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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十三章 珍獣のミリタナス神聖国復興記
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578食目 激烈! びふぉ~あふた~!

 季節は移ろい、ざまざまな姿を見せてくれる。四季折々の可憐な花が咲き誇り、実を付け、次代へと繋げてゆく姿を見て俺は感極まった。


「いやぁ、やればできるもんだぁ」


「まったくでございます。これも全てエルティナ様の活躍があってのこと」


 俺はボウドスさんと共に大神殿の一室から聖都リトリルタースの光景を眺めていた。ミリタナス神聖国復興計画が開始されて早くも四年が経過している。その間に色々大変なことがあったが、それも良い思い出だ。


「えりゅてぃにゃ、いいあしゃでしゅね」


「ミレニア様、おはようなんだぜ」


 とてとて、とオッドアイの銀髪幼女が歩み寄ってきた。この国の教皇であるミレニア様である。

 彼女はいくら時が経とうとも成長の兆しがなかった。それはロッド・オブ・ミリタナス内に彼女の魂が囚われているからである。


 しかし、今もって解放方法が分からず、彼女は赤子のままという不便な状況を強いられていた。このままではミレニア様のストレスが限界を突破し禿げてしまう。

 その前にボウドスさんが限界だ。彼女の夜泣きによって目の下は黒く染まりきっているのだ。


 そこで俺は自分の身体の特徴に着目した。俺が大きくなったり、赤ちゃんに逆行するのは、肉体を構成する大部分が桃力で出来ているために起こる現象であることが、トウヤによって判明したのだ。


 そこで、俺はミレニア様に桃力を少しずつ注ぐことを思い付いた。一気に注いでしまうとパンクしてしまう恐れがあるので毎日これをおこなう。

 するとどうだ、まったく成長しなかったミレニア様の身体が成長し始めたではないか。


 流石は桃力、困ったら桃力に頼れば全部解決だぜ。


 それほどでもない、と謙虚な返事が返ってきて、俺はますます桃力を尊敬する。とはいえ、頼りっきりではいけない事は重々承知しているし、私利私欲に使うなどもっての外だ。

 桃力の使用の際は、用途仕様を十分に理解して使用しなければならない。俺との約束だ。


 毎日忘れずに桃力を注いだ結果、ミレニア様は自力での二足歩行と、舌足らずではあるが喋れるようになったのである。やったぜ。


「きょきょまで、みりたにゃちゅが、ふっきょうしゅりゅとは……きゃんむりょおでしゅ」


「ふっきゅんきゅんきゅん、これも皆が努力した結果だぁ」


 ボウドスさんに抱っこしてもらい、ほぼ復興が完了した聖都リトリルタースを眺める銀髪の幼女。その大きな目には光るものがあった。

 そして、俺は爽やかな風に吹かれながら激動の日々を思い出す。



 ふ~ん、ふふふふ~ん、ふふふふ~ん、ふ~ん、ふふふ~ん。あ、これBGMな?



 荒れ果て荒廃した聖都リトリルタース。古き歴史を伝えてきた聖都は無残にも戦争によって破壊しつくされ、貴重な文化を失ってしまいました。


 そこに立ち上がった匠が一人。変幻自在のクラフトマスターと呼ばれる、エルティナという人物でした。

 それでは、彼女とその仲間たちによって復興された聖都リトリルタースの姿をご覧ください。






 戦争によって荒廃し腐臭だけが漂う、かつての都リトリルタース。そこには、もう人の姿はなく、寂し気な風と物言わぬ骸だけが存在する死の町でした。


 それが、なんということでしょう。匠の超特殊能力によって見事に整地され、かつての聖都の姿を取り戻しているではありませんか。


 更に驚くことに町にそびえ立つ天を貫かんばかりの大樹からは止めどもなく水が流れ出て川を作り出していたのです。

 その流れは乾ききった大地に潤いを与え、結果としてリトリルタースの町の悲願であった緑が、その姿を見せていたではありませんか。

 もう聖都リトリルタースが渇いた聖地と呼ばれ嘲笑われることはないでしょう。


 ミリタナス神聖国の象徴的建物【大神殿】。これも先の戦争で完膚なきまでに破壊されてしまいました。


 ですが、それもご覧のとおり、匠たちの手によって完全に修復されたのです。これには匠だけの力ではなく、ミリタナス神聖国復活を望む多くの人々の協力がありました。


 多くの人々の記憶を募り、かつての大神殿にあった小さな傷跡ですら復元していったのです。その結果、以前の大神殿にも劣らないほどの荘厳な神殿が出来上がったではありませんか。


 乾いた風と砂とで覆われたミリタナスの大地。そこは、いかなる植物をも拒絶し生命を奪い尽くす死の砂漠が広がっていました。


 ですが、なんということでしょう。現在では、そこに緑溢れる大地が広がっているではありませんか。

 匠の力によって死の砂漠は姿を消し、今では命を繋ぐ農作物がミリタナスの大地を埋め尽くしていたのです。


 そこには畑の天敵として忌み嫌われているモグラたちが、せっせと汗水をたらして畑仕事をしている姿がありました。

 匠は労働の尊さと、人との共存をモグラたちに提案し、彼らはそれを受け入れたのです。


 これにより、命を無駄に失わせることなく人との共存、そして発展に貢献することになり、遂には【もぐ権】という権利を獲得するに至ったのです。


 匠はこれで復興の完了を良しとはせず、更なる一手を打ちました。それが町を囲むように生息するサンドドラゴンたちの防衛網の構築です。しかし、それだけには飽き足らず、遂には聖都と地方の町を結ぶ街道にまで開発の根を伸ばしたではありませんか。


 今ではサンドドラゴンに護られながら安全に聖都にまで足を運べることもあり、敬虔な巡礼者たちで街道はかつてない賑わいを見せているのです。



 こうして、匠のリフォーム……もとい、復興はすべて終了しました。



「ふきゅん、こんなところだろう」


 俺はそっとノートを閉じた。そして「ぷひっ」とため息を吐く。決してオナラではないので安心してほしい。


「エルティナ様、少しばかり無理をなさっておいででは?」


 心配をするボウドスさんは俺の顔を覗き込んできた。現在では彼の目の下に生息していた隈は「こんなところに住んでられっか!」と捨て台詞を残し引っ越ししていた。


「無理も何も……無理しないと終わらないんですわ」


 その隈たちは現在、俺の目の下に引っ越し中である。というのも……宿題がじぇんじぇん終わらないのである。正直、舐めてた。


「流石は五年分、一年あれば余裕で終わるかと思ってたが……まさか、復興日記を付ける宿題が紛れ込んでるとか卑怯でしょ? アルのおっさん先生汚い。流石、アルのおっさん先生……汚い」


 白目痙攣しながら浮かび上がるのは、にこやかな笑顔を浮かべる邪悪なティーチャーであった。


 おのれ……許さん、絶対に許さんぞぉ! ミランダさんにある事ない事吹き込んでくれるわ。ヤツはミランダさんにスクール水着を着させる計画を練っていると!


 あ、これって二年前に実行したんだっけか? 変態的計画が多過ぎて覚えてられん。


「だから、といって身体が退行するほどの無茶はいけません」


「ふきゅん」


 ボウドスさんの言うとおり。俺はここのところ常に五歳児程度の肉体を維持している。寝ても覚めてもこの状態から変化しなくなっていたのだ。

 トウヤの調べによれば、これはストレスが原因であるという。しかし、別に命に別条があるわけではないので気にするなとも言われている。よって、放置することにした。


 成長しても悪夢の肉体になる可能性が高い。共にこの国で活動するライオットやクリューテルの身体的成長は著しく、出るところは出ているし身長も伸びに伸びていた。ハッキリ言って、どチビなのは俺だけである。


「おごごご……復興に目途が付いていなければ即死だった」


 計算によれば、このままがんばれば卒業までに宿題は終わることが判明している。尚、ライオットは既に宿題を諦めていた。あんにゃろうめ。


 もちろん、クリューテルは優秀なので毎日コツコツと宿題を進めていたらしい。俺もやっておけばよかった。とほほん。


「取り敢えずは一休みなさってはいかがでしょうか」


「そうでちゅよ、むりをちてはいけましぇん」


 俺を心配する二人にそう諭されてしまっては「NO」とはいえない。俺は「しかたがにぃな」と筆を置き一休みすることにしたのであった。

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