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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十七章 決戦への備え
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673食目 GS吉備津練度向上訓練

 珍GD、ゴーレムシップ吉備津を受領した俺は練度向上を兼ねて、ラングステン王国南部から大海原へと進出。GSの持ち運びは、なんとマジックカードに収容するというものだ。

 ただし、そのサイズは一畳ほど、重さもそれに比例する。バカ野郎。


〈フリースペース〉から、超特大のマジックカードを、ずりずりと取り出し中身を開放。

 のっけからGS吉備津に潰されそうになる。まったくもってシャレにならない。


 何はともあれ、大海原へと進水。現在はミリタナス神聖国沿岸を海洋中である。

 ここならば流氷もなく、座礁する危険性も低い。


「おう、おめぇら! 気合い入れて行けよ!?」

『まかせろ~』『ばりばり』


 不穏な空気を醸し出しているが、これはただ単に気合いを入れているだけだ。決して頭部に【!?】は浮かんでいないのでご安心していただきたい。


 実のところ、先の異形の巨人との戦闘に置いて、GS吉備津の弱点が早くも露呈してしまっていたことにお気付きであろうか。

 それ即ち、防衛力が低いという事である。あの時は偶々、プルルが駆け付けてくれたから良かったものの、最悪の展開としては、戦艦吉備津轟沈! なんてこともあったはず。


 そんなわけで、フィリミシアに帰港した後に、ドクター・モモと相談をして艦載機運用のための飛行甲板の増設を打診したのだ。

 そして、この変態は僅か三日で、それを作り上げてしまった。絶対に何か不正行為をおこなっているに違いない。さっさと吐くんだよ、おらぁん。


 そんなわけで、飛行甲板にずらりと並ぶ、緑色が眩しい戦闘機たち。その大きさ、標準的な段ボール箱にすっぽりと収まるサイズ。

 どう見ても玩具の飛行機である。しかも、プロペラ機とはたまげるなぁ。


「これは、流石に舐め過ぎなんじゃないですかねぇ」

「ふぇっふぇっふぇ、見た目で判断するのは悪い癖じゃぞ? わしが冗談で、このサイズにしたとでも思うとるんかい」

「ほぅ……それなりの理由があるというんだな?」

「そうじゃ、このサイズになった理由、それは……」

「それは?」

「予算オーバーじゃ」

「だめじゃないですかやだ~」


 意味深な含みを持っていた、と思ったらこの有様だよ。どうしてくれるのこれ?


「まぁ、そこはしっかりと作っておる。それにパイロットなら、おまえさんの治癒の精霊で良かろう」

「こいつらは一応、命を癒すのが仕事なんですがねぇ?」

『そんなことはない』『わるものたいじ』『やってやろうじゃねぇか』『うおぉぉ』『ぶっころしてやらぁ』『じゅうなんて』『すてて』『かかってこい』


 パイロットスーツに身を包んだ、五十人のチユーズたちが物騒な言葉を口走っていた。


 治癒の精霊とはいったい。うごごごご……。


 だが、おまえらに言っておく、ブリッジクルーまでパイロットスーツを着込むな。

 現在の艦橋はもぬけの殻だぞ。ばかちんがぁ!


「よし、それでは、訓練を開始する! 皆ぁ、乗り込め~」

『わぁい』


 ただし、艦載機は予算の都合で三十機しか用意できなかった。つまり、二十名のチユーズがお留守番という事になる。


『ももしきせんとうき』『はっかん』『やってやるぜ』『うおぉぉぉ』


 そう思っていた時期が俺にもありました。

 コクピットに乗れなかった、このばかちんども。プロペラ機の翼の上に乗って飛んでいきやがった。自由過ぎて何も言えねぇ。


「あいつら……戦闘機の上ならどこでもいいのか」

「ふぇっふぇっふぇ、元気じゃのう」


 午前十時に訓練開始、天候は晴天なり。

 低い唸り声を上げながら空を切り裂く戦闘機。モデルは零戦であり、艦戦、艦爆、更には偵察機としての機能も搭載してある万能機だ。

 コストの問題から超小型化してあるが、従来のサイズの戦闘機となんら遜色はないように作ってある、とのこと。


 しかし問題はパイロットだ。よりにもよって、チユーズたちを想定して作ってあるらしい。

 確かに、あいつらは暇人であるので打って付けとは言えるが、基本的にフリーダムだ。戦闘中に『あきた』とかいって戦闘機を、ぽいっちょ、するなんて平然とやってのける。

 そこに、憧れないし、痺れもしない。普通に「ふぁっきゅん」と罵るだ。

 果たして、彼女たちに任せて大丈夫であろうか。心配である。


「ふきゅん、意外ときちんと操縦しているな」

「まぁ、一応はアシスト機能を備えておるからのう。オートモードをマニュアルに切り替えない限りは問題なかろうて」

「ということは、殆どは戦闘機が自動的におこなっているってことか?」

「そういう事じゃ。ふぇっふぇっふぇ」


 ということは、最初からチユーズはいらなかった、ってことじゃないですかねぇ。


「成果は少し遅れてやってくる、と言ったところかのう」

「どういう意味なんだぜ」


 ぶんぶんと軽快に空を舞う戦闘機を見守りつつ、俺は釣りを敢行。狙うは大物だ。

 暫くは釣竿を持ったまま、チユーズたちの訓練をボヘッと眺める。この際どいGDスーツのお陰で寒さは感じない。視線は感じるが。


「なぁ、ドクター・モモ」

「なんじゃい?」


 俺同様に釣竿を持って釣りを楽しんでいるドクター・モモに訊ねる。彼は既に鯖を五匹も釣り上げていた。尚、大物狙いの俺は、いまだ釣果なしだ。ちくせう。


「このGDスーツの上に何か羽織るのはオッケーなのか?」

「GS吉備津を身に纏った後なら大丈夫じゃよ」

「なるほど。ならコートを用意しておくか」

「はて、寒くはなかろう」

「いや、ライオットの露骨な視線がな」

「ふぇっふぇっふぇ、若い者はええのう」


 これからは、戦艦吉備津に仲間たちを乗せることもあるだろう。その際に、前屈みになる者たちが現れる、と士気が下がる懸念がある。よって、俺はえろえろ白エルフであってはならないのだ。

 ハイエルフになる、という方法もあるが、隠れロリコンヌがいない、とは言い切れない。

 特にエドワードは、エルであればなんでもいい、とか平然と言ってのける男だ。


「実際、このGDスーツって、動き易いし肩の負担も驚くほど軽減されるから、常時着込んでいたいんだよなぁ」

「プルルと同じ理由かいな。あの娘も、発育が良くて苦労しているようじゃの」

「ふきゅん、尻がヤバいって言ってたんだぜ」

「桃尻は女性桃使いにとって、誇るべきものなんじゃがのう」

「色々あるんだぜ」

「ふぇっふぇっふぇ、そうかそうか」


 のんびりとした時間が過ぎて行く。次第に百式戦闘機たちが着艦してきた。


『ほきゅう』『いそげっ』『てきがくるぞっ』『さんぷんで』『しあげろっ』


 もちろん敵などいない。流石は雰囲気作りに定評のあるチユーズだ。

 百式戦闘機の燃料は、桃先生の果汁である。そのままだとエネルギー変換率が潤沢に行かないため、水で半分に薄めて使用するとのこと。

 もちろん、飲んでも美味しい。


「補給要員とかも、いた方が良さそうだな」

『ぱいろっとがいい』『おまえやれ』『やだ』『なんだと』『やるかっ』


 みゃ~、みゃ~、みゃ~、みゃ~、みゃ~、みゃ~、みゃ~。


 チユーズたちの喧嘩が始まってしまった。傍目にはじゃれ合っているようにしか見えない。しかも、怪我をした瞬間に他のチユーズが治療して延々と喧嘩は終わらないという。


「このバカちんどもぉ! そんな悪い子は戦闘機を取り上げますよっ!」

『もうしわけございません』『このとうり』『ひらにごようしゃを』『めんご』


 そして、この素早い土下座である。中には土下座をし過ぎて一回転している者もいた。それでは、ただ単にひっくり返っているだけだぞ。


「ふぇっふぇっふぇ、必死じゃのう。おっと、ヒットじゃ」

「くっそう、俺には全然当たりが来ねぇぞ」


 どうやら、戦闘機の追加を申請しなくてはならなさそうだ。それと、整備、補給要員もどうにかしなくてはなるまい。


 その時、俺の釣竿に当たりが来た。これはデカい! 大物だっ!


「うおぉぉぉぉっ! 来たぞぉ!」

「おぉ、これはなかなかの当たりじゃぞっ! 竿を持っていかれるでないぞ!」

「すまない、もう限界だ」

「じゃろうなぁ」


 というわけで、ザインちゃんにバトンタッチ。俺は彼女の可愛らしいおっぱいを掴んで、見事なサポートをする。もみもみ。


「お、御屋形様っ! ち、力が抜けまするっ!」

「くるしゅうない」

「馬鹿たれ、掴むなら尻じゃろ。安定するぞい」

「おっ、そうだな」

「にゃぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ふむ、安産型か。ザインちゃんの未来は明るいな。


 ドタバタしながらも釣った魚は、キハダマグロ……ではなく人魚の幼女であった。


「うぐぐ、にんげんめっ! わたしをどうするき!」

「食べる」

「ひぎぃ」


 釣ったからには食え、という掟があったりなかったりする。


 いいのかい? 俺に釣られちまって。俺は魚だろうが、人魚だろうが食っちまうんだぜ?


「まぁ、リリースじゃろうなぁ」

「そうだな、食べるなら、もっと大きくなってからだよなぁ」

「にんげんこわい」


 ビョクビョクする幼人魚を海にリリース。大きくなってから食うことにする。


「人魚って、白エルフと人間の区別がつかないんだな」

「知能はそこまで高くないんじゃろ。まだ進化の過程のようじゃしの」


 ドクター・モモは人魚族は将来的に四肢を持つに至ると推測。しかし、それは三千年ほど後になるだろうとのこと。

 まぁ、俺は平然と生きているであろうから、憶えていたら結果を確認しておこう。


 結局はドクター・モモの釣った鯖六匹が釣果となった。したがって、この鯖を使って昼飯を食べる。


 やはり、というか当然というか、ドクター・モモは戦艦吉備津に厨房を作ってくれていた。これを、ありがたく使わせていただく。


 まずはお造りを作成。これは簡単なのでささっと仕上げてしまう。


 お次は鯖の切り身を叩いてニンジンやらゴボウやらを加えてツミレを制作。味噌汁の具材とする。鮮度が良いから臭いは気にならないはず。寒い冬には、こいつが身も心も温まるというものだ。


 揚げ物を作る、竜田揚げを制作。ニンニクたれに長ネギをみじん切りにして、たっぷり加えた物を出来上がりに掛ける。

 ジュジュッという音、と立ち昇るスタミナチックな香りが胃袋を揺さぶる。むしゃあ。


 つ、つまみ食いなどしていないぞ! これはそう……味見だっ!


 鯖の味噌煮を制作。これは今食べないでフィリミシアに帰港後に食べる。丁度良い塩梅に味が染みこむであろう。


 あとは、なめろうを作ろう。まな板の上に鯖の切り身、味噌、シソ、生姜、ミョウガも入れておくか、を置いて包丁で叩く。粘り気が出るまで根気よくだ。

 途中で清酒を追加。更に叩く。ふっきゅん、ふっきゅん、ふっきゅん。


「うおぉぉぉ……パイパイが、ブルンブルンいうんじゃぁ」


 おっぱいが邪魔で、まな板が半分見えねぇ。

 仕方がないのでタオルで縛り上げる。多少はましになった。よって、叩く、叩く、叩く。


「ふきゅん、なめろう、完成です」


 お酒のおともに最高な一品の完成である。酒に合う、という事はほっかほかの白飯にも合うということだ。

 こいつを出来たてのご飯に合わせてもらおうというわけである。


 尚、俺が料理した際は、廃材という物は出てこない。鯖の頭と骨は油で揚げて、闇の枝が美味しくいただきました。


「ふきゅおん!」

「そうかそうか、美味かったか」


 これで、命をくれた鯖に報いる事ができたであろう。さぁ、俺達も命をいただくとしようか。


「いただきます!」


 まずはツミレ入りの味噌汁を、ずずずっとやる。味噌の風味が心を安心させ、同時に身体をぽかぽかと温めてくれた。もちろん、ツミレも美味しい。

 これだけで、ごはん三杯はいけるように作ってあるから当然だ。


 お次は、お造り。これも文句の言いようのない味。鮮度も良好なので身が引き締まっている。醤油に付けた切り身をご飯の上に載せて、ご飯と共に口に運ぶ。そして咀嚼。

 混然一体となった味は日本人なら間違えようのない味だ。美味いっ。


 おおっと、冷めない内に、鯖の竜田揚げを食べなくては。

 さくっ、かりっ、じゅわっ、と三位一体の攻撃が口内で炸裂。そこにスタミナたれの、ガツンとした一撃が追加されるとノックダウン確定だ。

 タオル代わりの白飯を口内に投げ入れて試合終了。続けて第二試合へと移行する。


「美味しゅうござります! はむはむ」

「ふぇっふぇっふぇ、真昼間から飲む酒もいいもんじゃ」


 ザインちゃんは、白飯をはむはむと食べ進める。終始笑顔だ。

 対してドクター・モモは、なめろうを肴に、清酒をやっつけていた。かなり辛口の清酒だ。


「おいぃ、真昼間から酒だなんて……素晴らしい」

「じゃろう? まぁ、おまえさんは酔わない体質じゃったか」

「ふきゅん、悲しいなぁ」


 というわけで、俺も清酒をちびりとやる。ザインちゃんは、なめろうを白米に乗せて、がばぁっ、とお口の中へ投入。至福のひと時に浸る。


 俺達はちびり、ちびり、となめろうを舐めるように味わいながら、辛口の清酒を味わう。

 味噌の味と薬味の織りなす複雑玄妙な味わいが、俺達の手を加速度的に清酒へと向かわせる。止まらない、止められないっ!


 あぁ、鯖の命が身に沁みるんじゃあ……。


 こうして、GS吉備津の優雅な練度向上訓練初日は幕を下ろしたのであった。


 尚、サバの味噌煮は見事な完成度となっていた。美味しかったです!

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