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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十四章 カオスなヤツら
582/800

582食目 異形なる者

「薙ぎ払えっ!」


「はっ!」


 村の外れに位置する寂れた倉庫の屋根にて、言いたい決め台詞のトップクラスに位置する台詞を言えて満足した俺の視界には、赤々と燃えるベードル村の姿があった。


 暗部の連中のアジトがある倉庫の上は村の全貌が見て取れる。連中はここで村を監視していたのかもしれない。


 まぁ、愚者たちに対しては何も思うところはない。さっさと村から逃げ出してエルティナの下で奉公すればいいさ。


 やがて異変に気が付き、蜘蛛の子を撒き散らしたように逃げ惑う人々に対し、幼きカオス教団八司祭、閃光のバルドルは心境を口にした。


「あはは! 見てください、御子様! 人がゴミのようだ! あははははは!」


 こいつはマジキチだ。元ネタを知らないのに、自然とその台詞を口にしてやがる。しかも容姿が可愛らしい金髪碧眼の男の娘なのだから性質が悪い。


 というか、こいつは何から何までたちが悪いな!? 責任者おや、出てこい! くるるぁ!


「バルドル……恐ろしい子っ!」


「激しく同意します」


 一方、こちらの八司祭は己の行為に胸を痛めていた。気持ちは分からないでもないが、これも世界を正しき姿に戻すためだ。どうか耐えてほしい。


「よし、いいぞ。今のところは暗部の連中には気付かれていない。もうすぐ村人どもも逃げおおせるだろう。逃げれなかったヤツは知らん」


 モーベンの放った火は既に村を紅蓮の炎で埋め尽くしている。あの炎の中で生きていられる者は皆無だろう。エルティナは除外するが。


「よし、バルドル、頼む」


「はっ、仰せのままに!〈カムフラージュ〉発動!」


 バルドルは全ての素質がSランクという破格の才能を秘めているが、特に光属性の魔法を得意としている。これにより、バルドルが【閃光】の二つ名を頂くことになった。


「御子様、魔法の展開が終了しました!」


「早いな、流石はバルドルだ」


「あ、ありがとうございます! 心より、お慕い申し上げます!」


「う、うむ」


 顔を赤く染めて瞳を潤ませるのはやめろ。繰り返す、顔を赤く染めて瞳を潤ませるのはやめろ。


 バルドルの、その美少女面でやられると破壊力が凄まじい。バルドルが男であることを忘れそうになる。断じて俺は【ほもぉ】ではないのだ。


「愛とはまこと、罪でございますなぁ」


「うるせぇ、悟ってんじゃねぇよ」


「これはご無礼。御子様、突入にはいい頃合いかと」


 モーベンの言うとおり、突入するにはいい頃合いだ。時間も惜しいことだし、おっぱじめることにしよう。


「よぉし、これより邪教徒どもの中でも、特に腐っている者どもを駆逐する。各自、奮闘を期待する」


「「はっ!」」


「それでは突入!」


 俺は全てを喰らう者を解き放ち、倉庫、そして拠点の天井……つまりは倉庫の床を全て貪り尽した。そのことによって、俺たちは暗部の連中の拠点へと落ちることになる。


 下までかなり距離があるが、この程度で大ケガをする者などカオス教団八司祭にはいない。大丈夫だ。



 ぐきっ。



「どどりあんっ!?」


「「御子様っ!?」」


 なんということでしょう、トウキチロウは着地の際に足を挫いてしまったではありませんか。その衝撃はすさまじく、身体が未成熟なトウキチロウでは衝撃を吸収しきれなかったのです。


 お、俺は八司祭じゃないからセーフ! カ、カオス神の御子は狼狽えないっ!


「足を挫いただけだ致命傷じゃないそれに足はただの飾りですカオス神の御子は現状で百パーセント性能を発揮できますタイサナラキットデキマスヨ……たしけてモーベンいたいっしゅっ」


「おごごごご……くっそ痛い! 久しぶりに痛いという感覚を味わったぞぉっ!」


 これも全部、暗部の連中が悪いんだ、そうに違いない。きっとそうだ、ユルサン。


「しっかりなさってください! 暗部の連中が呆れておりますよ!?」


「い、痛いのですか、御子様! わ、私が裸で温めた方がいいですか!? いいですよね!?」


 バルドル、どさくさに紛れて服を脱ごうとするんじゃねぇ。いいや、そうじゃない。折角、格好良く決めようとしてたのに、なんでこうなった? なんでこうなった?


「な、何者だ!? 我らが女神マイアスに選ばれし誇り高き戦士と知っての狼藉か!」


 ここでようやくお決まりのセリフを炸裂させる暗部ども。言うのがおせぇよ、もう滅茶苦茶だよ。どうしてくれるの、これ。


「初めてですよ、ここまでコケにされたのは。絶対に許さんぞ、絶対にだ!」


 もういい、強引に纏めてくれる。カオスな展開なら毎度のことだ。


「なんで怒っているんだ!? 寧ろ、今の会話でコケにされる要素があるのか!?」


「というか、誰だおまえらは!?」


 暗部の的確なツッコミはスルーする。捻挫の痛みで怒りがMAXになっている今の俺は質問に答える気などない! 早く帰って休みたい! ちくしょう!


「虫けらどもぉ! 楽に死ねると思うなよぉ!」


「「「「いきなりキレたぁぁぁぁぁっ!?」」」」


 拳を握りしめ集中線の効果を発動させた俺の迫力に、クソザコナメクジの暗部どもは恐怖したに違いなかった。俺を怒らせる、おまえらが悪いのだ。


「じゃ、後はよろしく。足が痛いから動くのやだ」


「「ははっ!」」


「「「「しかも、他人任せっ!? 何がしたいんだ、おまえはっ!?」」」」


 戦いは始まった、虐殺の許しを得たバルドル。彼はそれはもう活き活きとしておりました。えぇ、予想どおり、俺が戦うまでもなかったです、はい。


「……することがございませんねぇ」


「元々、バルドルの発散が目的だからなぁ」


「えっ!?」


「えっ!?」


 治癒魔法を受けていた俺とモーベンの会話である。はて、どこかおかしな部分があったであろうか? 分からん。


「はぁはぁ、ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ! 最高っ! ほらほら、もっとおねだりしてもいいんですよぉ? どんな死に方がいいですか? あはは、良い感じに潰れてますね!」


「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!? なんだ、この娘は!」


 閃光のバルドルとはいったいなんだったのであろうか? 彼は一切魔法を使わず素手で暗部の連中をすり潰していた。しかも案の定、少女と間違われている。その内、二つ名が【虐殺少女バルドル】になってしまいそうだ。


「バルドルは、ユウユウちゃんと気が合いそうですね」


「バルドルをアレに会わせたら絶対にダメだぞ。世界再生の前に色々と終わってしまう」


 あれと友人にでもなったりしたら、「友達です」とかホーム感覚でカオス教団本部に招きそうで怖い。

 それに、あいつの正体は間違いなく茨木童子だ。会ったら何をされるか分かったものではない。なんでよりにもよって、転生先にあいつがいるんだよ。まったく。


「く、くそっ! アイツを出せっ! このままでは皆殺しにされてしまう!」


「だ、だが! あれは強化し過ぎて制御が……!」


「遅かれ早かれ起動させる予定だったんだ! 構うものか!」


 切羽詰まった暗部の一人が隠し扉を開き中へ入ってしまった。そんな場所に隠し扉とか卑怯でしょ? じゃけん、全てを喰らう者でムシャムシャしちゃおうね~?


 俺は全てを喰らう者を呼び出し扉の奥へと突入させた。そこで感じたのは今まで感じたことのない違和感。


「戻れっ!」


 直感に従い全てを喰らう者を戻す。だが……!


「っ!? 首から先がない……食われたのか!」


 あろうことか、全てを喰らう者の頭部がなかった。全てを喰らう者に干渉できるのは、全てを喰らう者のみ。まさか!?


 それは扉の先からゆっくりと姿を現した。歪な形をした人もどきとでも言えようか。頭には目が八つ、口も八つ、耳も八つ。腕は床に届くほど長い。足は六つもある。

 その長い手に持っているのは先ほど扉の先へと逃げ込んだ男の頭だ。その顔は恐怖で彩られている。


「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ」


 金切声を上げながら異形は何かを解き放った。それはあってはならない存在だ。


「す、全てを喰らう者!?」


 それは確かに、全てを喰らう者と同じ性質を持つ存在だった。だが、微かな違和感。しかし、それが何かは分からない。


「は、ははははは! 魔女エルティナ用に生み出された【聖獣メグランザ】だ! 女神マイアスに祝福されし我らに与えられたこの聖獣に滅ぼされるがべっ!?」


 台詞を言い終わる前に聖獣とやらに貪り食われた暗部の男。どうやら聖獣とやらは、相当に腹を空かせているらしい。動くもの見るものを手当たり次第に口に運んでやがる。


「女神の野郎……遂にここまでやるか」


 アレのベースは間違いなく吸運の儀で犠牲になった者だ。しかも女。見るに堪えない。


「モーベン、バルドル、油断はするな。場合によっては【解放】する」


「「はっ!」」


 予想外の展開に驚きはしたものの、やることは変わらない。既に暗部どもは聖獣に全員食い殺されている。あとは、あの哀れな存在を救ってやるだけだ。


「舐めるなよ……全てを喰らう者の使い方ってヤツを教えてやる」


 俺は目の前の獲物に対して、残りの全てを喰らう者を解き放った。

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