぁ……?
「あらあら、豪華な顔ぶれね」
「あ、ミレニア様。いらっしゃいなんだぜ」
緊急出撃とあってミリタナス神聖国に留まっていただいていたミレニア様がフィリミシア城に到着した。
俺はエドワードの嫁、つまり王妃になってしまったので、ミリタナス神聖国は以前どおりミレニア様に任せることになってしまい、心苦しいばかりだ。しかしながら、俺はとある密約を彼女と交わしている。
「うふふ、エルティナたちの子供の顔が楽しみだわ。女の子をお願いね」
「そればかりは、どっちになるか分からないんだぜ」
もし生まれてきた子が女だった場合は、ミリタナス神聖国の教皇か聖女として即位させる事、これが俺とミレニア様との密約だ。聖女としての素質があった場合は聖女として、それ以外は教皇として勉強をさせる。そして、ミレニア様の後を継ぐのだ。
ミレニア様も肉体に滅びは無いが、精神に老いを感じるようになった、という。それは正しい判断なのだろう。生きる、ということは老いる、ということでもあるのだ。
まぁ、白エルフはその自然の理の道から、片足が脱線してしまっているのだが。
「まぁ、エルとの間に十人は子供を作る予定ですので、一人くらいは女の子ができるでしょう」
「十人っ!? マジで震えてきやがった」
まったく以って初耳である。確かに養ってゆけるであろうが、それにしたって作り過ぎである。エドワードは、ビッグダディを目論んでいた……!?
「ははは、それなら私たちは十一人を目指そうか?」
「まずは三人リードですね」
「ふきゅん!? まさか、また【おめでた】なのかぁ?」
にっこりと微笑むラペッタちゃんは、やや膨らんでいるお腹を愛おし気に擦る。それはつまり、ベビーが入っています宣言だ。
「おめでとうっ! おめでとうっ!」
「えへへ、ありがとうございます、エルティナ様」
俺はラペッタちゃんの許可を得てチユーズを彼女のお腹の中へと突入させた。報告によると四ヶ月らしい。そのことを報告する、とラペッタちゃんは益々喜びを露わにする。
「よかった、ちゃんと育ってくれてて」
「やっぱり、不安なものなのか?」
「えぇ、何度体験しても不安に気持ちになりますね」
俺がラペッタちゃんの貴重な体験を耳にする中、突然ドクター・モモからの緊急連絡が入った。いったい何事であろうか。俺は取り敢えず応対することにした。




