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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十二章 真なる約束の子
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554食目 宴ー3

 俺はてくてくと歩きながら【MIA】について考えていた。ラングステン英雄戦争と呼ばれた戦いにおいて、勇者タカアキもまた行方が知れなくなっていたのだ。


 彼が行方不明になっていることは、まだ公にしてはいない。この段階で公表してしまっては市民に多大なる動揺を与えてしまうことになるからだ。


 また、彼の妻であり俺の治癒魔法の師でもあるエレノアさんも行方知れずだ。極めて心配であるが、俺も立場的にホイホイひとりで捜索に出ることもできない。

 もどかしさに胸がふぁっきゅん、ふぁきゅんしているのが現状だ。


「お、エル。珍しいな、一人なのか?」


 俺に声を掛けてきたのはクラスメイトの獅子の獣人ライオット・デイルであった。おびただしい数の食べ物を抱えている。一人で食べるつもりなのだろうか。


「ふきゅん、ライか。相変わらず酷い買い食いの仕方だな。お小遣いなくなるぞ?」


「大丈夫さ、もうないからな」


「それは大丈夫とは言わないんだぜ」


 予想どおりの答えに不思議な安心感を覚える。彼だけはいつどんな時でも平常運転であった。

 ヒュリティアが行方不明になった、と言った時でも彼はいつものように、こう答えたのである。


「ま、その内帰ってくるだろ。あいつがエルを置いて、いなくなることなんてねぇよ」


 その自信に満ち溢れた表情に、皆の肩の力が抜けたのは言うまでもないだろう。仲間を無償で信じ切る彼の真っ直ぐな精神に救われたクラスメイトは数知れない。俺もその中の一人である。


「ところで、もう身体の方は大丈夫なのか? 縮んだり大きくなったりで忙しいな」


「大丈夫だ、問題ない」


 ライオットの言うとおり、俺の身体は縮んだり大きくなったりで忙しい。それもこれも、大抵は神気と桃力を使い過ぎるために起こる反動であることが判明している。


 現在では魂の成長によって安静にしていれば、約一日で赤ちゃん状態から幼女へと戻ることが可能だ。そして、十歳の身体に戻すには二日ほどかかる。

 このことにより、あまり無駄に使うことはせず、計画的に神気と桃力を操る必要性が俺に生じたのである。でも使っちゃう、びくんびくん。


「ところで、あの骨たちはいつまでいるんだ?」


「あぁ、ロストヒーローズか。きっと、この宴が終わったら再び眠りに就くと思う」


 骸骨の戦士たちは宴の隅っこで腰を下ろし静かに戦士たちの姿を見守っていた。中には冒険者たちに混じってビールを煽る者もいたが、身体を貫通して地面にビールを捧げてしまっている。それでも、同じ行為をするのだから筋金入りの飲兵衛なのだろう。


「彼らがいなければ、この戦いもどうなっていた事やら」


「ヒュリティアのお陰だな。早く戻ってこないと宴が終わっちまうぞ。ったく」


 ライオットは露店で購入したホットドックをむしゃむしゃと頬張り悪態を吐く。

 ホットドックはヒュリティアの好物だ。ひとたび俺がホットドックを作れば、地の果てからでも駆け付ける謎のスキルを彼女は有していた。


「案外、エルがホットドックを作れば月から飛んでくるかもな」


「……かもな」


 ライオットと別れた俺は再び宴の中を漂う。次に出会ったのはハマーさんとゲド親分だ。


 彼らは相も変わらず不仲であった。ビールジョッキを片手にいがみ合いを繰り返していたのである。


「この死に損ないのハゲが!」


「黙れ、髭!」


 やれ態度が気に食わないだの、堅物過ぎるだのと罵倒し合っているのにビールの追加を頼む時はタイミングが一致するという謎の協調性を披露していた。

 喧嘩するほどなんとやら、である。


 先の戦いであっても彼らは互いを罵倒しつつ背中を預け合った、と聞き及んでいる。

 激しい戦いで多くの部下を失った両者であったが、同時に掛け替えのない戦友を得たということなのだろう。


 だが、この二人を仲裁する部下たちが不憫に思えるのは錯覚ではない。取り敢えず、生暖かい目で見守るしかできない俺を許してほしい。


 次に出会ったのはミカエルたち聖光騎兵団である。生き残ったのは僅かに三十名、多くの若き騎士たちがこの戦いで命を落とした。


「エルティナ様!」


 一際明るい表情で俺を出迎えてくれたのは、精悍な顔つきへと成長を遂げたミカエルである。その端正な顔つきから、すれ違う女性に振り返られる事は日常茶飯事と化していた。


「やぁ、皆。宴を楽しんでくれ。先に逝った連中の分もな」


 これほどの戦死者を出したにもかかわらず、彼らは俺に忠誠を尽くしてくれていた。それが俺にある決断を迫らせる。


「もちろんでございます。いつか、そこに逝った時にでも自慢してやります」


「そうそう、ま、僕は当分そこに逝くつもりはないけれどね」


「サンフォ、そういう事は口に出すな」


 ミカエル、メルト、サンフォ、いつもの三人組のやり取りに思わず笑みが浮かぶ。俺の笑みに釣られたのか、聖光騎兵団の面々からも笑みが溢れ出た。


「ところでエルティナ様、今後の予定はどのように?」


「あぁ、もう大体は決まっているよ」


「さようでありますか。我々はどのような状況下であっても、貴女様の剣であり盾でございます。そのことをお忘れないよう」


「ありがとう」


 聖光騎兵団の忠誠心にありがたくも心苦しいと感じた俺は、彼らに宴を楽しめと命じ、【バックステッポゥ!】でその場を後にした。

 あまりに華麗な移動方法だったので人目につくのは仕方のないことであろう。


 と、ここで俺はゴーレムギルドの面々を発見した。GDリベンジャーのお礼と謝罪を伝えるべくその一団へと駆け寄る。


「おう、エルティナか。楽しんでいるか?」


「やぁ、ドゥカンさん、ドクター・モモ」


「ふぇっふぇっふぇ、どうやら、もうGDは着れないようじゃな」


 俺は改めてGDリベンジャーを作り出してくれたこと、そして戦いによって失ってしまったことを彼らに感謝し、そして謝罪した。


「いいんじゃよ、おまえさんさえ生き残れればのう」


「そうじゃ、GDリベンジャーは、そのために作られたのじゃからな」


 そう言ってドゥカンさんは桃のカクテルをグイッと飲み干しため息を吐く。このカクテルは両者の好む酒であるようだ。


「それに、おまえさんはGDリベンジャーに感謝されたのじゃろう?」


「それは……」


「そして、GDリベンジャーは満足して逝ったんじゃろうが。兵器として作られた存在が満足して逝けるなどそうそうないことじゃぞ?」


 確かに俺は輪廻の輪の中でGDリベンジャーの「ありがとう」を聞いた。そして、半身のような存在の最期を見届けた。

 だが、リベンジャーを作ってくれた彼らはどうだというのだ。彼らの情熱が詰まったGDを俺は失わせてしまったのだ。


「そのことなら気にせんでええわい」


「壊れたのなら直せばええ、失ったのならまた生み出せばええ、それだけじゃて」


 その答えに俺はポカーンと間抜けな表情を晒す。そうだった、この人たちは心まで鋼鉄でできた逞しい人たちであったのだ。


「ありがとうなんだぜ」


「なんじゃい、改まって。こそばしいじゃろうが」


「ふぇっふぇっふぇ、束の間の宴を存分に楽しめ、エルティナよ」


 俺はゴーレムギルドの面々に送りだされ、再び宴の中を漂う。ふよふよと、ゆらゆらと。

 やがて、俺は桃先生の大樹の根元へとたどり着いた。

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